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2016.11 足立美術館は「庭園もまた一幅の絵」をコンセプトにした日本庭園が素晴らしい 

2020年02月17日 | 旅行

2016.11 島根を行く ⑤足立美術館    日本の旅・島根の旅

道の駅・掛合の里で蕎麦定食
 三瓶山東の原駐車場でナビに足立美術館を入れる。高速道路を利用すると1時間47分、一般道は1時間53分、さほど時間は変わらない。12時過ぎだったので、途中で休憩を兼ねてランチを取ることにし、一般道を選ぶ。
 初めての道である。山あい、林、農地、緑地、家並みなどを抜け、国道45号線に出る。雲南市に入り、車が増えてほどなく道の駅・掛合の里が見えた。食事の看板もある。掛合はカケヤと読むそうで、故竹下登旧総理大臣は旧掛合町の出身だそうだ。
 食事処の窓際の席に座る。龍頭が滝定食がおすすめらしい。龍頭が滝は日本の滝百選にも選ばれていて、高さ40mの雄滝、30mの雌滝が激しい流れを見せ、観光名所になっているらしい。名所にちなんだ定食も気になるが会席風である。夕食に会席を予約してあるので、ランチは蕎麦定食にした。割子そばではなく、ザルにのった蕎麦だがしっかりした味だった。島根はどこで食べても蕎麦はおいしそうである。
 龍頭が滝は国道45号線から県道を経て山道の奥およそ5kmほどのようだが、寄り道せず先を急ぐことにした。

足立美術館 
 14:15ごろ、足立美術館駐車場に車を止める。大型バスが何台も止まっている。旅行社企画のツアーにも組みこまれているようだ。
 足立美術館は足立全康氏が渾身を込めてつくり上げた美術館で、横山大観を始めとする収蔵品のレベルも高いが、足立氏のコンセプトである日本画との調和を目指した日本庭園の見事さも高い評価を得ている。
 足立全康氏(1899-1990)は農家に生まれたが農家の限界を感じ、商いの道を選ぶ。商才があったようで、やがて繊維問屋を営み、不動産も手がけ、財をなした。小さいころから日本画が好きで、横山大観(1868-1958)の名作を始め、竹内栖鳳、川合玉堂、上村松園、北大路魯山人、河井寛次郎、林義雄らの作品、130点を収集した。足立氏は広く社会に還元しようと、1970年、足立美術館を開館する。足立氏は庭造りにも関心が高く、横山大観の日本画にふさわしい日本庭園をデザインするなど、自らも造園を手がけた。

 webには、アメリカの日本庭園専門雑誌・ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニングが行っている日本庭園ランキングで、「庭そのものの質の高さ」「建物との調和」「利用者への対応」などが総合的に判断され、2003年から16年連続日本一に選出されている、と紹介されている。フランスの旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」でも日本庭園が最高評価の三つ星を獲得しているそうだ。


 広い駐車場の隣に2階建ての新館が建っている。新館にも展示室とミュージアムショップがあるらしいが、新館横を抜けて庭園のある本館に向かう。入館料は2,300円で美術館としては高いが、さっそく正面玄関左には「歓迎の庭」と名付けられた造園が目を楽しませてくれる(写真)。四季折々の彩りで来館者を迎える趣向のようだ。緑に紅葉が混じり秋の深さを感じさせていて、本館庭園も料金相応の見応えを期待させる。

 入口ロビーはかなりの混み合いだった。外国人も少なくないが、ツアーの団体が多い。来館者は年間に60万人を超える。単純計算で1日に1600人以上の来館者があり、1時間あたりで230人を越えてしまう。人気の観光地になっているようだ。

 ロビー右の陶芸館を後回しにして、折れ曲がった通路を進む。通路には大きなガラス張りの開口が設けてあり「苔庭」が見える(写真)。白砂が緑の苔に縁取られ、ゆるやかな曲線を描きながら奥に伸びている。樹木で奥が隠されているため、深遠な奥行きをイメージさせる。苔のあいだの飛び石の先に石橋が架けられている。白砂を水面と見立てているようだ。こうしたつくりは京の庭園を連想させる。
 庭園マップを見ると、右上、本館北東に「亀鶴の滝」、北の中ほどに「「枯山水庭」、左上、北西に「白砂青松庭」、左下、南西に「池庭」、そして本館にはさまれた北側の「苔庭」が配置されている(図、web転載)。本館北側の庭園は日当たりがいい。手入れは大変だろうが、生命力にあふれた庭園が楽しめることになる。
 「苔庭」を眺め、右に折れると正面の「枯山水庭」が目を奪う(写真)。遠くの山並みを借景した、庭の先の木立、岡に屹立する立石、刈り込まれた植え込み、なだらかな起伏の芝、手前の白砂の構図は、立石から流れ落ちる滝が谷を削り、うねりながら野を流れ、白砂の大河に注ぎ込む雄大なイメージであろう。
 この「枯山水庭」を始めそれぞれの庭は、足立氏の信念である「一幅の絵」として形を変えないようにつねに手入れされているそうだ。
 「枯山水庭」を眺める窓に面して喫茶室が設けられていて、一幅の絵を眺めながらくつろぐこもとできるが、かなり混み合っている。

