歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

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「伽羅先代萩」 (めいぼく せんだいはぎ) (竹の間・御殿・床下)

2013年04月27日 | 歌舞伎
「伽羅先代萩(めいぼく せんだいはぎ)」の「竹の間」・「御殿」・「床下」はここです。
「花水橋」をご覧になる方は=こちら=
「対決(評定場)」「刃傷」をご覧になる方は=こちら=

仙台伊達藩で実際にあったお家騒動がモデルです。
この部分は、いかにもお家騒動というかんじの、御殿の中での場面です。
子役が出るのでかわいくて楽しいです。
でも子供が死ぬので悲しいです。

さて、城内は、お家騒動の真っ最中ですよ。。
反乱派の陰謀でお殿様は強制隠居、まだ子供のお殿様、「鶴千代(つるちよ)」さまが当主になります。
しかも、反乱派はお殿様も毒殺しようとして日々策略をめぐらしています。

主人公は、幼いお殿様の乳母役の「政岡(まさおか)」です。
お殿様に危険が迫っていると気付いた「政岡(まさおか)」は、「お殿様はご病気だ」ということにし、
「お殿様がいやがるから」という理由で男をそばに寄せ付けないようにします。
さらに毒殺を警戒して「お殿様は食欲がない」と言い、お食事係が作ったごはんも下げさせます。

で、毎日政岡がお茶の道具でごはんを炊くのです。
本当ーに小さな塩おむすびをひとつかふたつ。1日1食です。かわいそうです。

お殿様はお腹がすいていますが、政岡が自分のためにがんばっているのを知っているのでがまんしています。
お付きの男の子がいます。「千松(せんまつ)」くんといいます。政岡の息子です。
お殿様とは同い年で仲良しです。
千松くんも一緒にお腹がへったのをガマンしています。
「侍の子というものは、お腹がすいてもひもじうない」のセリフは泣かせます。

さて、ストーリーは3段構成+おまけです。


「竹の間」の場

お殿様の私室の「竹の間」の場面です。

「八汐(やしお)」御前と「沖の井(おきのい)」御前というふたりが、お殿様のお見舞いに来ます。
ふたりともお城の家来の奥さんたちです。男はお殿様のそばに来られないので奥さんがやってくるのです。

「八汐」は悪人がたのヒトです。チナミにあんまり身分は高くありません。
「沖の井」がごはんを持ってきますが、お殿様は乳母の政岡の言いつけ通り「いらない」といいます。
お殿様がんばります。

さて、お殿様は男がそばによると病気によくない、ということになっています。
暗殺しに来るとしたら男でしょうから、できるだけ遠ざけたいのです。
女が来たら政岡でもどうにか守れるし。

というわけで、お城にいる医者もそばに寄れない、というか政岡はこの医者も信用していないのでそれでいいのですが、
その奥さんが、医術の心得がある、ということでやってきます。
お殿様の脈を診ます。
当時の医学は、まず脈を見ます。脈の乱れでいろいろ病気がわかるのです。
これは実際そうだろうと思います。

で、医者の奥さんが「これは決死の脈」だ、とか言い出し、
ほかの病気の兆候もないのに脈だけおかしい。近くに暗殺者がいるに違いない、ということになります。
細かいリクツは書く方もてきとうに決まってるので、見る方もてきとうにご覧ください。
しかも、天井を槍で突くと本当に悪者が落ちてきます。

捕まった暗殺者が「乳母の政岡に頼まれた」と言ったり、政岡の名前でお殿様に呪いをかけた書面が見つかったりで、
政岡はピンチになるのですが、
鶴千代君が「悪者でも大事ない、乳母と一緒にいたい」というお言葉で(おい)、政岡は助かります。

さらに、沖の井御前がいろいろツッコミを入れます。
呪い(セリフで「調伏(じょうぶく)」と言っているのがそれです)の書面を書くのに、いちいち本名書くやつはいないだろうとか
そういうかんじです。
政岡が暗殺者だという説はガセだということになります。
仕組んだ八汐、がっかりです。

八汐と沖の井たちは一度引っ込みます。

ここから有名な「まま炊き」の場になります。

豪華な御殿に住んでいるお殿様が、お腹をへらして半泣き。
お腹いっぱい食べている雀や犬をうらやましがる、という皮肉な場面です。
でもお侍の子なのでけなげにガマンです。

