ヨーガスクール・カイラス blog

True Yoga, to meet the true self.

「最後の試験」

2015-10-21 21:17:22 | 要約・マハーバーラタ



(終)最後の試験




 クリシュナ・バララーマの死と、ヤドゥ族の滅亡という悲報がハスティナープラに届いたとき、パーンドゥ兄弟は、この世に対する何の未練もなくしました。そしてユディシュティラは王位を退き、アルジュナの孫であるパリークシットを新たな王にすると、パーンドゥ兄弟とドラウパディー妃は、町を出て、巡礼の旅に出ました。
 諸国の聖地を巡礼して回った後、彼らは最後にヒマラヤに向かいました。一匹の犬が途中からどこからともなくついてきて、一行に加わっていました。

 六人と一匹は、最後の聖地であるヒマラヤの頂を目指して、険しい山を苦労して登っていきました。その途上、疲労のために、一人また一人と倒れて死んでいきました。まずドラウパディー、サハデーヴァ、ナクラの三人が亡くなりました。次にアルジュナが、そしてビーマも亡くなりました。
 ユディシュティラは、愛する者たちが次々と倒れて死んでいくのを見ましたが、嘆くことなく、晴れやかな気持ちで、前進し続けました。彼の目の前には、真理の太陽が光り輝いていたからです。彼はすでに、何が幻影であり何が実在であるかを知っていたのでした。

 犬だけは、さらにユディシュティラにどこまでもついていきました。実はこの犬は、ダルマ神の化身そのものなのでした。この出来事が象徴していることは、「生と死の旅における永遠不変の友は、ただダルマ(真理の法)のみ」ということなのです。

 ユディシュティラはついに、聳え立つヒマラヤの頂にたどり着きました。するとそこへインドラ神が、天の馬車に乗って現われました。インドラは言いました。
「弟たちやドラウパディーは、もうとっくについたよ。お前はまだ肉体をしょっているから遅れたのだ。そのままでいいから、わたしの車に乗りなさい。迎えに来たのだ。」
 ユディシュティラが言われたとおりにインドラの馬車に乗り込むと、犬も一緒に入り込んできました。インドラは、
「駄目、駄目。天界には犬の住む場所などない。」
と言って、追い払ってしまいました。
 するとユディシュティラは、
「では、私の住む場所もないでしょう。この忠実な犬を連れて行けないなら、わたしも行きません。」
と言って、馬車を降りてしまいました。

 ダルマ神の化身であるその犬は、ユディシュティラの行動を見て、彼のダルマに対する誠実さを見て取り、満足しました。そして犬はどこかへ消え去りました。

 改めてユディシュティラは天の馬車に乗り、天界に到着しました。するとそこには、ドゥルヨーダナがいました。ドゥルヨーダナは天の玉座に座り、周りには女神や天使たちが取り囲んでいます。しかしドラウパディーや弟たちはどこにも見当たりません。
 ユディシュティラはあまりの意外さに仰天して言いました。

「ドラウパディーと弟たちはどこにいるのですか? 天に住んでいるはずの彼らは!?
 貪欲で心の狭いドゥルヨーダナがここにいるなんて! わたしは彼と同席する気はありません。この男の嫉妬と悪意のために、わたしたち兄弟は友人や親戚を殺すような羽目になったのですよ。罪もないドラウパディーは、この男のために、公衆の面前で散々侮辱されたのですよ。
 こんな男は見るのも嫌です。さあ、弟たちがどこにいるか教えてください。彼らのいるところにわたしは行きたいのです。」

 ユディシュティラがこう言うと、天上に住むナーラダ聖仙が、いかにも賛成しかねるといった表情で微笑みながら、ユディシュティラにこう言いました。
「偉大なる王よ。そなたの考えは間違っておる。天界に住むわれわれは、悪意というものを抱かないのだ。ドゥルヨーダナに対してそんな言い方をしてはいけない。勇敢なドゥルヨーダナは、クシャトリヤとして彼の使命を全うして、今の境涯を得たのだ。
 肉体に属することを心に留め置いて、悪意をかもし出すのは良くない。天の法則にしたがって、ドゥルヨーダナと共にここに住みなさい。天界において、憎しみというものはありえないのだ。もっとも、そなたは人間の肉体を着たままでここへ来たのだから、ここに不適当な感情を持っているのも無理からぬことではあるが。だがユディシュティラよ。そういうものは捨てなさい!」

 ユディシュティラは答えました。
「おお、聖者よ。ドゥルヨーダナは善悪の区別も知らぬ大罪人で、善良な人々を苦しめて敵意を怒りを駆り立て、数え切れぬ人々を死に追いやったのですよ。そのような男が天界にいるなんて。
 では、もっと輝くすばらしい世界はどこですか? わたしの弟たちやドラウパディーは、。ここより上のところにいるに違いありません。わたしはドラウパディーや弟たちやカルナに会いたくてたまりません。それから友人たちや、わたしのために戦って死んでくれた王族たちみなにも、一刻も早く会いたいのです。ここには誰もいない。わたしはヴィラータ、ドルパダ、シカンディン、ウッタラ王子などにも再会したい。ドラウパディーが産んだかわいい息子たちやアビマンニュにも会いたくてたまりません。でも彼らはここにいない。
 犠牲火にささげられるギーのようにわたしのために戦火の中に身を投じ、命をささげてくれた彼らはどこにいるのですか? ここには誰もいないではありませんか。みんなどこにいるのですか? わたしは彼らと同じ場所にいるべきなのです。彼らに会えないなら、天界などにいたくはありません。」

 ユディシュティラのこの言葉を聴いて、天使たちが言いました。
「ユディシュティラよ。もし本当に彼らと一緒にいたいなら、今すぐ行かなければなりません。」
 こう言うと、天使たちは一人の案内人をつけて、ユディシュティラを送り出しました。

 案内人に導かれるままに進んでいくと、だんだんと道は暗くなり、得体の知れぬ薄気味悪いものが浮かんでは消えていきました。血と臓物らしきものでぬるぬるした地面を、ユディシュティラは足を滑らせながら必死に進んでいきました。また、路上には腐った肉や骨や、手足を切り取られた人間の体や、死人の髪の毛なども散らばっていて、いたるところに蛆虫がいました。辺りは耐え難い悪臭に満ちていました。

 ユディシュティラは身の毛がよだち、心は混乱しました。頭は様々な考えに悩まされました。
「こんな道をあと一体どれくらい歩かねばならないのか? 一体弟たちはどこにいるのだろうか? 友よ。教えてください。」
 こう言うと、案内者は答えました。
「もしお望みなら、天界に戻ってもいいのですよ?」

