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聖者の生涯 「ミラレパ」

2011-01-03 18:53:45 | 経典の言葉・聖者の言葉



ミラレパ


 ミラレパはお金持ちのお坊ちゃんとしてチベットに生まれました。幼名をトゥーパガといいました。
 父と母と妹との四人家族で、その地方で名の知れた大富豪でしたが、ミラレパが七歳のころ、父が他界しました。
 父は遺言を残していたにもかかわらず、貪りの強い叔父と叔母が、一家の財産をすべて奪い取りました。そしてそれのみならず、残されたミラレパの一家を、奴隷のように扱ったのです。
 昨日まで良い服をして良い暮らしをしていたミラレパ一家は、今やぼろをまとい、奴隷のように働き、物乞いによって食を得るという暮らしになってしまったのです。
 復讐を誓ったミラレパの母は、ミラレパに魔術を習いに行かせました。ミラレパは母の望みどおりに魔術を習得し、魔術によって叔父叔母の子供や親戚や仲間たち35人を殺し、復讐を果たしたのでした。叔父と叔母だけは見せしめのために生かしておきました。
 
 しかしこの復しゅう成功の後、ミラレパの中に、悪業を犯してしまった後悔の念と、真理を求める強い思いがわきあがってきました。そして魔術の師匠の紹介で、ミラレパはまず、ゾクチェンの師匠であるロントン・ラガのもとに弟子入りしました。
 ロントン・ラガは、ゾクチェンの教えを説明する際、「恵まれたカルマを持つ者は、この教えを聞くだけで成就を得る。瞑想の必要さえない」という表現を使いました。これには深い意味があったのですが、まだ教えを理解していなかったミラレパはこの言葉を文字通り受け取ってしまい、
「恵まれたカルマの私は、瞑想しなくても成就できるのだ!」
とうぬぼれてしまい、瞑想もせずにただ寝て時を過ごしました。 
 見かねたロントン・ラガは、ついにミラレパにこう言いました。
「お前はここに来たとき、自分を大罪人だと言ったが、それは正しかったようだな。私にはお前を成就させることはできない。
 さて、ロタクという地にマルパという偉大な師が住んでいる。その方の下へ行け。お前は彼とカルマ的な縁があるのだ。」

 マルパという名前を聞いた瞬間、ミラレパの髪の毛は逆立ち、戦慄が走り、目から自然に涙が溢れ出しました。前世からの縁がよみがえったのです。 
 こうしてミラレパはマルパのもとへ行きました。マルパも、実は夢の予兆で、ミラレパが自分に約束された偉大な弟子であることがわかっていました。しかし同時にミラレパが積んでしまった悪業の重さもわかっていたので、マルパはミラレパにわざと冷たくつらく当たり、ミラレパの悪いカルマを落とそうとしました。 
 マルパは教えを求めてきたミラレパに、教えを与えることなく、過酷な建築作業の重労働を命じました。たった一人で、巨大な建築物を建てさせ、それが完成間近というところでぶっ壊させ、また別のところでやり直させる、ということを繰り返しました。ミラレパは肉体的にもボロボロになりましたが、精神的にも、達成感を味わう直前で壊させられるということで、ボロボロになっていきました。
 苦悩を感じ、挫折しそうになったミラレパに対し、マルパは彼の師であるナーローの修行時代の話をしました。ナーローは師であるティローの過酷な指示をすべて忠実に守りぬき、解脱を得たのです。それは火の中に飛び込ませるとか、高い塔から飛び降りさせるとか、すべてが今ミラレパが受けている試練よりも過酷なものでした。マルパはこの話をし、
「お前にはこの方法は難しいだろう」
と言いました。ミラレパはこのナーローの話を聞いて信が増大し、涙を流し、これからマルパの師事にはすべて従おうと決意しました。

 マルパのミラレパいじめは、それからもいっそうひどくなっていきました。建築作業の試練だけではなく、たとえば弟子たちが集まって教えを受ける場において、ミラレパだけを排除し、みなの前でののしり、暴力を振るうなどして、ミラレパを精神的に追い詰めました。
 あるときは過酷な重労働で、ミラレパの背中に大きな傷ができました。それを見かねたマルパの妻ダクメーマは、マルパに懇願してミラレパに休みを与えてくれるように頼みました。数日間、ミラレパは休みを与えられ、その間、ダクメーマがおいしい食事でミラレパを癒してくれました。数日後、傷が治りつつあるのを見て、マルパはミラレパに、仕事に戻ることを指示しました。そしてミラレパに布を渡して、「これを使って傷口に泥が入らないようにして、石や材料は体の前で運べ」と言いました。ミラレパはこれを師の命令と考え、言われたとおりに、その布で傷口を守りつつ、重い石や材料を体の前で運びました。マルパはミラレパに対して厳しい態度の演技をしていましたが、このミラレパの姿を見て、「言われたことすべてにこのように忠実に従うとは、稀なことだ」と、密かに涙を流しました。

