yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

バルセロナ生まれのダニエルはカラックス著「風の影」に心を動かされ、カラックス探しを始める

2016年02月26日 | 斜読

斜読 b409「風の影」 上・下 カルロス・ルイス・サファン 集英社文庫 2006 /2016.1読スペインを舞台にした本を探して見つけた。著者はスペイン人で、この本は5作目だが、刊行後大変な評判となり、次々に受賞するとともに、世界40カ国で翻訳されたそうだ。
 舞台はバルセロナのカタルーニャ広場近くで、2015年に訪ねたばかりだから、舞台背景が鮮明にイメージできた。
 物語は二重構成になっている。1945年~の主人公は11才になったダニエルで、ダニエルが父に連れて行かれた「忘れられた本の墓場」でフリアン・カラックス著の「風の影」に出会うところから物語が展開する。
 ダニエルは「風の影」に心を動かされ、フリアン・カラックスをもっと知りたいと思うが正体がつかめず、フリアン・カラックス探しを始める。やがて、フリアン・カラックスの痕跡が少しずつ見つかり始める。フリアン・カラックスの追憶から、1900年代初頭から王制~第1次世界大戦~第2共和制~内戦~の混乱期が語られる。
 つまり、ダニエルのカラックス探しと、カラックスの生きた時代の追憶との二重の構成になっていて、この本をダイナミックに、ミステリアスにしている。
 カラックスは激動の時代を生き抜いている。この時代は、社会構造と価値観が変動していた。カラックスの周りに、権威に目がくらみ貧者を蔑視する人物、権力の手先となり悪事を重ねる人間、社会の底辺から抜け出せず人生をあきらめる人間、その一方で愛と友情と真実に生きようとする人間を登場させ、ダニエルが悩みながらも愛と友情と真実に確信を持ち始める様子を描き出しているのも、この本の魅力である。

 著者は、さらに・・読書は・・鏡を見るのとおなじで・・本のなかに見つけるのはすでにぼくらの内部にあるものでしかない・・本を読むとき、人は自己の精神と魂を全開にする・・と主張し、本を読み、作者の精神と出会い、自らの精神を育め、と諭している。

 久しぶりに読み応えのある本に出会った。もちろん、訳者の力量もほめたい。 
 ・・斜読indexには、読み終えた 海外の作家 と、日本の作家 が網羅されている

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