 ユディシュティラは一瞬、戻ろうかな、と思いました。するとそのとき、周囲から聞き覚えのある声が聞こえてきました。その声はすすり泣くように訴えます。

「おお、ダルマ神の子、ユディシュティラよ! 戻らないでください! ほんの少しでもいいから、ここにいてください。あなたがいると、わたしたちの苦しみが軽くなります。あなたと一緒に甘くさわやかな風が入ってきて、とても楽になりました。あなたを見るだけで、わたしたちはどんなに慰められることか。そして苦痛が和らぐことか。いつまでもとどまっていてください。お願いします。戻らないでください。あなたがいると、責め苦にさいなまれていても、わたしたちは楽しいのです。」

 聞き覚えのあるその声に対して、ユディシュティラは聞きました。
「おお、哀れな魂たちよ! そこで苦しんでいるのは誰だ?」

「王よ、拙者はカルナだ。」
「俺はビーマだ。」
「わたしはアルジュナです。」
「ドラウパディーです。」
「わたしはナクラです。」
「わたしはサハデーヴァです。」
「僕たちはドラウパディーの息子です。」

 このような悲しげな声が、あたり一面から沸き起こり、ユディシュティラの心の痛みは極限に達しました。
「一体彼らがどんな罪を犯したというのだ? ドゥルヨーダナは、どんな善行の報いで天界で胡坐をかいているのだ? 私の身内は地獄に落ちているのに。これは夢なのか? 現実なのか? 私は気が狂ったのだろうか?」

 そしてユディシュティラは、案内者に向かって激しい口調で言いました。
「お前は天界へ帰りなさい。私は、弟たちのいるここに住みます。私に対して忠実であったという以外の罪は何一つ犯していないのに、彼らは地獄で責め苦を受けている。私だけが天界に行くことなどできるものですか。私はここに残ります。」

 案内者は天界に戻り、この言葉をインドラ神に報告しました。

 こうしてユディシュティラは、地獄の苦しみの中に自らの身をおきました。
 そうして一日の三十分の一の時間が過ぎたとき、インドラ神とダルマ神がそこに現われました。するとその瞬間、闇は消え、おぞましい景色も消えうせました。地獄の責め苦も、責め苦で苦しむ地獄の住人も、どこにも見当たりません。かぐわしいそよ風が吹く中で、ダルマ神がユディシュティラに微笑んで言いました。
 
「人間の中で最も賢明な者よ。これは私がお前に課した最後の試験だったのだよ。お前は弟たちのために地獄に残ることを選んだ。見事に合格したね。
 王や統治者というものは、死後、短い時間でも、かならず地獄へ落ちなければならないのだ。だからお前も、一日の三十分の一の間だけ、地獄の苦しみを味わったのだよ。
 お前の身内は、本当は誰も地獄の責め苦など受けていない。あれはお前を試すための幻影だったのだ。ここは地獄ではない。天界なのだよ。さあ、もう悲しむことはない。」

 ダルマ神がこう言い終わると、たちまちユディシュティラは変身しました。人間の心身組織が脱落して、神となったのです。
 それとともに、怒りと憎しみは跡形もなく消えてしまいました。そのとき、ユディシュティラは見たのです。自分の愛する弟たちも、またドゥルヨーダナとその弟たちも、みな共に一切の怨憎から脱却して、清浄な神界において、至福のなかに仲良くたたずんでいるのを。
 この再会によって、ユディシュティラはついに真の心の平安と、真実の幸福を得たのでした。



「要約・マハーバーラタ」終わり。
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「クリシュナ・バララーマの捨身」

2015-10-21 17:13:21 | 要約・マハーバーラタ




(56)クリシュナ・バララーマの捨身



 クルクシェートラの大戦争が終わった後、クリシュナは、36年間に渡って、ドワーラカーの都で国を統治しました。
 ヴリシュニ族、ボージャ族をはじめとして、クリシュナの種族であるヤドゥ支族の人々は、豊かな物資に恵まれて、怠惰気ままな生活を送っていました。彼らはおごり高ぶり、修養とか謙遜などの気持ちをすっかり失ってしまっていました。

 あるとき、数人の聖仙が、ドワーラカーを訪れました。しかし傲慢無礼なヤドゥ族の人々は、聖仙たちを尊敬してもてなすどころか、身振りや口ぶりを真似たり悪ふざけをしたりして、からかいあざけったのでした。
 また彼らは、サムバという名の青年に女装をさせて聖仙たちの前に登場させると、言いました。
「さあさあ、お利口なお客様方。この貴婦人は男の子を生むか、女の子を生むか、当ててみてください。」

 このあまりの無礼なもてなしに対して、聖仙たちはこう言いました。
「この人は男の子でもなく女の子でもなく、鉾を産むだろう。そしてその鉾はこの民族にとって死神となり、やがてヤドゥ族は全滅するだろう。」
 こう言うと、聖仙たちは立ち去っていきました。

 愚かなヤドゥ族の人たちは、悪気があったわけではなく冗談のつもりだったのですが、このような不吉な結果になってしまい、狼狽しました。しかも翌日、サムバが陣痛に苦しんだ挙句、聖仙たちの言葉通り、本当に鉾を産み落としたので、びっくり仰天しました。聖仙たちの言葉通り、一族滅亡も実現してしまうのかと、彼らは恐怖におののきました。

 長いこと考えた末、彼らはその鉾をすり砕いて微細な粉にし、海にばら撒いて捨てました。彼らは、これで危険を免れたと思い、安心しました。
 しばらくの間は何も起こらず、やがて季節は雨季になりました。すると、鉾の粉を捨てたあたりの海岸に、イグサがびっしりと生えてきました。ヤドゥ族の人々は、それを見て面白がりました。もうそのころは、恐ろしい鉾と聖仙の予言のことなど、すっかり忘れてしまっていたのでした。

 それからさらにしばらくたったある日、ヤドゥ族の人々はその海岸で宴会を開き、一日中、飲めや歌えやの大騒ぎをしてすごしました。始めのうちは楽しかったのですが、やがて酔いが回るうち、昔の過失をほじくり返して口げんかをするようになってきました。
 クルクシェートラの大戦争において、ヤドゥ族の兵士の多くはクル軍について戦いましたが、サーティヤキはクリシュナと共にパーンドゥ軍につきました。そのサーティヤキと、クル軍についたクリタヴァルマンの間で、言い争いが始まりました。サーティヤキは言います。
「クシャトリヤともあろうものが、眠っている兵士たちを襲って殺すとは。なあクリタヴァルマン。そんなやつらの味方になったおぬしらは、わが民族の面汚しだぞ。」

 クリタヴァルマンも、言い返します。
「右腕を切り落とされて、ヨーガの座を組んでいる偉大なブーリシュラヴァスを、貴様はまるで屠殺人のように切り殺したではないか。卑怯者め。よくも自分のことを棚にあげて、この俺様を非難したな。」

 他の酔っ払いたちは、やがてどちらかの側について、激しくののしりあい、大混乱に発展してしました。そしてついにはサーティヤキが剣を抜いて、クリタヴァルマンの首をはね落としてしまいました。
「これが卑怯者の成れの果てだ!」