 喫茶室を過ぎた壁面に額縁のように横長の開口が設けられている。足立氏の信念である「庭園もまた一幅の絵」の演出で、庭園を一幅の絵として鑑賞する「生の額絵」である(写真、web転載)。手前に樹木が伸び、中景に刈り込まれた植え込みが色鮮やかに配置され、遠景の樹林が視界を止めて空間密度を高めている。琳派の技法だそうだ。大勢が「生の額絵」にカメラを構えていて、写真を撮ることができないほどだった。
 「生の額絵」の隣のガラス窓から右奥に「亀鶴の滝」が見える(写真)。小高い丘に高さ15mの人工の滝がつくられていて、勢いよく渓流が注いでいるらしいが、肉眼では判然としない。もちろん、瀑布の音は聞こえない。横山大観の「那智乃瀧」をモチーフとしているそうだ。目をこらし、想像力をたくましくして、大河に流れ落ちる滝をイメージする。

 順路は中庭を回って南西の「池庭」に向かう。広々とした池には鯉が泳ぎ回っていた。この庭の緑は北面を見せている。足立氏は、本館北側の南面を見せた躍動的な庭園と、北面を見せた静的な「池庭」を対比的に鑑賞する趣向だったのかも知れない。が、庭園の造形に関心が向いていて南面・動、北面・静の差は読み取れなかった。

 「池庭」の先の和室の床の壁面には縦長の掛け軸をイメージした開口があり、この開口から「生の掛軸」を鑑賞する仕掛けになっている(写真、web転載)。確かに一幅の掛軸を見ている気分になる。これこそが、足立氏の信念である「すぐれた技法の日本庭園は一幅の絵」であり、名画を鑑賞するように庭園を鑑賞すればいいと主張しているようだ。

 中庭を回り、本館北西に配置された「白砂青松庭」を眺める(写真)。パンフレットには、横山大観の「白沙青松」をイメージしてつくられたと紹介している。横山大観は教科書で習うし、展覧会でも鑑賞する。個人的には、大観の絵は壮大、豪放、磊落といったイメージである。「白沙青松」が記憶にないので「白砂青松庭」とイメージが重ならないが、「白沙青松」の主題を抽象化して「白砂青松庭」に再編成したのであろう。パンフレットには、右の黒松と左の赤松の対照的な調和美に言及している。黒松の黒い木肌、男性的な枝振りに対し、赤松の赤みの木肌、女性的な枝振りの対照をとらえるのは、肉眼では難しい。大空、山並みを借景にした磊落な「一幅の絵」を感じるにとどまった。

 「白砂青松庭」の鑑賞後、2階に上がり、展示室の作品を見る。横山大観は特別展示室が設けられていて、大作、名作が展示されている。足立氏の日本画、横山大観への思い入れが想像できる。
 順路に従い、1階に降り童画展示を眺める。一息しながら庭園を鑑賞しようと思っても、喫茶室は列ができるほど混んでいた。「枯山水庭」をもう一度目に焼き付け、陶芸館で河井寛次郎、北大路魯山人の展示を鑑賞する。
 地下通路を抜けると新館に出る。1階と2階の展示室を一回りした。庭園の印象が強かったため、新館展示室では気が入らなかった。駐車場に戻ったときは16:00を過ぎていた。見学は2時間近かったようだ。茶室まわりの庭園も見どころらしいので、すべてをじっくり鑑賞するには3時間ほどかかりそうである。

 今日の宿はしんじ湖温泉・ホテル一畑である。足立美術館から県道を経由し、国道9号線を西に走る。雲が広がり出した。宍道湖の夕日は難しくなった。ときおりフロントガラスに雨滴がつく。
 17:00近くにホテルにチェックインする。宍道湖側の部屋を予約しておいたが、宍道湖は煙っている。部屋に案内してくれたスタッフが嫁ケ島の夕日は夕日百選に選ばれているのですが、と申し訳なさそうに教えてくれた。あとでwebを検索したら、見事な夕日の風景が見つかった(写真)。百選にふさわしい素晴らしい夕日である。
 6階の展望温泉に向かう。対岸は松江の町のようだ。煙った宍道湖の先に灯りが揺らめいている。「一幅の絵に仕立てられた日本庭園」を思い起こしながら、身体を癒やす。  続く   (2020.2)

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