【例題】Sは、勤務先であるP社から毎月の給与を得ている。Sは債務超過状態に陥っており、複数の金融業者からの借入金の返済が滞っている。またSは複数の公租公課も滞納している。
[先行する私債権v.後続の私債権]
・二重差押えの許容:既に差押えの執行があった特定の被差押債権について、さらに適法な差押申立てがあれば重ねて差押命令が発せられる(※)。その結果、「差押えの競合(二重差押え):各差押えの差押額の合計が被差押債権額を上回ること」という現象が生じる。現行法が二重差押えを許容することは、民事執行法156条2項「差押えに係る金銭債権のうち差し押さえられていない部分を超えて発せられた差押命令」との規定に現れている。□条解1282-3、中野下村776
※選択肢としての配当要求:後続私債権者が先行差押えの存在を認識した場合、あえて二重差押えをせずに、配当要求を選択することもできる(民事執行法154条1項)。もっとも、配当要求は先行差押えに従属するので、先行手続が取り下げられたり、取り消された場合は、配当要求の効力は維持できない。□条解1319、瀧板倉78
・差押効の拡張:同一順位の私債権者間で差押えの競合が生じると、被差押債権全部から平等に配当されることが要請される。これを実現するため、各差押えが「被差押債権の一部のみ」を対象とする場合であっても、差押えの競合を理由に各差押えの効力は「被差押債権の全部」まで拡張される(民法149条前段後段)。□条解1283,1286
・義務供託の必要:私債権者の平等を図るため、差押えの競合を受けた第三債務者は被差押債権の全額を供託しなければならない(民事執行法156条2項)(※)。□条解1342-3,1345
※この義務に反して差押債権者の1人に弁済しても、差押手続に対抗できない(第三債務者は二重弁済を強いられる)。□条解1345
・両債権への配当の実施:第三債務者による供託がされた場合、執行裁判所が配当等を実施する(民事執行法166条1項1号)。配当順位は後述。□条解1416
・執行競合の時的限界:先行差押えが係属している中で、後続債権者がもたもたしているうちに一定の事由が生じれば、もはや配当に与る途も封じられる。
[a]先行差押えに係る取立の完了:先行債権者による取立権が適法に行使され、第三債務者が(後続差押命令の送達前に)取立てに応じて支払をすれば、被差押債権は弁済が擬制されて消滅する(民事執行法155条3項)。したがって、それ以降は差押えが競合する余地がない。□条解1336、中野下村776
[b]権利供託の完了=配当加入終期:先行差押えのみが係属する時点でも、第三債務者は被差押債権の全額を供託することができる(民事執行法156条1項)。この権利供託がされれば被差押債権には弁済の効果が生じて消滅し、以後は差押えが競合する余地はない。また以後は、後続債権者は配当に加入することもできない(民事執行法165条1号)。□条解1340-2,1412、中野下村776
[c]取立訴訟の訴状の送達時=配当加入終期:先行差押えについて取立訴訟が提起されてしまえば、その後に後続差押命令が送達されても義務供託は生じない(民事執行法156条2項)。同時点も配当加入終期となる(民事執行法165条2号)。□条解1343,1413-4
[先行する私債権v.後続の公債権]
・二重差押えの許容:「私債権v.私債権」と同様に、強制執行による差押えが先行している被差押債権につき、重ねて滞納処分による差押えをすることが認められている(滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律36条の3第1項)(※)。□条解1288
※選択肢としての交付要求:「私債権v.私債権」と同様に、後続課税庁が先行差押えの存在を認識した場合、あえて二重差押えをせずに、交付要求を選択することもできる(国税徴収法82条1項)。交付要求は配当要求の効力を有する(明文はない)。もっとも、「私債権v.私債権」と同様に、先行手続が取り下げられたり、取り消された場合は、交付要求は効力を失う。□精解676-7
・競合手続間の先着手主義:強制執行による差押え後に滞納処分による差押えがされた被差押債権については、先行する強制執行の手続を続行させる。具体的には、[1]後続公債権は取立てができない(滞調法36条の8)、[2]後続公債権は滞納処分続行決定を申請する余地がある(滞調法36条の11第1項前段後段→25~27条)、[3]後続の強制執行の手続は進行できない(滞調法36条の11第1項前段後段→30条)。□条解1288、中野下村779