 するとたちまち大勢がサーティヤキに襲い掛かりました。クリシュナの息子のプラデュムナはサーティヤキを助ける側に回りましたが、混乱の大乱闘の中で、サーティヤキもプラデュムナも殺されてしまいました。

 この出来事を知ったクリシュナは、いよいよ定められたときが到来したことを知りました。そして海岸に繁茂しているイグサを引き抜いて、あたりにばら撒きました。すると、ヤドゥ族の人々は残らず同じようにののしりあい、殺し合い、無差別大殺戮へと発展してしまいました。こうしてヤドゥ族は全滅してしまったのでした。

 クリシュナの兄のバララーマは、この有様を見て、恥ずかしさと嫌悪感でいっぱいになり、大地にひれ伏しました。そして横たわった姿でヨーガのサマーディに入り、そのままこの世から去っていきました。額から発した白銀の光の流れに魂を乗せて、至福の大海へと帰っていったのです。こうして、バララーマとして現われた至高者の化身は、その使命を終えたのでした。

 クリシュナは、彼の一族が、予定されていた通りに相互に殺し合い、滅亡するのを見ていました。そして兄バララーマもこの世を去ったのを見届けると、彼は深く瞑想しながら荒野を歩き回り、化身(アヴァターラ)としての仕事が完了したことを思いました。
「去るべきときが来た。」
 このように自分に言うと、彼は大地に横たわり、そのままぐっすりと眠りました。

 そのとき、一人の狩人がそこへ近づいてきました。草木が生い茂る中で眠っているクリシュナを見て、狩人は獣と見間違い、矢を放ちました。矢はクリシュナの足を貫いて、体の深くまで突き刺さりました。こうして偉大なる至高者クリシュナは、深遠微妙なる使命を終えて、人間の世界を去っていったのでした。
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「三人の捨身」

2015-10-21 16:41:48 | 要約・マハーバーラタ


(55)三人の捨身



 ついにドリタラーシュトラとガンダーリーが、森へ向かう日がやってきました。
 ドリタラーシュトラは盲目のため、ガンダーリーの肩に手を乗せて歩きました。ガンダーリーも、ドリタラーシュトラへの操の証としてずっと眼を布で覆っていたため、クンティーの肩に手を乗せて、歩きました。このようにして、彼らは森へ向かったのです。途中まで、パーンドゥ兄弟も一緒についていきました。

 クンティーは歩きながら、ユディシュティラにこう話しかけました。

「息子よ。お前はサハデーヴァに話しかけるとき、いつも怒ったような言い方をするけれど、あれはやめてくださいね。
 それから、戦死したカルナのことを忘れないでおくれ。彼は私が最初に産んだ子、あなたたちの兄なのに、それを隠していて、本当に悪かったと思っています。
 ドラウパディーのことは大事にしてあげてね。そして弟たちを悲しませるようなことは、決してしないでね。
 今言った事を、いつも心に留めておいてくださいね。私の息子よ。これからは、家族の責任はあなた一人で負わねばならないのですから。」

 ユディシュティラは、母クンティーは当然、自分たちと同じように、ドリタラーシュトラとガンダーリーを森に送りに来ただけだと思っていたので、母のこの言葉を聴いて、どきりとしました。そしてしばらく沈黙していましたが、やがて気を取り直してこう言いました。

「駄目ですよ、母上! あなたはわたしたち兄弟を祝福して戦場に送り出してくださった。今になって私たちを見捨てて森へいらっしゃるなんて、とんでもないことです。」

 しかしクンティーは、ドリタラーシュトラとガンダーリーと共に森に隠退することを、すでに固く心に決めていたのでした。ユディシュティラの懇願にも揺るぐことなく、クンティーは言いました。

「わたしは、今どこかにいる主人と、早く一緒になりたいのです。森で苦行すれば、じきにあの人のもとへと行けます。騒がずにお戻りなさい。町へお帰りなさい。ダルマを固く守って、元気で暮らしてくださいね。」

 こうしてクンティーは、息子たちに別れを告げ、ドリタラーシュトラたちと共に、森へ入って行きました。ユディシュティラは呆然として、無言で立ち尽くしていました。クンティーは遠ざかりながら、時々息子たちを振り返りました。こうして三人の老人は、森へと消えていったのでした。

 ドリタラーシュトラ、ガンダーリー、クンティー、そしてドリタラーシュトラの忠実な部下であるサンジャヤの四人は、森で苦行生活に入りました。そうして三年が過ぎたある日、森が火事になりました。強風が吹いて、一面が火の海となりました。
 ドリタラーシュトラは、サンジャヤに言いました。
「この火は、わたしたちを飲み込んでしまうよ。お前は早く逃げなさい。」

 こうしてサンジャヤを逃がすと、偉大な盲目の王ドリタラーシュトラと、生涯夫に操を尽くし自らの目を覆い続けたガンダーリーと、パーンドゥ兄弟の偉大な母クンティーの三人は、東を向いて大地にヨーガの座法を組み、森の炎に身をゆだね、今生の肉体を捨てたのでした。

 その後、サンジャヤはヒマラヤに入り、出家修行者として余生を送りました。
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「ドリタラーシュトラの隠退」

2015-10-18 21:59:37 | 要約・マハーバーラタ


(54)ドリタラーシュトラの隠退



 ユディシュティラが晴れて王位についた後も、パーンドゥ兄弟は、息子たちを失って悲嘆にくれているドリタラーシュトラを、この上なく大切に取り扱いました。彼らは何とかしてこの老人を幸福にしようと努力し、自尊心を傷つけるような言動は一切しませんでした。また、ユディシュティラ王は、命令を出す際、必ずドリタラーシュトラに相談をしてからにしました。妻ガーンダーリーにはパーンドゥ兄弟の母クンティーが妹のようにかしずいて優しく世話をし、また王妃ドラウパディーも、ドリタラーシュトラとガンダーリーに奉仕をしました。

 このようにして、15年の月日が流れました。

 パーンドゥ兄弟はこのようにドリタラーシュトラを尊重し仕えていましたが、時がたつにつれて、気性の荒いビーマが、反抗的な態度を見せるようになってきました。彼は時々ドリタラーシュトラの指図を無視するのでした。また時には、
「あんな正道を踏み外したクル兄弟たちは、死んだほうがかえって親孝行だった」
などと、ドリタラーシュトラに聞こえよがしに言ったりもしました。
 ビーマは、ドリタラーシュトラにはうらみはありませんが、彼の息子のドゥルヨーダナやドゥッシャーサナなどのことは、いまだに許すことができないのでした。

 このようなビーマの言葉や態度に傷ついたドリタラーシュトラは、徐々に悲しみの重荷に耐え切れなくなっていきました。
 ドリタラーシュトラはこっそりと断食をしたり、苦行をしたりしました。ガンダーリーもまた、断食をしたり、いろいろな方法でわざと不自由な生活をして、苦行の代わりにしていました。

