歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

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「金閣寺」 きんかくじ 

2016年07月11日 | 歌舞伎
「祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれい しんこうき)」というお芝居の四段目になります。
もともとは文楽の作品です。
この四段目以外の部分は上演されることはありません。

この四段目と「祇園祭礼信仰記」という正式タイトルとの関連性が薄いため、「金閣寺」という副題で親しまれています。

というわけで京都の金閣寺のリアルなセットが印象ぶかい、豪華なお芝居です。
舞台は一幕です。ずっと金閣寺のセットです。庭に大きな滝と桜の木があります。

悪役の「松永大膳(まつなが だいぜん)」が、将軍「足利義輝(あしかが よしてる)」を暗殺したのが事件の発端です。クーデターです。
全部出すと、このクーデターを含めたいろいろな事件が起こる長いお芝居です。

・金閣寺の場

クーデターの首謀者の「松永大膳(まつなが だいぜん)」は、
暗殺した「足利義輝」の母親の「慶寿院(けいじゅいん)」さまを人質にして、金閣寺に立てこもっています。

足利義輝が死んだころですから時代は戦国時代です。 おおまかな設定は史実ベースです。

現行上演どこから出るのかはっきりしませんが、
さいしょから出すと、上のような事情を腰元たちが噂話に語り合う場面からはじまります。これは状況説明の常套手段です。

悪人の「松永大膳(まつなが だいぜん)」と弟の「喜藤太(きとうだ)」が、金閣寺のお座敷でゆったりと碁を打っています。
クーデターの真っ最中ですが、慶寿院さまを盾にここに立てこもっている限り大膳は安全です。
そういう余裕を表現している場面です。

大膳が動かない理由はもうひとつあります。いい軍師(ぐんすい)がいないのです。
誰か有能そうなのを召し抱えたいと思っています。

松永大膳は、さばき髪に綿入りの派手な衣装、顔は白塗り。「国崩し(くにくずし)」と呼ばれる悪役の典型です。
悪役ですが、大きな役なので一座で一番えらくてうまい、座頭(ざがしら)の役者さんがやります。
というわけでいちばん「オイシイ」役でもあります。
「国崩し」というのは、国を傾けるようなスケールの大きい悪人、という意味です。

大膳の弟の「喜藤太」は赤い顔の乱暴者です。
大膳は大きい役なのでエラソウにゆったりしていなくてはなりません。あまりバタバタ動けません。
代わりに、悪役らしく乱暴なことを言ったり実行したりするのが、この「喜藤太」の役回りです。

さて、ふたりは碁を打ちながらいまの状況について話をしています。
だいたい以下のようなことです。

「慶寿院」さまは、人質ではありますが、一応、大事なお客様でもあります。
慶寿院さまが、この金閣寺の天井に龍の絵を描いてほしいと言いました。
慶寿院の要望をかなえたい大膳は、絵師を連れて来ました。

龍を描けるほどの腕前の絵師は今の都にはふたりしかいません。
「狩野直信(かのう なおのぶ)」と、「雪姫(ゆきひめ)」です。
「雪姫」は有名な狩野派(かのうは)の絵師であった「狩野将鑑(かのう しょうかん)」の娘です。「直信」は、弟子です。
狩野将監は死んでしまったので、今龍が描けるのはこのふたりしかいないのです。

じつは狩野直信と雪姫は夫婦です。ラブラブです。

大膳はまず狩野直信に命令したのですが、言うことを聞きませんでした。
なので直信は今は牢屋に入れられています。大膳がその気になればいつでも殺せます。

雪姫ちゃんも断ったのですが、大膳は美しい雪姫ちゃんを気に入り、この金閣寺に雪姫を閉じ込めて口説きはじめました。
「絵を描け」と「俺のものになれ」両方を同時進行で口説いています。

だいたいそんな話をしたあと、大膳が部屋の奥の障子を開けると、美しい雪姫が座っています。

関係ないですが「雪姫」の「姫」は名前だけです。そこまで身分は高くありません。 もともと「小雪(こゆき)」といいます。
いまは出ないはじめのほうの部分で腰元としてお城で仕えていた小雪ちゃんが、
すごく賢いので褒められて「雪姫」と名乗るのを許される場面があります。

というわけで悪人の大膳は雪姫を部屋のおふとんの上に座らせて「ワシのものになれ」とか「龍の絵を描け」とか要求します。
「言うことを聞くまでは布団の上の極楽責め」というわけで、かなりセリフはきわどいです。
言うことをきかないと夫の直信を殺されてしまうかもしれないので、雪姫は絶体絶命です。