 しかしマルパが与える試練がどんどん厳しくなり、ついに耐え切れなくなったミラレパは、密かにマルパのもとを去っていきました。
 行く当てもなく放浪しているとき、ある老人に、文字が読めるなら、報酬をあげるから、仏典を読んでほしいと頼まれました。それはアシュタサーハスリカー・プラジュニャー・パーラミターでした。その中に出てくるサダープラルディタの物語を読んで、ミラレパは心を動かされました。サダープラルディタは、師に供養する供物を集めるために、自分の肉を切って売ろうとまでした菩薩でした。ミラレパは、「サダープラルディタなら、教えを受けるために、自分の心臓さえも差し出しただろう。しかし私は、何も差し出していない」と考え、マルパの下へ戻る決心をしました。

 戻ってきたミラレパを見て、マルパは内心喜びましたが、また冷たい態度で接しました。ミラレパは再び絶望に陥りますが、ミラレパを哀れに思っていたダクメーマが、ミラレパに秘策を授けます。それはマルパの手紙を捏造して、マルパの弟子であるゴクパのもとに送り込み、ゴクパから教えを授けてもらうという案でした。ダクメーマは、マルパがなぜミラレパに試練を与えているかという深い意味が理解できなかったので、人間的な哀れみから、ミラレパに助け舟を出してしまったのです。
 こうしてミラレパは再びマルパのもとを去り、ゴクパのもとをたずねて、ダクメーマが捏造したマルパの手紙を見せ、ゴクパに教えを請いました。ゴクパはその手紙を信じてミラレパに秘密の瞑想法を授け、ミラレパは瞑想修行に入るのですが、マルパの祝福がなかったために、その瞑想は全く効果を生みませんでした。
 そしてそのころ、マルパの息子のために建てられた塔の完成記念の宴が開かれることになり、ゴクパのもとにも招待状が来ました。そしてそこには、「私のものである悪人も一緒に連れてくるように」と書いてありました。そこでミラレパも一緒にマルパのもとへと向かいました。
 宴の席において、マルパは、なぜ許可なくミラレパに秘密の瞑想法を教えたのかと、ゴクパをしかりました。そしてそれがダクメーマの仕業であることがわかると、マルパは怒り狂い、ダクメーマを叩こうと立ち上がりました。ダクメーマは部屋に逃げ、鍵をかけて隠れました。
 この一連の騒ぎの間中、ミラレパは心臓が張り裂けそうでした。
「自分は悪業多く、教えを受ける良いカルマがない。それどころか、自分の存在によって、ダクメーマやゴクパにまで迷惑をかけている。私のようなものは死んだほうがましだ。来世こそは、信仰に値する者として生まれ変わりますように!」
 こうしてミラレーパは、刃物で自分の喉を切り、自殺しようとしました。しかしゴクパが間一髪それを止め、言いました。
「時が来ていないのに自ら命を断つのは、大きな罪になる。この試練を耐えれば、必ずマルパは教えを与えてくれる。マルパが与えてくれなかったら、私が与えることもできる。だから死ぬなどということは考えるな。」
 このように涙ながらにミラレパの自殺を押しとどめました。
 
 しばらくすると、マルパの心は穏やかに静まっていました。そしてゴクパがいかにミラレパを勇気づけたかの話を聞くと、マルパは涙を流し、「秘密の道を行く者たちはこのようでなければならぬ。まさに彼はそのような者たちだ」と言い、ミラレパやゴクパや他の弟子たちを集めました。
 そしてその席で、ついにマルパはすべての種明かしをしたのでした。ミラレパがここにやってくる前から、夢の予兆により、ミラレパが偉大な約束された弟子であることはわかっていたこと、しかしその悪業を落とすために様々な試練を与えたこと。そしてマルパはミラレパに九つの塔を建てる試練を与えたのですが、ミラレパは八つの塔を建て、九つ目は完成させることなくゴクパのもとに逃げてしまったわけですが、もしミラレパが九つの塔を完成させていたら、その時点で、完全にミラレパの汚れは消え、完全な解脱を果たしたであろうこと、よってほとんどの罪は消し去られたが、最後で逃げてしまったために、わずかながら汚れが残ったことなどを説明しました。
 そしてここにおいてついにマルパはミラレパを正式に弟子として受け入れ、
「教えを授けよう。望み通り瞑想させ、幸福にしてあげよう」
と言いました。
 ミラレパは夢ではないかと疑うほど喜んだのでした。