 そしてあるときドリタラーシュトラは、ユディシュティラ王を呼んで、こう言いました。

「ユディシュティラよ。お前を祝福する。私はお前の庇護の下で、15年の間、幸福に暮らしてきた。本当によくしてくれたね。私は希望したことはすべてかなえてもらった。
 私のひどい息子たちは、ドラウパディーに許しがたい乱暴を加え、正当な領地からお前たちを追い出し、その大罪のために自滅したのだよ。でも彼らは最後は勇敢に戦って使命を全うしたのだから、勇者たちの住む天界に行っていることだろう。
 さて、そろそろ私も、ガンダーリーとともに、次の段階に進むときがきた。聖典に書いてあることを、お前も知っているだろう。私はもう年をとった。そろそろ森へ行かなければならぬ。この立派な衣装を脱いで、粗末なぼろ布をまとわねばな。
 私は今から森に入って、お前たちの幸福を願いながら暮らしたいのだよ。どうか私の願いを聞き入れておくれ。」

 これを聞いて、しかもドリタラーシュトラとガンダーリーがすでにこっそりと苦行を行なっていたことを知って、ユディシュティラは非常に驚きました。

「私は少しも知りませんでした。あなたが断食をなさったり、土の上にじかに寝たりして肉体を苦行浄化しておられたことを。侍者にかしずかれて豊かに楽しく暮らしているものだとばかり思っておりました。
 息子たちを失ったあなたのお悲しみは、どんなことをしてもお慰めすることはできなかったのですね。私は国王の地位に、喜びも興味も持てないのです。私は罪びとです。欲と野心に毒されて、こういうことになりました。どうか、お望みならばあなたが王の役目を引き受けて、国民の面倒をみてやってください。森へ行くべきなのは私なのです。私に早くこの過ちを終結させてください。どうぞ私を助けてください。私は王ではない。王はあなたです。
 はっきり申し上げますが、ドゥルヨーダナに対する私の怒りは、すでに過去のものです。もう痕跡さえありません。私たちの心を混乱させ、私たちに制御できない事件を次々に引き起こしたのは、宿命のなせる業だったのです。
 私たち兄弟は、ドゥルヨーダナたちと同様に、あなたの子供です。ガンダーリー妃は私にとって、クンティー妃と同じように母親です。私は二人を同じように尊敬し、愛情を持っています。私はこの二人の子供なのです。
 もしどうしてもあなた方が森へ行くとおっしゃるなら、私もおともして森でお世話をさせていただきましょう。私をここにひとり残して、あなた方だけ森へ去られたら、私が王として国を治めていることに、何の意味もなくなります。
 私はあなたにひれ伏してお願いいたします。どうか、私たちの犯した罪をお許しください。あなたにお仕えさせて頂く事で、私は真に喜びを感じ、心が安らぐのです。どうかその機会と特権を私に恵んでください。私を捨てないでください。」

 ユディシュティラのこの真摯な言葉を聴いて、ドリタラーシュトラは深く感動しましたが、それでもきっぱりとこう言いました。

「クンティーのかわいい息子よ。わたしはもう決心したのだ。わたしは森へ入って苦行する。今はそのほかに心の安らぐ道はない。
 ずいぶん長い間お世話になったね。お前とお前の周りの人々は、真実よく尽くしてくれた。どうか、わたしのこの最後の希望をかなえてほしい。森へ行かせておくれ。」

 合掌して身を震わせて立っているユディシュティラに向かってこう言い終わると、ドリタラーシュトラはヴィドラとクリパに向き直って言いました。
「お前たちからも頼む。ユディシュティラを慰めて、わたしの頼みを聞き届けてもらってくれ。もうわたしは森へ行く決心をしているのだ。
 私はもう話せない。喉がひりひりするのだ。多分年のせいだと思うが・・・少ししゃべりすぎたようだ。疲れたよ。」

 こう言うと、ドリタラーシュトラはぐったりとガンダーリーに寄りかかり、そのまま気を失ってしまいました。

 ユディシュティラは、この高貴な老人の疲労ぶりを見るに耐えませんでした。ドリタラーシュトラはもともと象のような強靭な筋肉の持ち主で、かつてはビーマの身代わりとなった鉄の人形を抱きしめて粉々にしたほどの力があったのです。それがいまやこんなにもやせ衰えて、骨と皮ばかりになり、見るも哀れな姿で妻に寄りかかっているのです。

 ユディシュティラは、自分を責めました。
「わたしが彼をこんなふうにしたのだろうか? わたしは惨めな、値打ちのない人間だ。ダルマを知らず、知性に欠けている。わたしはいったい今まで何を学んできたのだろう!?」

 ユディシュティラはドリタラーシュトラの体に水をかけ、優しく体をさすりました。やがてドリタラーシュトラは意識を取り戻すと、ユディシュティラを抱き寄せて、小さな声でつぶやきました。
「ありがとう、とても気持ちがいいよ。わたしは幸せだ。」

 ちょうどそのとき、聖者ヴィヤーサが部屋に入ってきました。事情を聞くと、聖者はユディシュティラにこう言いました。
「ドリタラーシュトラの望むとおりにしてあげることじゃ。彼を森に行かせてあげなさい。もう十分に年をとったし、息子たちにも先立たれている。これ以上この世の苦しみに耐えることは無理というもの。神の恵みによって悟りを開いたガンダーリーも、これまで雄雄しく自己の苦しみ・悲しみに耐えてきた。彼らの行く手をさえぎってはならぬ。
 森の生活に恋い焦がれて、愚痴をこぼしながらここで死ぬなど、そんな死に方をドリタラーシュトラにさせてはいけない。この世のわずらわしさから解放され、薫り高い森の花々を友とする生活をさせてあげなさい。
 王となった人のダルマは、戦争で死ぬか、あるいは隠退して森で死ぬかのどちらかなのだ。いまや悪行消滅の懺悔苦行をするときが来たのじゃ。心から賛意を表して、行かせてあげなさい。そうして彼の心の中から、怒り・憎しみを完全に消滅させてあげなさい。」

 このように聖者に助言され、ついにユディシュティラは、ドリタラーシュトラとガンダーリーが森へ隠退することに同意したのでした。

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「一握りの粉」

2015-10-18 21:57:55 | 要約・マハーバーラタ


(53)一握りの粉



 ユディシュティラが王位についたすぐ後、戦争における悪業を清めるために、クルクシェートラの地にて、アシュワメーダという大きな供養祭が執り行なわれました。
 各国から多くの人々が集まり、また、ブラーフマナや生活困窮者たちに、たっぷりの施しものがおくられました。あらゆる点で、壮大で豪華な祭でした。

 すると突然、一匹のイタチが、招待客や僧たちが大勢いる大テントの真ん中に現われ、ひとしきり地面を転げ回った後、そこにいる人々をあざけるように笑いました。
 イタチの体は半分が黄金色に輝いていました。イタチは人々に、人間の言葉でこう語りかけました。