雪姫は、すでに結婚しているので大膳の愛人になるのは困るし嫌なのですが、
龍の絵については、描けるものならべつに描いてもいいと思っています。
ただ、花や鳥と違い、龍は実在しないものなのでお手本がないと描けないのです。

お手本になる龍の絵は、狩野家に先祖代々伝わっていたのですが、
数年前父親の狩野将監が殺され、そのときにその絵も盗まれてしまいました。
なので龍の絵は描けないのです。とほうにくれる雪姫ちゃんです。


ところで、わかりやすいように先にネタバレしておくと、
慶寿院さまを取り戻してクーデターを阻止すべく、「小田春永(おだ はるなが、織田信長です)」が動いています。
家来の「此下東吉(このした とうきち)」がスパイとして入り込みます。

というわけで、「此下東吉(このした とうきち、木下藤吉郎です)」が登場します。
「十河軍平(そごう ぐんぺい)」という大膳の家来に連れられてやってきます。
軍平は、東吉を怪しんで東吉に刀を突きつけながらやってきますが、大膳にそこまでしなくていいと制止されます。

ここで大膳の周囲の家来たちを整理しておくと、
派手な服の「喜藤太(きとうだ)」は、大膳の弟です。完全に同格ではなく、家来っぽい立場です。なので大膳に敬語を使います。
「石原信吾(いしはら しんご)」「乾丹蔵(いぬい たんぞう)」「川島忠次(かわしま ちゅうじ)」の3人はふつうの家来です。
歌舞伎だと名前が違うかもしれません。
そしてここで出てくる「十河軍平(そごう ぐんぺい)」です。

身内である「喜藤太」は別格として、大膳はこの「軍平」のことを特に信頼しています。

じつは一応、最初のほうで大膳が
「此下藤吉という男が春永の家来をやめてウチに来たがっているらしい。いま軍平を迎えにやっている」
とセリフで言っているのですが、おそらく聞き取れないだろうと思います。序盤なのでカットされている可能性もあります。

東吉が今「小田春長」に仕えていることは大膳も知っています。
東吉は「春永(信長)さまよりもいまは大膳さまのほうが景気がいいし成功しそうなので乗り換えたい」と言います。
ふつうに考えると怪しいのですが、大膳はあっさり信じます。
これも、じつははじめのほうのセリフで
「計略かもしれないが、計略に乗ってみるのも手だと軍平が言ったのでそうしてみる」と大膳が言っていますので、
これは信じるふりをしているのです。大膳もそこまでバカではありません。


あいさつ代わりにふたりは碁を打ちはじめます。

ところで、さらにネタを割ってしまうと、この軍平も「小田春永(織田信長)」側のスパイです。正確には東吉の家来です。
かなり前から入り込んでいるのです。
さっき刀を突きつけていたのは、大膳を油断させるための芝居です。

じつは、この碁を打っている場面の浄瑠璃(じょうるり、舞台横で太夫さんが語っているあれ)の文句で、
「軍平は碁のアドバイスをしているふりをして、チャンスがあったら大膳を討てと東吉に言っているのだが大膳は気付かない」
と言っている部分があるのですが、
浄瑠璃の文句はほぼ聞き取れないので気づく人はまずいません。


さて雪姫です。
大膳が夫の狩野直信を殺すというので、しかたないので大膳に身を許す決心をします。
雪姫は勇気を出して大膳のそばに行ってそう言うのですが、大膳は碁に夢中です。
雪姫の言葉を碁の用語を取り違えてなかなか理解しません。

ここはとんちんかんなやりとりが笑えるはずなのですが、ニホンゴなのにすでに通じない古典文法と、さらに通じない碁用語のせいで
非常にに意味不明な場面です。
一応、そういうシャレのシーンなのです。

家来の軍平が大膳の言った碁用語を「斬れ」という意味に取り違え、直信を斬りに行こうとするのを雪姫があわてて止めるシーンがあって、
やっと大膳は我に返ります。
展開上たいしたシーンではないですが、意味不明だと思うので説明しときます。

でもまだ碁は続き、今度はふたりは戦に見立てて延々と碁をうちます。遊んでいるように見せて東吉の軍事センスを見ているのです。
やっと東吉が勝ちます。

大膳は今度は碁笥(ごけ)を庭の井戸に放り込みます。
「碁笥(ごけ)」というのは碁石を入れるまるい器です。
「手を濡らさずに碁笥を井戸から取り出せ」と大膳は東吉に要求します。入社試験みたいな感じです。

