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クィネル著「地獄の静かな夜」は短編集、通勤や息抜きに向いている

2016年03月03日 | 斜読

斜読 book410 「地獄の静かな夜」A.J.クィネル 集英社 2001 /2016.1読
クィネルの長編は展開がドラマティックであり、暴力・殺戮場面が多いが、社会の裏にはびこる不正を正そうとする主張が盛り込まれていて、すでに2冊読んでいる。
 いずれも訳者は大熊榮氏で、大熊氏は翻訳の打ち合わせで?、マルタ共和国に住んでいるクィネルに会いに行ったそうだ。そこで、大熊氏はクィネルに短編の連作を提案したところ、クィネルは乗り気になり、大熊氏あてに「手錠」「愛馬グラディエーター」「バッファロー」「ヴィーナス・カプセル」「64時間」「ニューヨーク・ニューイヤー」「地獄の静かな夜」の短編を届けた。
 それを一冊にしたのが、この本である。7編は独立していて、それぞれ完結している。

 たとえば、「愛馬グラディエーターGradiatorは、つねづね夫から暴力を受けていた夫人がついに家出を決意し、車を走らせていて、運転を誤り、車が動かなくなるが、地獄から戻ってきたような顔の男に助けられる話である・・この地獄から戻ってきた顔の男が、クィネルの人気シリーズの主人公である元傭兵クリーシィーのイメージ・・。
 夫人は愛馬グラディエーターを大事にしていたが、夫は家出した夫人への恨みを晴らそうとして愛馬を痛めつけたらしい。ところが興奮した愛馬が足蹴りをし、夫は息を引き取る。
 自業自得として事件は解決するが、あとで夫人は愛馬の蹄鉄がいつもの蹄鉄と違うことを鍛冶屋から聞く。どうやら夫人を助けてくれた男が、夫の暴力を知り、蹄鉄を使って密かに仇討ちをしてくれたようだ」といった内容である。 

  短編は物語が始まった途端、劇的な舞台転換とか、推理に推理を重ねたうえでのどんでん返しとか、主人公と悪との息詰まるサスペンスとかを盛り込む間もなく、完結してしまう。
 だから、感情移入もできないまま読み終えてしまう。その分、ヒューマニティの重み、著者のいわんとすることが淡白になってしまう。
 逆にいえば、気楽に読み流せるし、それぞれが短いから、通勤のときとか、待ち合わせのときとか、ちょっとした息抜きに向いている。

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