「お集まりの王様やお坊様方、お聞きください。皆さんはきっと、すばらしい供養祭を行なったと思っているでしょうね。しかし、昔々、クルクシェートラに住んでいた一人の貧しいブラーフマナが、一握りのとうもろこしの粉を供養しましたが、皆さんの豪勢な供養祭も、あのときのブラーフマナのささやかな供物には及びません。皆さんはこの供養祭にえらく自信をお持ちのようですが、どうかあまり鼻を高くしないでください。」

 集まっている人々は、びっくり仰天しました。あるブラーフマナが歩み出て、どういうことなのか話してほしいと、そのイタチに言いました。イタチはその大昔のささやかな供養の話について、語り始めました。


「あなたたちが戦争を起こすずっと以前に、一人のブラーフマナがクルクシェートラに住んでいました。彼と彼の家族は、田畑の落穂ひろいをして毎日の食を得ていました。
 毎日午後になると、家族四人は座って一日一回の食事をしていました。十分な落穂が拾えなかった日は、翌日の午後まで断食するのです。もしその日に必要以上の多くの落穂が拾える日でも、決して翌日のために蓄えておくことはしませんでした。これが彼らの選んだ『ウンチャヴリッティ』という厳しい修行生活だったのです。

 彼らはこのようにして何年も暮らしていましたが、ある年、大旱魃が来て、国中が飢饉になりました。耕作ができなくなり、種まきも収穫もしていないので、拾える落穂などあるはずもありません。ブラーフマナ一家は何日も飢えていましたが、ある日、空腹と暑さに苦しみながら、やっとのことでわずかばかりのとうもろこしの粒を拾い集めてきました。それを粉にひいて、お祈りをしてから四等分し、神に感謝しつつ、食事の席に着きました。
 ちょうどそのときです。飢えて死にそうなブラーフマナが、ふらふらと入ってきたのです。予期せぬ来客に彼らは立ち上がって挨拶し、一緒に食事をしてくれるようにと頼みました。魂の清浄なこのブラーフマナ一家は、この重大な状況のときに来客があったことを、心から喜んでいました。
『ようこそ、尊いブラーフマナ様。わたしは貧しい男です。このとうもろこしの粉は、ダルマから外れないやり方で得たものです。どうか召し上がってください。あなたを神が祝福してくださいますように。』
 貧しいブラーフマナはこう言って、自分の食べる分を全部客に差し上げました。
 客はがつがつとそれを食べてしまいましたが、量が少ないので、まだまだ足りません。

 客のその様子を見て、貧しいブラーフマナは、満足させてあげられないことに悲しみを覚えましたが、自分の分はもう全部差し出してしまったので、どうすることもできません。
 すると妻が言いました。
『だんな様。わたしの分もお客様にあげてください。お客様のお腹が満たされれば、わたしは嬉しうございます。』
 こう言うと、彼女は自分の分の粉を差し出しました。
 
 貧しいブラーフマナは、妻に言いました。
『信仰篤き者よ。獣も鳥も、すべての動物は、雌を養い保護するものだ。人間が動物より劣ってよいものか? わたしはお前の申し出を受けるわけにはいかぬ。家長としてのわたしの生活を助け奉仕してくれたお前を、飢えに苦しませておくようなことをしたら、この世でもあの世でも、わたしはいったいどんな報いを受けるだろう?
 愛する者よ。すでにお前は骨と皮だけになり、今にも飢え死にしそうなほど空腹ではないか、こんなお前を差し置いて、お客に食べさせたとて、何の利益があるだろう? 駄目だ、とてもお前の粉は受け取れない。』

 すると、妻は重ねてこう言いました。
『あなたは尊いブラーフマナで、聖典に精通していらっしゃるはずです。人間活動のあらゆる目的は、夫婦の間で共通であるべきですし、またその利益は平等に受けなければいけないのではないでしょうか? どうぞわたしを哀れと思し召して、この粉を受け取り、お客様の要求を満たしてくださいませ。あなただってわたしと同じようにお腹がすいているのですから、わたしを差別しないでくださいませ。どうぞお願いですから。』

 貧しいブラーフマナは、やむなく妻の粉を受け取り、客人に差し出しました。しかし客人はそれもまたあっという間に平らげてしまい、まだお腹をすかしていました。

 すると息子が進み出て、こう言いました。
『お父さん、わたしの分の粉があります。お客さんはまだお腹がすいているようですから、これをあげてください。』

 貧しいブラーフマナは、苦悩を感じながら言いました。
『息子よ! 年寄りなら飢えを我慢することもできるが、若者にとっては耐え難いものだ。わたしはお前の粉を差し出すことはできないよ。』

 すると息子は言いました。
『年老いた父の面倒を見るのは、息子の義務です。息子と父とは一体です。わたしの粉は、あなたのものなのです。お願いですから、この粉を受け取って、お腹のすいたお客様にあげてください。』

『愛する息子よ、お前の高貴な精神と、感覚制御の能力を、私は誇りに思うよ。お前に神の祝福のあらんことを!』
 こう言うと、貧しいブラーフマナは、息子の分の粉も、客に差し出しました。客はそれもぺろりと平らげましたが、まだひもじい様子です。

 すると、息子の嫁がこう言いました。
『お父様。わたしも喜んでわたしの分をお客様に差し上げて、私たち家族の義務を果たしたいと思います。どうぞこれを受け取って、娘のわたしを祝福してください。これによってわたしは永遠不滅の幸福を手に入れるのですから。』

 貧しいブラーフマナは、悲しんで言いました。
『清らかな心の娘よ。飢えのために青白くやせ衰えているのに、お前も自分の食べ物をくれるというのか。それを客に出すことによってわたしに徳を積ませようというのか。飢えに衰弱しているお前を見ながら、そんなことができると思うのかね?』

 嫁は、答えて言いました。
『お父様。あなたはわたしにとってご主人様であり、教師であり、神様なのです。なにとぞわたしを哀れんで、この粉をお受け取りください。わたしの肉体はわたしのご主人様にささげるためにあるのですから。どうぞわたしが永遠の幸福を得る手助けをしてくださいませ。よろしくお願いいたします。』

 このように懇願され、貧しいブラーフマナは、彼女の粉を受け取り、言いました。
『忠実な娘よ。すべての幸福がお前のものであるように!』

 こうして客はその最後の粉までもむさぼり食べて、やっと満足すると、こう言いました。
『おもてなし、本当にありがとう。あなた方は、純粋な善意と最大限の物でもてなしてくれましたね。あなた方の贈り物に私は心から満足しました。
 ほら! 神々はあなた方のすばらしいささげ物を賛嘆して、花の雨を降らせてくださっています! 御覧なさい! 神々があなた方を天上の楽園に案内するため、光り輝く馬車に乗って降りてきました。一握りの粉は、あなた方家族の天国を勝ち取ってくれたのです。
 飢えは人間の理性を破壊する。正しい道からそれさせる。悪い考えを起こさせる。篤信の人でも飢えの苦痛に耐えかねると信仰心も揺らぐものだ。しかしあなたは空腹の極限にありながら、勇敢にも妻や子への愛着を断って、ダルマを最優先させました。
 ラージャースーヤやアシュワメーダなどの供養祭をどんなに立派に行なっても、あなたの質素なもてなしに比べたら、万分の一の値打ちもありません。さあ、馬車が待っています。乗って、天へ行きなさい。家族と一緒にね。』