じぶんもおなかぺこぺこなのに、一生懸命お殿様をなぐさめる「千松」君も泣かせますよ。
政岡は高そうな錦の袋からお米を出して、高そうなお茶の道具でごはんを炊きますよ。茶筅でシャカシャカお米をといで。

伊達藩は茶道は代々「石州流」だということで、九代目団十郎はわざわざ石州流の作法でお米を研いだそうですが、
今そこまでやるかは知りません。ていうかワタクシも見てもわかりません。

ところで、
最近はここで「悪もの」が天井から襲ってきて、政岡が闘うという「立ち回り」が付くことが多いです。
この「まま炊き」の部分はあまりセリフがなく、動きも少なく、
ごはんが炊けるまでの間は「浄瑠璃(じょうるり)」がいろいろと語ります。
ここが名文句なので名場面なわけですが、
最近は政岡がおままごとのようにごはんを炊いたり雀を見て子供が泣いたりするだけでは間が持たなくなり、
「悪もの」を出して動きのある部分を作ったのです。近年はじまった工夫です。

じゃあ、「悪もの」を出すのは邪道でよくないのか、というと、
まあ、立女形の品格と、あの場を持たせる技量があれば「悪もの」はいらない、というのが正論なのですが、
見る側に、浄瑠璃を聞いて理解する教養がないのが致命的です。
かわいい文句なのですが、聞き取れなかったらタイクツなだけです。
というわけで、客のレベルに合わせるならアヤシイ奴が出てきた方が面白かろうと思います。
じっさい、藤十郎さんが政岡をなさったときは悪者は出さなかったのですが、
「あの場面はつまらない。なにか動きのある場面を挿入すべきよ」とロビーせ力説するお客さんがいらっしゃいましたから
難しいところです。本当に。


さて、クライマックスの有名な場面が近づいてきます。
再び悪人の「八汐(やしお)」御前が登場します。。
今度は「栄御前(さかえごぜん)」というのを連れてきます。
誰こいつってかんじでわかりにくいですが、
ええと、これは「伊達藩」のモメごとなのです(お芝居では「足利家」になってます)。
で、藩の上に「幕府」がいます。
「栄御前」は、「幕府」のえらいヒトの奥さんなのです。しかも藩内の反乱派とつるんでいるのです。

細かく言うと「梶原平三景時(かじわら へいぞう かげとき)」の奥さんです。
鎌倉幕府において「梶原」は常に悪役です。
覚えておくとベンリです。

話を戻して

栄御前は、鶴千代にをお菓子を持ってきました。
幕府のエライ人からの贈り物なので、さすがに「いらない」と言えません。
でももちろん、毒入りです。
食べないわけにはいきません。が、食べたら若殿様は死んでしまいます。ピーンチ!!

そこに、千松くんが出てきます。
お菓子をひとつ取って食べて、残りを蹴散らします。
お行儀の悪いガキのフリをして自分が毒菓子を食べて、お殿様を守ったのです。
万が一のときは、こうやって身替りになってお殿様を守るように、政岡が常に言い聞かせており、
千松くんはがんばったのです。

千松が毒で死ぬところを大勢に見られるのはまずいです。
八汐はお手討ちにするフリをして千松くんを刺し殺します。
ここは、非常に憎々しい様子で惨たらしく殺すので有名です。八汐の役は立役から出ることも多く、
非常に怖いです。

政岡はすごくショックですが、平気なフリをします。
お客さんに気持ちが伝わるように、でも表面的には平気そうにしなければならないという難しい場面です。見せ場です。
ていうか千松くんかわいそう~~。

これを見た栄御前は、勝手に勘違いします。
「息子が死んでも平気なのは、お殿様と息子をすり替えているに違いない。
これでお殿様が死んだから、息子をお殿様に仕立てていい思いをするつもりだろう」。
=「てことは、こいつも反乱派にちがいない」

勝手に決めるなよ。と思いますが、
でもまあ、栄御前はそう信じます。
まあ、子供ひとり死んでますからね。説得力はありますね。

栄御前はほかの人たちを下がらせ、
で、ふたりっきりになったときに反乱一味の連判状を政岡に渡します。
反乱の証拠です。これ持って幕府に訴えればなんとでもなります。やった!!

