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1998韓国南部農村住居の調査で、儒教思想の女性空間・モムチェ、男性空間・サランチェの名残を実感

2016年09月21日 | studywork

1998 「韓国南部農村住居の伝統的秩序と現代化」 農村計画学会研究発表会

 1995年ごろから、韓国の集落調査を始めた。慶尚大学教授李先生(当時)にはずいぶんとお世話になった。韓国留学生S君と現地を見て回った結果、韓国南部の慶尚南道に位置する九満面を調査対象とし、数年、調査を重ねた。
 その一部が、表題の韓国南部農村住居の伝統的秩序と現代化である。

 この報告の目的は、「韓国では、1972年から始まった農村セマウル運動に代表される農村近代化政策が実施され、農村の生活水準が大きく向上してきた。
 しかし、農村景観や生活様式に関する調査研究が十分でなかったため、立地環境と調和した伝統的な景観や先人の知恵として継承されてきた自然環境と共生する住み方が損なわれ始めている。
 そこで本研究では、韓国の伝統的農村住居における住空間構成と住み方を抽出するとともに、集落立地と空間構造、ならびに伝統的な生活様式の現代化の観点から、改良された住宅、および新築された住宅における住志向を検討し、現代化の実態を求めること」である。

 屋敷空間構成と使われ方で、「敷地はおよそ25m×20mの四角形が一般で、ナットンマウルでは、北から南、または東から西に向かって、ファッチョンマウルでは、北から南に向かって傾斜し、もっとも高い側にモムチェと呼ばれる母屋が配置され、低い側に屋敷入り口がとられる。
 敷地周囲には、原則として高さ2mほどの屋敷囲いを設け、門扉を付けていて、外部に対して閉じた空間構成をとる。
 敷地内には、モムチェ、マダンと呼ばれる庭を中心にサランチェ、ソマグ、ゴバン、テウェビサなどと呼ばれる付属屋が建つ。生活の中心はモムチェであるが、サランチェにも居室が設けられ、後述するが男の空間として利用される。
 ただし、サランチェが居室専用になっている例は宗家に限られ、一般にはソマグやゴバン、テウェビサなどと共用される。
 ソマグは牛舎のことで、数頭の牛が飼育される。テウェビサは牛の飼料庫、ゴバンは農業用倉庫で、屋敷内が生業空間として活用されていることを示す。
 付属屋のモムチエに対する位置関係を検討したところ、屋敷入り口・サランチエ・モムチエの順列が得られた。これも後述するが、サランチエが男の接客空間として位置づいていることを示す。
 マダンは、モムチエの前面に配置されていて、モムチエ内のデーチョン・チャグンバンとともに儀式に用いられるが、日常は農作業や洗濯物の干し場として使われる」ことを示した。

 予備知識で予測はしていたが、韓国の伝統的な屋敷は、マダンという中庭をはさんで、高い側=多くは北側にモムチェ、低い側=入口側=多くは南側にサランチェを配置していること、モムチェは母屋に相当するが、女性の生活空間であり、サランチェが男性空間となっていて、これはヤンバン両班の生活様式の基本となっている儒教の男女7才にして席を分ける観念の継承であることを実感した。

 間取りでも伝統がよく継承されていた。その一方、確実に現代化に向かった改良が始まっていた。
 住まいにおける風水思想も気になるが、伝統と革新の融和をどう図るかも着目点になる。韓国の調査がますます興味を引いた。

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