 そういうと、その不思議な客は消えてしまいました。」


 そのイタチは、そのように昔話を語った後、最後にこう言いました。

「わたしはそのとき近くにいて、ふわりと漂ってきたそのとうもろこしの粉の匂いをかぎました。するとわたしの頭が黄金色になったのです。嬉しくなってわたしは、粉がわずかにこぼれていた地面を転げまわりました。それがわたしの半身を黄金色にしたのです。残りの半身も黄金色にしたかったのですが、それだけの粉はもう、こぼれていなかったのです。
 その後、全身を黄金色にしたくてわたしは、人間が供養や苦行をしているところに出かけて行っては、地面に転がっています。そこで、世界に名のとどろいているユディシュティラ王が大供養祭を催すと聞いて、今度こそはと思ってやってきたのですが、やっぱり駄目でした。だからわたしは言ったのですよ、あなた方の大供養祭も、あのブラーフマナが客に出した一握りの粉ほどの値打ちはないと。」

 こう言うと、そのイタチは姿を消しました。
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「ウタンカ」

2015-10-18 21:38:01 | 要約・マハーバーラタ


(52)ウタンカ

 


 クルクシェートラの大戦争が終わり、クリシュナはパーンドゥ兄弟に別れを告げて、ドワーラカーへの帰途につきました。

 その途中の道でクリシュナは、昔からの友人であるブラーフマナのウタンカにばったり会いました。 

 お互いに挨拶を交わした後、ウタンカはクリシュナに言いました。
「クリシュナよ。あなたのいとこにあたるパーンドゥ兄弟は、いとこのクル兄弟と仲良くしていますか? 彼らは元気で活躍していますか?」

 この無邪気な修行者は、世界を揺るがすあのクルクシェートラの大戦争があったことも、それにより多くのクシャトリヤが死んだことも、全く知らなかったのです。

 クリシュナは、起こったことの一部始終をウタンカに教えました。話を聞き終わるとウタンカは激怒し、眼を真っ赤にさせて、クリシュナにくってかかりました。
「クリシュナよ。あなたはすべて起こるままにまかせて、ただ傍観していたのですか? あなたは義務を怠った。しかもあなたは策略を用いて、彼らを破滅させたのだ。わたしはあなたを呪ってやる。覚悟しなさい!」

 クリシュナは、微笑して言いました。
「静かに、静かに。落ち着いてください。偉大な修行の成果を、怒りのために無駄にしてはいけない。私の言うことをよく聞いて、それから、もしお望みなら、呪いの言葉をお吐きなさい。」

 クリシュナは憤慨するウタンカをなだめると、自らの正体である、すべてを包含する宇宙的形相を、ウタンカに見せました。そしてこう言いました。
「世を救うために、わたしはさまざまな姿をとって、さまざまな時代に現われる。
 どんな種類の体に生まれても、その体の天性にしたがって活動するのだ。
 神々として生まれたら、神々のごとく行動する。鬼神として生まれたら鬼神のように何から何まで行動する。人間や動物として生まれたら、その体に応じた働きを通して、わたしのなすべきことを達成するのだ。」

 クリシュナの真の姿を拝むと、ウタンカは落ち着きを取り戻しました。クリシュナは喜んで、こう言いました。
「何か願い事を聞いてあげよう。何がいいかね?」

 ウタンカは答えました。
「不滅の者、クリシュナよ。あなたの本当の姿を見せていただいたことで十分です。これ以上、何も望むことはありません。」

 しかしクリシュナがどうしてもと言い張るので、荒野を放浪する質素なブラーフマナであるウタンカは、こう言いました。
「それでは主よ、わたしが渇きを覚えたとき、いつでも水が飲めるようにしてください。」

 クリシュナは微笑んで言いました。
「それだけか? では、そうしよう。」

 こうして二人は別れ、クリシュナは帰郷の旅を続けました。
 
 ある日ウタンカは、荒野を旅する途中、たいそう喉が渇きました。しかしどこにも水は見当たりません。そこでウタンカは、クリシュナから受けた恵みのことを思い出しました。するとそこへ、一人のチャンダーラ(どのカーストにも入らない不可触賎民)が現われました。彼はぼろをまとい、五匹の猟犬を紐で引いて、肩に水の入った革袋をかけていました。このチャンダーラは汚い歯をむき出してニッと笑うと、
「喉が渇いていなさるようだね。さあ、この水を飲みなさい。」
と言って、革袋についた竹のストローを差し出しました。

 ウタンカはその男をじろじろと眺めました。不可触賎民、犬(ブラーフマナにとって犬は不浄とされている)、水の入った汚い革袋、汚いストロー・・・ウタンカはうんざりした顔つきで、その申し出を断りました。
 チャンダーラの男は、何度も水を勧めましたが、そのたびにウタンカは腹を立てて断りました。するとまもなく、その男と犬はどこかへ消えてしまいました。
 男の消え方があまりにも不思議だったので、ウタンカは考えました。
「あれは何だったのだろう? 本当のチャンダーラではなかったに違いない。これはわたしに与えられた試験だったのだ。そしてわたしは惨めに落第してしまったのだ。わたしはわたしの哲学についていけなかった。チャンダーラが提供してくれた水を断ったことで、わたしは自分が高慢な愚か者であることを証明してしまった。」

 ウタンカは、後悔と無念の思いに苦しみました。するとそこへいきなり、クリシュナが現われました。ウタンカは言いました。
「おお、至高者よ! ずいぶんひどい試練を課してくださいましたね。ブラーフマナのわたしに、チャンダーラの汚れた水を飲ませようとは。あなたはこういうやり方が好きなのですか? とても親切な方法とは思えません。」

 このようなウタンカの抗議に対して、クリシュナは笑って言いました。
「ウタンカよ。君が先ほど、わたしとの約束を思い出したとき、わたしはわざわざインドラ神のところへ行って、アムリタ(不死の甘露水)を普通の水に見せかけて君に与えてほしいと頼んだのだ。だがインドラ神は、別に不死を望んでもいない人間にアムリタを与えることはできない、と言う。わたしが重ねて説得すると彼は承知したが、チャンダーラの姿で甘露水を持って行き、ブラーフマナである君がその水を受け取るか否かで君の悟りの程度を試してみる、という条件をつけた。
 わたしは君がすでに真理の智慧を体得して、外観にとらわれない境地にいるものと信じていたから、喜んでインドラ神の条件をのんだのだよ。でも結果はこの通りで、わたしは見事にインドラ神にしてやられたというわけさ。」