 マルパに正式に受け入れられたミラレパは、教えの伝授を受け、洞窟にこもって瞑想修行に明け暮れました。そこにおいてミラレパの素質が開花し、悟りと解脱のプロセスをどんどんと進めていきました。
 そんなあるとき、ミラレパは、故郷に残してきた母や妹やその家が、悲惨な状態になっているという夢を見ました。いてもたってもいられなくなったミラレパは、マルパのもとへ行き、少しだけ故郷に帰りたいという願いを告げました。
 マルパは、象徴によって真実を読み取る力に優れていたのですが、ミラレパがこの願いを懇願しにやってきたときの様々な状況を読み取って、もし今ミラレパを行かせたなら、マルパとミラレパはもう一生会えなくなるが、その代わりこのカギュ派の系統の教えはチベット中にあまねく広まることになるだろう、ということを知りました。よってマルパは衆生のために、ミラレパを行かせることにしました。マルパはミラレパに、他の弟子には教えなかった秘密の教えを授け、「故郷には一週間以上いてはいけない。その後は洞窟から洞窟をさまよいながら修行せよ」と言って、ミラレパを送り出したのです。

 ミラレパが故郷に着くと、そこには夢で見たとおりの悲惨な状態がありました。母は貧困の中で死に、家はボロボロになり、妹は乞食となって放浪に出ていたのです。
 これを目の当たりにしたミラレパは、この世の無常性についての確信をよりいっそう強め、瞑想修行に生涯をささげることを決意しました。「もしほんの少しでも現世的な思いが私にわいたなら、守護神よ、そのときは私の命を絶ってください」という恐ろしい誓いを何度も繰り返しながら。
 ある人は、ミラレパがマルパのもとで教えを受けてきたと聞いて、ミラレパもマルパと同じように、妻を持ち、家庭を持ち、多くの弟子と信者に囲まれながら教えを説いていく道を歩くといいでしょう、と助言しました。しかしミラレパはそれに対して、
「それはライオンのしぐさをウサギがまねるようなもので、破滅をもたらす」
と答えました。ミラレパはあくまでも、マルパの指示通り、生涯、何も持たずに洞窟から洞窟をさまよいながら修行していく道を選んだのです。

 食物をあえて探しに行くこともせずに洞窟で修行していたミラレパの食事は、洞窟の周りに生えていた、食用に適さない草だけでした。そのため、ミラレパの体はガリガリにやせ、体は緑色になったといいます。
 あるとき、ミラレパの婚約者だった女性と、ミラレパの妹が、肉と酒を持って、ミラレパの洞窟を訪ねてきました。ミラレパは厳しい修行によって解脱寸前にあったのですが、厳しい食生活によるエネルギー不足により、「熱のヨーガ」の解脱に必要な心身のエネルギーが足りない状態でした。しかしこの肉と酒の供養を受けることにより、身体にエネルギーが生じ、気道は通り、一気に修行が進んだのでした。
 このようにしてミラレパは、「熱のヨーガ」や「マハームドラー」の修行をひたすら進め、稀に見る大成就者となっていきました。そしてミラレパの特徴は、なんと言ってもその美しい歌にありました。
 もともとインドやチベットの密教では、悟りの境地を、即興の歌であらわす伝統がありましたが、ミラレパはこの能力に非常に長けていました。ミラレパの歌は真理の真髄を絶妙に表現し、人々の心を打ち、またその歌声も非常にきれいだったといいます。
 またミラレパは大神通力者でもあり、弟子の前では、様々なものに変身したり、空を自由に飛んだり、いろいろな神通力を見せましたが、他の人にはそれを秘密にしておくようにと忠告していました。
 
 こうしてミラレパは、チベットで知らない人はいない、高名な大成就者となっていきましたが、有名になっても歳をとっても、寺に安住したりすることはなく、山の洞窟で瞑想をし続けました。多くのチベット人がミラレパの出家の弟子や在家の信者となり、多くの弟子が解脱と悟りを果たしました。

 ミラレパが83歳のころ、ミラレパの人気をねたむ一人の高名なゲシェ(大学者僧)がいました。彼はゲシェはミラレパが自分に挨拶を返さなかったことに腹を立て、恥をかかせてやろうと、みなの前でミラレパに論争をいどみました。しかしミラレパは観念的な言葉を重ねて論争をすることの無意味さを説き、次のような歌を歌いました。


