冬桃ブログ

日常雑記です。

人間やってるって、疲れる。

2013年02月22日 | 雑記

 ひとまわり年上の友人と、久しぶりに会った。
 
 「こないだ、アルツハイマーの検査を受けたのよ」
 ランチを食べながら、友人が言った。
 これまで普通に弾けていたピアノが、突然、譜面の
後半だけ弾けなくなったという。
 
 彼女は思い立ったらすぐ行動する人だ。
 インターネットで、アルツハイマーかどうかの検査を
してくれる病院を検索し、ここだと思うところへ
さっそく出かけて行った。

 「一回で済むのかと思ったら、脳波の検査だの心理
テストだのって何回かに分けて行くのよ。しかも検査結果を
その日のうちに教えてくれるわけじゃなくて、予約して
また後日。自分がアルツハイマーかどうか、へたすると
半年くらい先じゃないとわからないんだから」

 で、彼女の場合はそこまで長くはかからなかったようだが
その「心理テストみたいなの」に私は興味がある。

 「まあ、予想通り、机の上にピンだの鉛筆だの、幾つか
並べてあるのを見て、次にそれを隠して、はい、ここには
何と何がありましたか、とか、幾つか言葉とか数字を先生が
言って、その順序を逆にして言うとか」

 もはや70代の後半とはいえ、彼女は頭の回転が速い。
 記憶力もいい。じつに簡単にそれをクリアしたようだ。

 「だけど別の日にやったテストが問題だったわね」
 
 これから短い話をします、と言われたそうだ。
 「短い話って言うから、まあ、数行くらいの内容かと
思うじゃない。これがそうじゃなくて、けっこう長いのよ」

 誰それさんがどこそこへ買い物に行った。
 途中、電車を乗り換えた。そしてこういう店に入った。
 というような内容。

 「これが、あなた、まったくおもしろくない話なのよ。
だから記憶に残らないの。眠くなっちゃって……」

 さすがに居眠りはしなかったようだが、彼女としては
不本意な出来だったという。
 そして結果は、「アルツハイマーではない。本来の
集中力が10パーセント程度落ちてる」というものだった。

 私はもとから集中力などまったくないほうだが、
彼女は自分でも「抜群」と自認するほど。
 それが10パーセント落ちたところで、たいしたことはない。
 結局、問題はなかったわけだが、帰り際、彼女は
医師に尋ねたそうだ。

 「脳が専門のお医者さんというのは、自分の脳がおかしく
なった時、すぐ気がつくものなんですか?」

 医師は数秒間、固まった後、なんだかあやふやなことを言い、
彼女が診察室のドアを閉める寸前、「さっきのような質問は
不適切です」と真面目な顔で言ったそうだ。
 彼女はなんだかおかしくなり、大笑いしながら病院を出たとか。

 私も、近場でそういう病院があったら、受けてみようかしらん、
そのテスト。おそらく散々な結果が出るだろう。
 だって、自分が書いた小説、どれもこれも読み返してみないと
結末がわからないんだもの。ついでに途中の展開も。

 ランチを続けながら、話は彼女がだいぶ前にやった
睡眠薬自殺未遂のことに移った。
 あの時、「失敗しちゃったのよ、私」と彼女から電話があった。
 私はとっさに、「え? どうしたの、妊娠?」と尋ね、
「なに言ってるのよ、あなた!」と呆れられた。
 考えてみれば、彼女はその頃もう、妊娠するような年齢では
なかったのだが、独身だし、好きな人がいるようなことを
聞いていたので……。
 あらためて、その時のことを彼女が話してくれた。

 アメリカで買った睡眠薬を、通常の200倍くらい
服用したそうだ。アルコールと一緒に。
 直後、オーロラのような美しい色が、閉じた目に広がった。
 こんなきれいな光景を見ながら死ねるんだ、と
彼女は幸せな気分になったという。

 「ところが30分で目がさめちゃったのよ。
 もの凄く強い尿意で」
 
 仕方なく起きて、彼女はトイレに行った。
 そして再び寝たのだが、またもや30分後に
強い尿意で目がさめる。
 そしてトイレ。

 頭のいい人だから、こりゃ駄目だ、失敗だ、と悟った。
 このままだと、助かっても薬のせいでどこか内臓に
故障が出るかもしれない。
 病人として生きるのはいやだ。
 起きて、救急車を呼ぶために電話を置いてあるところへ行った。
 その物音で同居していた家族が起きてきた。
 彼女は受話器に手を掛けたまま、「失敗だった……」と
呟き、そのまま意識を失った。
 気がついた時は病院のベッドだったそうな。

 処置が早かったので、彼女の内臓はきれいなまま。
 いまも「どっこも悪くないのよ」という状態だ。

 お金はある。私などからみれば、ありすぎるほどある。
 アレルギーに悩まされているものの、おおむね健康だ。
 それでも彼女は幸せではない。
 ある時点で、生き甲斐をなくしてしまったからだ。

 人間という生き物はほんとうにやっかいだ。
 食べて寝るだけでは満足できない。
 社会的な居場所があり、誰かに求められ、自分も
求めている……そういう状態でないと不安でたまらなくなる。
 生きているという実感を持つことができない。
 生まれ変わることがあったら、私は絶対、人間にはなりたくない。
 考えなくてもいい生き物がいいなあ。
 ミミズとかオケラとかアメンボとか……。


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