 ウタンカは自分の浅はかさに気づいて、赤面しました。

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「ユディシュティラの苦悩」

2015-10-18 21:35:20 | 要約・マハーバーラタ

(51)ユディシュティラの苦悩


 クルクシェートラの戦争が終わって間もないとき、聖者ナーラダが、ユディシュティラの前に姿をあらわし、こう言いました。
「ユディシュティラよ。クリシュナの恵みと、アルジュナの武勇と、そなた自身のダルマの力によって、そなたは勝利を得て王位を獲得した。幸せかね?」

 ユディシュティラは答えました。
「聖者よ。王国が手に入ったのは事実です。しかし私は、多くの同族の者を失いました。愛する息子や甥たちも、皆死んでしまいました。この勝利は、私には大敗北のように思えます。
 それに聖者よ。私は血のつながった実の兄を敵とし、殺してしまいました。カルナのことです。実の兄を殺すという恐ろしい結果に至ったのも、もとはといえば私の所有欲が原因なのです。それに対してカルナは、母との約束を守って、私たちを殺さぬようにしました。ああ! 私は実の兄を殺した罪人なのだ! このことを考えると、私はいてもたってもいられなくなります。
 カルナの足は、母の足にそっくりなのですよ。あのひどいことが行なわれた大広間で、私の怒りは燃え上がり、カルナの足をにらみつけたのですが、それがあまりにも母クンティーの足に似ていたので、思わず怒りの火が消えてしまったほどです。それを思い出すと、よけいに悲しくなります。」
 
 こう言うと、ユディシュティラはため息をつきました。

 聖者ナーラダはここでユディシュティラに、カルナにまつわる話をすべて明かしました。

 カルナの出生の話。

 パラシュラーマから必殺の武器「ブラフマ・アストラ」を習ったが、それが肝心なときに役に立たなくなると予言された話。

 また、あるときカルナは、弓の練習をしているとき、放った矢が偶然、あるブラーフマナの牛に当たり、牛が死んでしまいました。そのブラーフマナは怒って、
「戦いのとき、お前の戦車の車輪がぬかるみにはまり、それが原因でお前は死ぬだろう。」
という呪いをかけました。まさにこの言葉通り、カルナの車輪はぬかるみにはまり、その隙にアルジュナに射殺されてしまったのでした。

 また、カルナは物惜しみしない男だったため、カルナが生まれながらに身につけていた神聖な鎧と耳飾りを、インドラ神が欲しいといった時、気軽にあっさりと渡してしまいました。このときからカルナの力は以前より少し弱くなりました。

 一連の話を明かした後、ナーラダは言いました。
「インドラ神に神聖な鎧と耳飾りをあげてしまったことで力が弱くなってしまったこと、パラシュラーマの予言、牛を殺されたブラーフマナの呪い、パーンドゥ兄弟のうち一人しか殺さないと誓ったこと、それにくわえて彼の御者のシャリヤが何かとカルナの武勇を見くびって彼の気力をそいだこと、そして最後にクリシュナの策略と、これらが皆一緒になって、カルナの死の原因となったのだ。君一人の責任ではないのだから、嘆くのはやめなさい。」

 ナーラダはこう言いましたが、ユディシュティラの気持ちは楽になりませんでした。

 カルナの死についてユディシュティラが苦しんでいることを知ったクンティー妃は、ユディシュティラに言いました。
「息子よ。カルナの死のことで、自分を責めてはいけません。
 彼の父である太陽神スーリヤが、そして私自身も、彼に懇願したのですよ。心のよこしまなドゥルヨーダナのもとを去って、ユディシュティラのもとへ行ってくれと。でも彼は私たちの忠告を聞かなかった。彼は自分で死を選んだのです。」

 ユディシュティラはクンティー妃に言いました。
「母上。あなたはカルナの出生の秘密を隠して、私たち兄弟をだまされましたね。それにより母上は、大きな罪の原因を作ってしまわれたのです。
 ああ、今後、すべての女性は、秘密を守るということが決してできなくなりますように!」

 実兄を殺したという苦悩にさいなまれて、ユディシュティラはこのように女性全体を呪ったのでした。


 カルナのみならず、戦死した多くの人々のことを思うにつけ、ユディシュティラ心の痛みは日増しにひどくなっていきました。自責の念に耐えがたくなり、彼はついに、悪業消滅のために、世を捨てて森に入ろうと決心したのでした。ユディシュティラは弟たちに言いました。
「この世の暮らしにはもう何の喜びも感じなくなった。王の仕事にも関心がなくなった。頼むから、お前たちで国を治めてくれ。そして私を森にやってくれ。」

 アルジュナは、必死で止めました。ビーマも、次のように言って反対しました。
「出家は、クシャトリヤのダルマではござらぬ。われわれの義務は、積極的に生きて、自分に与えられたカルマを一生懸命生きることであり、世を捨てて森に行くことではござらぬ。」

 ナクラも同様に止めました。
「カルマ・ヨーガの道を選んだほうが、間違いがありません。出家の道には困難が付きまといます。」

 サハデーヴァも同様に主張しました。
「兄上は私たちにとって、父でもあり、母でもあり、教師でもあるのです。私たちを捨てていかないでください。一緒に暮らしてください。」

 ドラウパディーもこう言いました。
「悪いことをした人に罰を下すのは王の義務の一つなのですから、ドゥルヨーダナたちを殺したのは、正しいことなのです。これは統治者として避けられぬ責務ではありませんか。あなたはその仕事を正しく行なったのですから、後悔する必要などどこにもございません。これからは、ダルマに従って国を治めるのが、あなたの義務でございます。いたずらに嘆き悲しむのは、おやめくださいませ。」

 そして聖者ヴィヤーサも、さまざまな例を挙げながらユディシュティラの義務について説明し、都へ行って国家統治の責任を負うようにと説得しました。

 こうしてみなに懇願されて、ユディシュティラはハスティナープラで王位につきました。統治の仕事を始める前に、ユディシュティラは、矢のベッドで死を待っているビーシュマ長老のところへ行き、祝福を受けてから、教えを求めました。

 ビーシュマはユディシュティラに、さまざまな教訓を与えました。このときの教えは「シャーンティパルヴァン」と呼ばれ、「マハーバーラタ」の実に四分の一に及ぶ膨大なもので、その後のインドの法律観や道徳観の基礎となったものです。

 ユディシュティラへの訓話が終わると同時に、ビーシュマの魂は肉体から抜け出ました。

 ユディシュティラはガンジス河に行き、儀式を行なって、ビーシュマの魂の冥福を祈りました。儀式を終えるとユディシュティラは、ガンジス河の流れを眺めながら、しばしの間、直立していました。過ぎ去った悲劇のすべてが心によみがえり、耐え難い痛恨のために意識を失って、倒れてしまいました。
 それを見つけたビーマが走りよってきてユディシュティラを抱き起こし、慰めの言葉をささやきました。そこへドリタラーシュトラもやってきて、こう言いました。

