その朝、白みかけた空に星が三日月に抱かれるように見えていた。
あれほど最近は電話の音が鳴るごとに一瞬びくっとするほど反応していたのに、昨日の朝は病院からの電話だと起こされた。
いよいよだ、いよいよになった。
9月20日、5時34分、母は永眠した。
前日、私は午前中から病院で母の傍にいた。
母は泣いていた。数回酸素吸入での呼吸をすると、また泣き出した。
その状態が夜からだと聞いた。
時折私を確かめるように目を開けた。その合間に「おかあちゃん。」「啓子」と助けを求めるように声を出した。
私は耳元で「お母さん、ここにいるから大丈夫。」「おかあちゃんもお父さんも惣一も健ちゃんもみんなここにいるよ。」
手を握り、頬を撫でずうっとそれを繰り返した。
夜になりお医者さんを呼び少し眠れるようにお願いした。
しばらくして母はようやく寝息を立て始めた。
私は迷った。ここに留まるべきかと、しかし正直怖かった。目の前で亡くなったらどうしようか。まだ大丈夫だ。また明日くれば会える。
車に戻り、私は一人号泣した。誰もいない病院の駐車場でしばらく思い切り泣いた。
しかし、母は一人で旅立ってしまった。
母が亡くなって分った。母は、私のことを自分以上に大事に思ってくれている人だったと。その人を失ったのだと。
その存在が母だったと。
月はやせ細ってても、星を見守り支えてくれていた。
なのに私は月になれなかった。
今、母の枕元でこれを書いている。眠れないのだ。
でも,母は最期の私への大きな贈り物を残してくれた。
母の寝顔は穏やかでまさしく母の顔だった。
私は救われた。
「ありがとう。おかあさん。」
今度は私が月になる。
今夜も空にいっぱいの星が挙がった。
静かな美しい夜だ。
その夜も、もうすぐ朝が来る。