東吉は滝の水を樋(とい)を使って井戸に流し込み、見事に碁笥を取り出します。
ここで、ただ取り出すだけでなく、碁盤に碁笥を載せて大膳に差し出します。
これは台に人間の首を載せた状態を暗示しています。
このようにして見事に小田春永の首を切って献上してみせましょうというかんじです。

すっかり東吉が気に入った大膳です。採用が決定します。東吉と軍平は一度退場します。

さて、やっと雪姫が言うことを聞くのです。大膳はいそいそと雪姫の手を取ります。

大膳は「言うことを聞くならついでに龍の絵も描いて」と言うのですが、雪姫は描けないといいます。
先ほども書いたように、「狩野派の龍のお手本の絵」がないと描けないのです。
お手本は、その昔おとうさんの狩野将鑑が殺されたときに紛失したのです。

じゃあお手本を見せてやる、と言う大膳が、持っている刀を抜いて滝にかざします。
あらふしぎ。滝に龍の絵が浮かび上がります。
鏡で、光を当てると絵が浮かび上がるものがありますが、あのイメージの仕掛けだと思います。刀を魔鏡にするとは!!

この刀こそ、雪姫が探している家宝の「倶利伽藍丸(くりからまる)」なのです。
てことは、これを持っている大膳は、父を殺してこの刀を奪ったことになります。
父の敵は大膳だったのです。

細かく言うと、ずっと「龍が描かれた家宝の書を探している」と言っていたのは、「刀を探している]と言うと持ち主が警戒すると思って、
わざと情報にフェイクを入れていたのでした。
本当に探していたのは、「龍の絵を映し出す刀を持っている男」だったのです。

ちなみに「倶利伽羅(くりから)」というのは、「倶利伽羅竜王(くりからりゅうおう)」のことです。
えらい仏さまのひとり、「大日如来(だいにちにょらい)」の命令で仏法を守る「不動明王(ふどうみうおう)」の化身で、龍の姿をしています。
この剣は、朝日が当たると不動明王の姿を映し、夕日が当たると龍の姿を映すという不思議な仕掛けになっています。
なので「倶利伽羅丸」という名がつきました。中国渡来の神秘の品です。

ということで、イキナリ急展開で雪姫が大膳に斬りかかります。
たぶん見ていたら状況がわからず、「え、え、何で」て感じだと思いますが、そういうことです。

しかししょせん女の細腕です。雪姫は出てきた喜藤太に取り押さえられて、庭の桜の木に縛られてしまいます。
様子を見ていた東吉が怒り狂い、雪姫を殺してしまおうとします。
その様子を見た大膳は、あらためて東吉を信用する気になります。

さて、大膳は捕まえて閉じこめてある狩野直信を殺すことにして、軍平に処刑を命令します。
家来たちは、雪姫も殺さないのかと聞きますが、
桜の木に縛られた雪姫は、じつに美しいのです。殺すのはもったいないと思う大膳。あとでもう一度口説くことにします。

大膳たちは退場します。

縛られた直信が軍平に引かれて出てきます。どちらも動けない雪姫と直信との、お別れの場面があります。

絶望する雪姫ですが、そういえば直信に言い忘れたことがあります。父の敵は大膳なのです。
直信はもう死んでしまうのですが、しかし伝えなくてはなりません。あせる雪姫。

ここからとても有名な場面になります。

満開の桜の木に美女が素足でしょんぼりと縛られているというエロティックな場景があざといです。
素足の雪姫はつま先で桜の花びらを並べてネズミを描きます。
雪姫はとても実力のある絵師です。なのでこのネズミが命を持って抜け出て、雪姫の縄を食いきります。
一応セリフと浄瑠璃で説明していますが、見ていたら分りにくいかもしれません。そういう展開です。

逃げようとする雪姫を大膳の弟の喜藤太(きとうだ)が急に出てきて止めますが、
これまた急に出てきた東吉に殺されます。
ここは歌舞伎の定番の場面で、離れた場所から東吉が刀を投げ、それに刺されて喜藤太が死ぬのですが、
客席からは投げられた刀が見えないので(実際には投げていない)何が起きたかわかりにくいです。
お約束の動きなので、ここもついていってください。

東吉は、「真柴久吉(ましば ひさよし)」と名乗ります。羽柴秀吉です。

ストーリー上は、ここではじめて東吉が味方だとわかることになりますが、
一般的な文楽作品に比べると、わりと見る側にはじめから正体がバレバレ展開になっており、
安心感はある一方どんでん返し的なスペクタクルには欠けます。

倶利伽羅丸は大膳が喜藤太にあずけていました。
東吉が死んだ喜藤太から刀を奪い取って雪姫に渡します。

直信を処刑するために連れて行った軍平も、さきほど説明した通り、東吉の家来ですから気遣いはありません。
軍平の本当の名は「加藤正清(かとう まさきよ、加藤清正です)」です。