・差押効の拡張:「私債権v.私債権」と同様に、私債権(強制執行)による差押えと公債権(滞納処分)による差押えが競合した場合、強制執行による差押えの効力(※)は「被差押債権の全部」まで拡張される(滞調法36条の4)。□条解1288
※もともと、滞納処分による差押えの範囲は、原則として被差押債権の全部となる(国税徴収法63条本文)。□精解520
・義務供託の必要:「私債権v.私債権」と同様に、私債権(強制執行)による差押えと公債権(滞納処分)による差押えが競合した場合、第三債務者は被差押債権の全額を供託しなければならない(滞調法36条の6第1項)。□条解1346-7
・両債権への配当の実施:「私債権v.私債権」と同様に、第三債務者による供託がされた場合、執行裁判所が配当等を実施する(滞調法36条の9、民事執行法156条2項、166条1項1号)。配当順位は後述。
・交付要求の時的限界:先行差押えが係属している中で、後続公債権がもたもたしているうちに一定の事由が生じれば、もはや交付要求はできなくなる。その終期は、「私債権v.私債権」と同様だと解される。□精解673
[先行する公債権v.後続の私債権]
・二重差押えの許容:「私債権v.私債権」と同様に、滞納処分による差押えが先行している被差押債権につき、重ねて強制執行による差押えをすることが認められている(滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律20条の3第1項)。□条解1288
・競合手続間の先着手主義:滞納処分による差押え後に強制執行による差押えがされた被差押債権については、先行する滞納処分の手続を続行させる。具体的には、[1]後続私債権は取立てができない(滞調法20条の5)、[2]後続私債権は強制執行続行決定を申請する余地がある(滞調法20条の8第1項前段後段→8~9条)、[3]後続の強制執行の手続は進行できない(滞調法20条の8第1項前段後段→13条1項)。□条解1288、中野下村779,767
・差押効の拡張:「私債権v.私債権」と同様に、公債権(滞納処分)による差押えと私債権(強制執行)による差押えが競合した場合、強制執行による差押えの効力(※)は「被差押債権の全部」まで拡張される(滞調法20条の4)。□条解1288
・「公債権による取立て→配当」ルート:「私債権v.私債権」とは異なり、「公債権(滞納処分)による差押えが先行→私債権(強制執行)による差押えが後続」の場合、第三債務者には義務供託はなく、徴収職員等からの取立てに応じれば足りる(滞調法20条の8第1項前段後段→6条1項参照)。先行する公債権による取立ての結果、取立金に残余が生じた場合は執行裁判所に交付される(滞調法20条の8第1項前段後段→6条1項)。その残余が後続私債権へ配当される(滞調法20条の7第3項、民事執行法166条1項3号、165条3号)。□中野下村768-9
・「権利供託→公債権への払渡金交付→配当」ルート:手続からの離脱を望む第三債務者は、徴収職員等の取立てを回避して権利供託することができる(滞調法20条の6第1項)。先行する公債権による供託された金銭からの払渡金の回収の結果、払渡金に残余が生じた場合は執行裁判所に交付される(滞調法20条の8第1項前段後段→6条1項)。その残余が後続私債権へ配当される(滞調法20条の7第1項、第2項、民事執行法165条1号)。□中野下村768-9
[強制執行における配当順位]
・各請求債権に対する配当の順位や額は「民法、商法その他の法律の定めるところ」にしたがう(民事執行法166条2項→85条2項)。□中野下村585-6
[1]執行費用のうち共益費用
[2]目的不動産の第三取得者が支出した必要費有益費
[3]登記した不動産保存の先取特権の被担保債権
[4]国税等に優先する抵当権・不用益特約付質権・先取特権・仮登記担保権の被担保債権
[5]国税・地方税(国税徴収法8条、地方税法14条)
[6]公課
[7]国税・公課等に劣後して登記先後による担保権の被担保債権
[8]登記のない一般先取特権の被担保債権
[9]一般債権
・同一順位内では債権額に応じた按分比例で割り付けられる。□中野下村567
伊藤眞・園尾隆司編集代表『条解民事執行法』[2019]
中野貞一郎・下村正明『民事執行法〔改訂版〕』[2021]
黒坂昭一・三木信博『令和5年版実務Q&A国税徴収法』[2023]
吉国二郎・荒井勇・志場喜徳郎共編『国税徴収法精解〔21版〕』[2024]
瀧康暢・板倉太一『滞納処分による給料・預金差押えと取立訴訟の実務〔第3版〕』[2024]

