1905(明治38)年に発行された『高等小學 算術書 第二學年兒童用』である。この手の古い教科書は骨董市ではよく見かける。値段も一冊300円から500円と安い。これを買ったのは、五年ほど前、東京・深川の富岡八幡宮の骨董市だった。
「文部省著作」とあるから、国定教科書である。発売所は「株式會社國定教科書共同販賣所」と表記されている。奥付を見ると「發行所 有斐閣書房」とある。有斐閣といえば、現在でも社会科学や人文書を出版している老舗出版社である。
内容は分数を中心としたもので、大きく「分数」「步合算」「四則應用問題」の三つの項目に分かれている。まず「分數」を学ぶにあたって「倍數、公倍數」の説明から始まる。そして「約數、公約數」「分數の意義及び書き方」、「分數の簡易なる計算」というふうに進んでいく。
天地184ミリ、左右124ミリ。表紙は厚紙で並製。本文82ページ。右は奥付。
高等小學校の第二學年は、07(明治40)年の小學校令の一部改正までは11歳ということになる(改正後は尋常小學校六年生)。戦後生まれのわたしが分数を学んだのは何歳のころだったろうか。記憶が曖昧である。現在では小学二年生あたりから、初歩的な分数を学ぶらしい。小学二年生といえば七、八歳である。
「四則應用問題」には次のような問題が出されている。
「甲乙2人の職工あり、甲は7日の間、乙は12日の間働き、賃錢合計15円20錢を得たり。これを働きたる日数に割合ひて分くれば、甲乙の所得各何程なるか」
とりたてて難しい問題ではないが、出題内容はほとんどこのように実生活に根ざしたものが多い。「步合算」の項目に次のような問題もある。
「1株の時價20・2圓の株を100株賣り、その代にて1株80圓の株を買へば幾株買ひ得るか」
いくつかの問題を解いてみたが、間違いなく答えられた。わたしの算術頭も明治時代の11歳並ではあったと、ひと安心した次第である。