【例題】Sは、勤務先であるP社から毎月の給与を得ている。Sは債務超過状態に陥っており、複数の金融業者からの借入金の返済が滞っている。またSは複数の公租公課も滞納している。
[租税公課の強制徴収の法源]
・内国税:個別税法が納付義務を規定し、国税通則法が正規の徴収手続(納税の告知、督促、繰上請求など)を規定する。この正規の徴収手続によって国税が完納されない場合に発動される強制徴収は国税徴収法が規律する。□精解70-1
・地方税:地方税法には、「第二次納税義務」「人格のない社団等の納税義務」「地方税優先の原則、地方税と他の債権との調整」「換価の猶予、滞納処分の停止」「保全担保、保全差押え」「滞納処分についての不服審査、訴訟の特例」「罰則」について国税徴収法と同じ内容が規定されている。強制徴収手続については「国税徴収法に規定する滞納処分の例による滞納処分をする」と規定されており、やはり国税徴収法にしたがう旨が宣言されている。□精解74-5
・公課:「国や公共団体による(租税以外の)権力的な課徴金」をいい、社会保険料、負担金、納付金、賦課金、手数料、代執行費用などがある。国税徴収法は公課の徴収についての基本法となっているが、個別法規の規定ぶりが異なる。□精解75-6
[1]「国税徴収の例による」と規定するもの:国税徴収法の規定の大半(not消費税等の優先、not第二次納税義務、not保全担保、not罰則)、国税通則法の「国税の確定、納付及び徴収、納付の猶予等」の規定が準用される。□精解75-83,94-5
[2]「国税滞納処分の例による」と規定するもの:[1]より準用の範囲は狭く、私債権に対する優先徴収権、公課相互間の差押先着手や交付要求先着手による調整の規定などが準用される。□精解75-77,84-93,95-6
[先行する公債権v.後続の公債権]
・二重差押えの許容:国税徴収法に明文はないが、徴収実務は「滞納処分による差押えがされている債権に対して、さらに滞納処分による差押えをすること」を許容している(国税徴収基本通達62-7(1))。□精解509、Q&A180
・全体への二重差押え:後続する公債権は、被差押債権の全部について差押えをする(国税徴収基本通達62-7(2))。
・手続の先着手主義:滞納処分による差押え後に滞納処分による差押えがされた被差押債権については、先行する滞納処分の手続を続行させる。具体的には、[1]後続公債権は取立てや換価ができない(国税徴収基本通達62-7(3))、[2]後続公債権は先行公債権へ交付要求をする(国税徴収法82条1項、国税徴収基本通達62-7(4))。
・先行公債権による取立て:徴収職員には被差押債権の取立権が付与され(国税徴収法67条1項)、この取立権に基づき、取立てに必要な裁判上や裁判外の行為をすることができる(国税徴収基本通達67-3)。具体的には、裁判外の支払請求、支払督促の申立て、取立訴訟の提起、保証人に対する請求、配当要求、破産手続等への参加などを行う(国税徴収基本通達67-4)。□精解532-4
・取り立てた金銭の配当:先行する徴収主体は「債権の差押えにより第三債務者等から給付を受けた金銭」を配当する(国税徴収法128条1項2号)。配当を受けられるのは「差押えをした国税」「交付要求をした国税、地方税、公課」などに限られる(国税徴収法129条1項1号2号)。
[租税公課間の優劣]
・他の債権も含めた正確な配当順位は、精解889-90。
・[1]差押えに係る租税:先行差押えをした公債権が国税である場合は、交付要求をした租税公課や、公課その他の債権に優先して配当を受けられる(国税徴収法8条、12条1項)。同様に、先行差押えが地方税である場合も、当該地方税が優先する(地方税法14条、14条の6第1項)。□黒坂三木16,13
・[2]交付要求に係る租税:次いで、交付要求をした国税or地方税が優先する(国税徴収法12条2項、地方税法14条の6第1項)。交付要求をした租税間の優劣は、交付要求をした先後による(国税徴収法13条、地方税法14条の7)。□黒坂三木16-7
・[3]差押えor交付要求に係る公課:公課は、租税より先んじて差押えや交付要求をしていても、租税に劣後する(国税徴収法8条、地方税法14条)。特に、先行差押えが公課による場合、当該公課庁は、遅れてきた租税庁のために取立てや配当をするという「タダ働き」を強いられることになる。□黒坂三木13、瀧板倉69-70
黒坂昭一・三木信博『令和5年版実務Q&A国税徴収法』[2023]
吉国二郎・荒井勇・志場喜徳郎共編『国税徴収法精解〔21版〕』[2024]
瀧康暢・板倉太一『滞納処分による給料・預金差押えと取立訴訟の実務〔第3版〕』[2024]