栄御前退場します。

政岡ひとりになります。
「跡にはひとり 政岡が…」の浄瑠璃で、政岡はがっくり泣き崩れます。
見せ場です。みんなも泣くのです。

でも連判状ゲットです。よかったよかった、千松くんよくやった。

と、独り言を言っていたら、
八汐が聞いていました。
八汐は政岡に斬りかかりますが、政岡のほうが強いので返り討ちに合います。

これで連判状を幕府に持っていけばお話は終わるのですが、
どこからかネズミが走ってきて、連判状をくわえて行ってしまいます。


というところで、、「おまけ」の「床下(ゆかした)」の場面になります。

イキナリ御殿が、床ごとセリ上がります。
床下には派手な衣装の強そうなお兄さんがいますよ。ネズミを踏んで押さえつけています。
連判状をくわえて持って行ったのは、ぬいぐるみの小さなネズミですが、
踏みつけて出てくるのは人間が中に入った巨大なネズミです。

強そうなお兄さんは荒獅子男之助(あらじし おとこのすけ)といいます。
藩の「いいほう」の忠臣です。

反乱派が悪口を言ったので殿様のそばに行けないのです。男だし。
なので床下でずっとお殿様を守っているのです。えらいぞ。

男之助は持っている鉄扇でネズミを叩きますが、ネズミは逃げます。

と、
花道から銀鼠の裃(かみしも)のえらそうなヒトがせり上がります。
さっきのネズミはこのヒトが化けていたのです。
こいつが反乱派の親玉、「仁木弾正(にっき だんじょう)」です。
仁木は妖術使いでもあるので、ネズミに化けることもできるのです。

仁木は国家老(くにがろう)です。お殿様が江戸にいるときの全権委任者です。
強そう、かつ、知性派、それなりに人望もあります。
「実悪」と呼ばれる、最高ランクの悪役の典型です。もちろん座頭(ざがしら)の役です。
というわけで、ここでは最後にちょっと出るだけですが、いちばん目立つオイシイところを持っていきます。

仁木弾正、奪った連判状を持って悠々と花道を引っ込みます。
「取り逃がしたか」と悔しがる男之助です。

ここは、仁木弾正は実際は花道の床を歩いていますが、お芝居上は雲の上を妖術で歩いている、という設定です。
実際の距離は走れば捕まえられそうなかんじですが、ここでは花道を舞台は別の空間として見るところです。

怪しすぎるネズミが消えたら、ふと見ると空中に家老が浮かんでいて、
そのまま悠々と空中を歩いて逃げていくのです。
というかんじで見て下さい。
ええ、3階席で花道見えなくても、だまって心の目で見る。

この「床下」のシーンはイキナリ雰囲気が変わるので知らずにみるとびっくりします。
御殿で女のヒトがしゃべってるだけだと迫力がないので、最後に動きのある場面をサービスで付けたのです。
あまり深く考えずに楽しんでください。


以下、豆知識的なアレです

現行上演だと、お見舞いに来るのは「八汐」(悪)「沖の井」(善)「松島」「(善)です。
「沖の井」も「松島」も、共にみちのく系の歌枕です。
伊勢物語で、みちのくにいた業平が「都に帰る」と言ったら、土地の恋人のおねえさんが悲しんで
 おきのゐて 身を焼くよりも かなしきは 都しまべの 別れなりけり
と詠んだので、そこから取られています。
でもって「おきのゐて」のイミは、本来は「未詳」になっています。「沖の井」は当て字です。
という説明は本編はぜんぜんと関係ないのですが、
伊勢物語と百人一首は押さえた方が歌舞伎は楽しめますよという例として書いておこう。

文楽版では「松島」さんは出ません。
なぜなら文楽版にしか存在しない「仁木弾正館’にっきだんじょう やかた)」の場面に出てくる仁木の息子の若いお嫁さんが「松島」だからです。
「仁木弾正館」の場もおもしろいのですが、歌舞伎では出ませんもったいない。

というように、「伽羅先代萩」というこのお芝居は、文楽の同名作品の歌舞伎への移入作品なのですが、
これとは別に、歌舞伎には「伊達競阿国戯場(だてくらべ おくにかぶき)という作品があり、
これも仙台のお家騒動を扱った内容です。
いま「先代萩」を最長バージョンで「通し上演」する場合、この「伊達競阿国戯場」と「先代萩」を混ぜて出すのが一般的です。
具体的には序盤の「花水橋(はなみずばし)」と、
途中の世話場の「絹川村」がそれになります。
「絹川村」の解説がないので(怖いので書きたくない)、ほぼおなじ内容の所作(しょさ、踊りね)「かさね」の解説を貼っておきます。
=こちら=