雪姫は、大膳のが父の敵だと知らせるべく、直信のところに向かいます。雪姫退場。

あとは東吉が桜の木を登って、お寺の三階に閉じ込められている慶寿院さまを逃がそうとする場面があります。
もう完全にあきらめていた慶寿院さまですが、
死んだ義輝の弟で、出家していた「慶覚(けいがく)」さまが、春永の説得で還俗しました。
「足利義照(あしかがの よしてる)」と名前も変えて、軍を起こす決意をしたのです。
その話を聞いて勇気を出して逃げることにする、という場面ですが、今はかなり短くなっています。

慶寿院さまを助けだした東吉(真柴久吉)と軍平(加藤正清)は、仲間の軍勢も呼んで大膳を討ち取ろうとしますが、
大膳も予測はしており、戦闘態勢を整えています。

久吉と正清が、出てきた大膳とにらみあいます。

現行上演ですと、大膳が外からやってきて、建物の中に、衣装を着替えた久吉(東吉)たちがいる段取りになっていることもあります。

いずれにしてもここでは決着は付けず、戦場であらためて会うことにして「さらばさらば」で幕になります。

おわりです。

チナミにワタクシ、一応五段全部読みましたが、何でこんなお芝居作ったんだろうと思うほどつまらないです。
ほかの部分が上演されないのも無理はないかと思います。
時代物の文楽作品は、セリフが多くて上演には向かないとか内容が似たものが多い、などの欠点がはあるものの、読めばおもしろいものが多いのですが、
これは本当におもしろくない謎の作品です。

この段も、場面場面の派手さだけが売りなのだと思います。
しかし登場人物が全員華やかで見栄えがよく、舞台面も派手。全員に見せ場があるなど、歌舞伎の上演用のひと幕としては完璧です。
作品のとしての完成度を越えてこの部分だけが残った例だと思います。

ですので、
雪姫の苛められっぷりがあざとくてキレイ、とか
此下東吉がかっこよくてアタマもよくてケンカ強くて正義の味方、という中身空っぽの(おい)楽しい役、とか、
チラっと出る雪姫の恋人、狩野直信の若々しい美しさとか、 松永大膳はさすがに貫禄があってかっこいいとか、
そういう場面場面の絵的な楽しさを、細かいことは気にせず気楽にご覧いただけばいいと思います。

とはいえ最低限の設定は押さえよう、とか、あと一応史実ベースなのでできれば日本史勉強しておこう、というあたりが
歌舞伎のめんどくさいところでもあり、いいところでもあります。


あと、全く知らなくていい事ですが、
「国崩し」という役柄の名前ですが、もちろん、「一国を滅ぼすようなスケールの大きい悪党」、という意味なのですが、
もともとこの単語には一般名詞として別の意味があります。
「大砲」です。
当時の「大砲」と言えば国土をうち砕くような超強力最終破壊兵器というようなイメージです。
そういう強大な破壊力もイメージされているのだと思います。
悪役っぷりを表現するのにふさわしいと言えますが、
ところで、「大砲」には、別の意味もあります。
まあ、
「でかい」ということです。
どれくらいそのへんの「でかい」というニュアンスをこの呼び名が内包しているのまではちょっとわかりません。
書いてみただけです申し訳ありません。


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3 コメント

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うれしかったですーっ。 (june)
2008-02-02 11:39:06
新春浅草歌舞伎でこの演目を見て、いろんな細かいところが気になっていたので、こちらで知ることができて、
すごくうれしかったですーっ♪
浅草歌舞伎では、
松永大膳を獅童さん(雪姫を亀治郎さん)がされていたのですが、「布団の上の極楽責め」というセリフが個人的にあやしいなぁと思ってて、やっぱりそんな意味なのですね。極悪な”うへへへへへへ”とか笑う感じが、ヒールっぷりがとてもおもしろくて楽しかったです。
お昼寝されてる方、多かったです。
歌舞伎初心者としてはちょっとびっくりしました。
Unknown (ちさ)
2009-06-14 21:07:41
来週、博多座で歌舞伎デビューします!
金閣寺、どのようなお話なのか最低限
楽しむために知っておこうと調べたところ、
とってもいいサイトに出会えました。

ありがとうございました!
これで安心です。
Unknown (Unknown)
2018-02-04 02:24:52
最近 歌舞伎にはまってこちらのサイトに到着しました。 とても分かりやすくて勉強になりました。
またの更新 心よりお待ち申し上げておりまする。

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