栄光あるマルパ訳経法師の御足に礼拝いたします。
願わくば教義や教条の論議から除きおかれますよう。

我が師の祝福は私の心に染み通ります。
心は決してもろもろの気晴らしを求めて横道にそれはしませんでした。

愛と哀れみについて瞑想したので、
自他の間の一切の区別を忘れてしまいました。

我が師について瞑想したので、
勢力と権力を有する者たちのことは忘れてしまいました。

己から分かちがたいものとして、守護神を瞑想したので、
粗雑な感覚の世界のことは忘れてしまいました。

口伝の最勝の真理を瞑想したので、
弁証法の書物のことは忘れてしまいました。

純粋な意識を保ち続けたので、
過ちを犯す無明の知識は忘れてしまいました。

心の本質的な性質が3つのカーヤであると瞑想したので、
希望と恐れの思いを忘れてしまいました。

この生と来世について瞑想したので、
生と死の恐怖を忘れてしまいました。

独居の喜びを味わったので、
友や親族の意見を探し求める必要を忘れてしまいました。

己の意識の流れへと一つ一つの新しい体験をあてがったので
教義の論争に係わることは忘れてしまいました。

不生、不滅、無住を瞑想したので、
個別の目標のこれやあれやの一切の定義を忘れてしまいました。

現象の認知はダルマカーヤであると瞑想したので、
すべての心の作り出した瞑想を忘れてしまいました。

自由にして創出されざる境地(ダルマカーヤの心の状態)に心を保ったので、
偽善の慣習を忘れてしまいました。

体と心において謙虚に生きたので、
強者の尊大さと傲慢さを忘れてしまいました。

この身の内側に僧院を作ったので、
外側の僧院のことは忘れてしまいました。

言葉を超えたものの意味を受け入れたので、
言葉で遊ぶ方法は忘れてしまいました。



 この歌を聴いてもゲシェは納得せず、ミラレパを非難しましたが、聴衆は皆ミラレパの側につき、逆にゲシェが恥をかかされました。
 この一件によりゲシェはいっそうミラレパを恨むようになり、こう考えました。
「この無学なミラレパという男は、ブッダの教えにそむいた風変わりな言行をし、虚言によって人々から多くの布施や供物を奪っている。それに対して私は正統な仏教の教えに通じており、一番の金持ちで勢力を持っているにかかわらず、ミラレパは私の宗教的学識を認めず、私のことを犬よりも価値のない者のように見ている。これをやめさせるために、何か一計を案じなければならない。」
 そしてゲシェはなんと、ミラレパの暗殺を計画したのです。
 ゲシェは自分の愛人に、成功したらトルコ石をプレゼントし、正式に結婚しよう、と約束をし、ミラレパに毒入りのヨーグルトを持っていかせました。ミラレパは彼女からヨーグルトを受け取ると、こう言いました。
「それで、報酬のトルコ石は首尾よく手に入れたかね?」
 ミラレパが本当にすべてを見抜く力を持っていることを知った彼女は、ミラレパに懺悔し、自己の罪を後悔しました。しかしミラレパはあえてその毒入りヨーグルトを飲みました。その毒を飲もうと飲むまいと、すでに自分に臨終のときが迫っているのをミラレパは知っていたのです。そしてこの縁によって、このゲシェを救済しようとミラレパは考えたのです。
 ゲシェは最後までミラレパの神通力を疑っていましたが、最後は実際にミラレパが神通力と深い悟りを持っていることを悟り、そしてひどい病の苦しみをミラレパに与えてしまったことを後悔し、ミラレパに懺悔し、彼の信者となりました。今後は邪な行いをやめ、死ぬまで帰依に専念することを誓ったのでした。

 この出来事のしばらく後、ミラレパはこの世を去りました。ミラレパには「太陽ようなの弟子」といわれたガンポパと、「月のような弟子」といわれたレーチュンパという二大弟子がいましたが、二人ともミラレパの臨終に立ち会うことはできませんでした。レーチュンパがそこに到着すると、すでにミラレパの遺体は荼毘に付されていました。レチュンパは悲しみにもだえ苦しみ、祈りの詩を唱えました。その帰依の力は大変強かったので、ミラレパは再び生前のような姿でそこに現われ、レーチュンパに最後の教えを説いた後、再び消えていきました。

 ガンポパはミラレパの死を知りませんでしたが、レーチュンパがミラレパの形見を渡すためにガンポパを探し出し、ミラレパの死を告げました。ガンポパはそれを聞くとショックのあまり気絶してしまったといいます。その後、ガンポパはミラレパから受けた教えとカダム派の教えをミックスし、カギュ派の教えを体系化し、チベットに広く広めていきました。

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