というわけで、文楽版の通りにセリフを言うといろいろ前後の場面とつじつまが合わなくなるので、
この場面ではセリフや登場人物をかなり削ってあります。
結果として、予備知識があまりなくても混乱せずに見られる内容になっております。

でもね、現行作品の前半部分より、文楽の「先代萩」の前半の方が絶対おもしろいんですよ。
いっぺんお芝居でも見てみたいものです。


・タイトルの「伽羅先代萩(めいぼく せんだいはぎ)」について

「先代」は「仙台」の暗喩です。江戸時代はお芝居で実在の事件をそのまま書いてはいけなかったのです。
ましてお家騒動ネタなんてああた。
「伽羅」は本来は「きゃら」と読みます。「伽羅」は香木です。香木の中でも伽羅はグレードが高いですから、「めいぼく」と読ませます。
実際に遊興が派手すぎて隠居させられた仙台候が、香木で作った下駄を履いて吉原通いをしたという史実からこのタイトルは取られていますが、
文楽版ですと、ちゃんとこの伽羅の下駄もストーリーに役立っています(ムリクリだけど)。
「萩」は今も宮城の県の花のはずです。これも文楽版だとちゃんと(以下略)。
おもしろいのに浄瑠璃版(しつこい)。

というように、お芝居の内容を暗に表現して
「あの事件を題材にしていますよ」と客にアピールしているタイトルです。

「花水橋」は=こちら=
「対決(評定場)」「刃傷」は=こちら=

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7 コメント

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思いがけず時間が取れて (花かいど)
2011-04-29 11:36:02
昔習っていた長唄の三味線を出してきました。
勧進帳のCDをオークションで手に入れ
勧進帳からみでこちらにたどり着きました。
なんてありがたいブログでしょう。
たくさん勉強させていただきます。
いつもありがとう (ひろさん)
2013-05-07 14:17:28
これから歌舞伎第二部に行ってきます。

先月の

熊谷陣屋も盛綱陣屋も、よくわかりました(^_^;)

このサイト凄いです。

友達にも教えてあげたいです。
素晴らしい解説です。 (歌舞吉)
2013-05-17 10:42:41
歌舞伎座の解説より解り易くたのしく理解できます。
昨日第二部見て来ました。ところが楽しみにしていたまま炊きの場面がありませんでした。
演者により異なるのでしょうか?
是非一度みてみたいのですが。
Unknown (ひろせがわ)
2013-05-19 15:08:59
コメントありがとうございます。。今回の「まま炊き」カットは、役者さんの都合というか、
3部構成でお客さんをたくさん入れる都合上、上演時間を短くしているのだと思われます。
こけら落とし騒ぎが終わって歌舞伎座自体がもう少し落ち着いたころに、秋の芸術祭参加公演などで上演するのをねらうと、ていねいな演出のをご覧いらだけるのではないかと思います。
私は18日に観てきました (浄瑠璃派)
2013-05-19 21:13:14
まま炊きのないのを初めて観ました。
一緒に行った友人も、初めての先代萩なのに、こちらのページで予習していたので、ないの?と言ってました。

それはさておき、予習に教えたこちらのページ、大絶賛でした。
筋書よりイヤホンガイドよりわかりやすく、舞台が楽しめたそうです。

また別の演目も一緒にいくことになりました。
ありがとうございます!
とても参考かつ面白いです。 (やしましゅうじ)
2021-02-09 23:36:16
明日 鶴澤清治師匠の伽羅先代萩を聴きに行きます。 大変に参考になりました。これから国立や歌舞伎座に行く前に、必ず ここで予習していきます。しっぽ先生 最高です。
一番分かりやすい (まつい)
2021-02-16 23:06:53
とても分かりやすい解説をありがとうございます。少し古い投稿だったので(ある意味)残念に思っていたのですが、2021年のコメントがあり、うれしくてコメントしました。私も22日に鶴澤清治師匠の伽羅先代萩を聴きに行きます。すごく楽しみにしています。

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