「もう悲しむのはやめなさい。立ち上がって、弟や友人たちに助けられながら国を統治しなさい。国民は皆それを待ち望んでいる。王としての仕事に精を出すのが、これからのそなたの義務だ。
 私は愚かだったから、ヴィドラの忠告に耳を貸さず、大きな過ちを犯してしまった。ドゥルヨーダナの愚かな言葉に従って、自分自身を欺いていた。夢の中の黄金のように私の栄光は消え去り、百人の息子たちも失った。だが、これからはそなたが私の息子だ。嘆くのはもうよしなさい。」


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「戦い終えて」

2015-10-18 21:22:47 | 要約・マハーバーラタ


(50)戦い終えて


☆主要登場人物

◎ドリタラーシュトラ王・・・クル兄弟の父。パーンドゥ兄弟の叔父。生まれつき盲目。
◎サンジャヤ・・・ドリタラーシュトラ王の御者。
◎ヴィドラ・・・ドリタラーシュトラ王の主席顧問。マハートマ(偉大なる魂)といわれ、人々から尊敬されていた。
◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。クンティー妃とダルマ神の子。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。
◎クリシュナ・・・パーンドゥ兄弟のいとこ。実は宇宙に偏在する至高者の化身。
◎ガンダーリー妃・・・ドリタラーシュトラ王の妃。クル兄弟の母。生まれつき盲目である王への操の証として、生涯、眼に包帯を当てて、何も見えない状態ですごしていた。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。ビーマに殺された。
◎ドゥッシャーサナ・・・ドゥルヨーダナの弟の一人。クンティー妃を公衆の前で辱め、その恨みでビーマに殺された。
◎シャクニ・・・ドゥルヨーダナの叔父。ドゥルヨーダナの代理としてユディシュティラとさいころ賭博で対決し、パーンドゥ兄弟を追放においやった張本人。
◎クンティー妃・・・故パーンドゥ王の妻。パーンドゥ兄弟の母。
◎ドラウパディー・・・パーンドゥ五兄弟の共通の妻。





 クルクシェートラの大戦争は終わりました。パーンドゥ軍が勝利をつかみましたが、両軍とも、ほとんどの兵士たちが戦死しました。
 
 ハスティナープラは、悲しみの町になりました。夫や親兄弟を戦争で失った女性や子供たちの泣き声が、町中に満ちていました。

 ドリタラーシュタラ王は、数千人の未亡人と共に、クルクシェートラの戦場跡に行きました。王は、過ぎ去った事件や亡くなった人々のことを思って、大声をあげて泣き続けました。

 サンジャヤは王に言いました。
「王よ。残された人々に慰めの言葉をかけても、彼らの悲しみは消えません。数千もの王たちが、あなたの息子のために命を捨てたのです。今は、死者のための葬儀を執り行なうのが、あなたの役目ではありませんか。」

 賢明で善良なヴィドラも、こう言いました。
「戦死した人々を嘆くのは正しくありません。魂が肉体から離れたとき、兄弟とか、息子とか、親戚とか血縁というものは関係なくなるのです。あなたの死んだ息子さんたちも、すでにあなたとは何の関係もないのですよ。血縁は肉体上の関係ですから、肉体の死と同時に終わるのです。こんなことは魂の永遠の生活における、ごく小さな事件にしか過ぎません。生き物はどこからともなく来て、死と共にどこへともなく消えていく。泣いてみても仕方がないことです。
 立派に自己の使命を果たして死んだ人は、天界に生まれ変わります。過去を嘆いていても、何も得られるものはありません。」

 聖者ヴィヤーサも、王にこう言いました。
「生きとし生けるものはすべて、必ず死ななければならない。
 私が直接ヴィシュヌ大神からお聞きしたところによると、今回の大戦争は、重くなりすぎた地球のカルマを軽減するためのものだったのだそうじゃ。だからこそ、誰も防止できなかったのじゃ。
 これからは、ユディシュティラを自分の息子のように考えて、彼を愛しなさい。そうして悲嘆を静め、生きることに耐えていくのじゃ。」

 ユディシュティラは、ドリタラーシュトラ王の前に行き、恭しく頭を下げました。ドリタラーシュトラ王は彼を抱きしめましたが、息子たちを全滅させられた悲しみの中にいる王としては、それは愛のない抱擁でした。

 次にドリタラーシュトラ王は、ビーマを抱擁しようとしました。そのとき賢明なクリシュナは、ビーマをどかせて、鉄の人形を、王の前に置きました。盲目の王は、そうとは知らずにその人形をビーマと思って抱きしめました。しかしそのとき、ドゥルヨーダナをはじめとして自分の多くの息子たちを殺したビーマへの強烈な怒りが湧き起こってきてしまい、つい腕に力が入ってしまいました。老いたるとはいえドリタラーシュトラの怪力はものすごく、その鉄の人形を粉々に粉砕してしまったのでした。
 われに返ったドリタラーシュトラ王は、
「しまった! 私の怒りが私の心を裏切って、愛すべきビーマを殺してしまった!」
と叫びました。
 しかしクリシュナは王に言いました。
「王よ、こういうことになると思ったので、私がビーマの代わりに、鉄の人形を置いたのです。ご安心ください。あなたはビーマを殺していません。今、鉄の人形を粉々にした行為で、どうか、あなたの怒りをやわらげてください。」

 ドリタラーシュトラは少し心を落ち着けて、改めてビーマを優しく抱擁しました。

 聖者ヴィヤーサは、ガンダーリー妃に言いました。
「王妃よ、パーンドゥ兄弟を怒ってはいけない。戦争が始まるとき、そなたはこう言ったではないか?――『ダルマのあるところに、必ず勝利があります』と。その通りになっただけのことじゃ。過ぎ去ったことに心を止めて、怒りを増長させてはいけない。今こそ、そなたの偉大な堅忍不抜の精神を発揮しなさい。」

 ガンダーリー妃は答えました。
「聖者よ。私はパーンドゥ兄弟の勝利をうらやみはしません。でも息子たちの死は、私から理性を奪ってしまったのは事実です。
 一族を滅亡させたのは、ドゥッシャーサナやシャクニなのです。アルジュナやビーマのせいではございません。『高慢』がこの戦争を引き起こしたのであって、当然の報いとして、息子たちはこんな運命にあったのです。これについては愚痴をこぼすつもりはありません。
 でもただ、納得のいかないことがあります。その場にクリシュナもいらっしゃったのに、ビーマがあろうことかドゥルヨーダナの足を攻撃して殺してしまったというのではありませんか。こんなことってあるでしょうか。ひどいと思います。これだけは許せないのです。」

 これを聞いて、ビーマは言いました。
「私はそうすることによって、かろうじて助かったのです。なにとぞ私をお許しください。あなたの息子さんは剛勇無双で、とても私には勝ち目はなかったので、助かりたい一心で、悪いとは知りつつもやったことなのです。どうか私をお許しください。」

 ガンダーリー妃は言いました。
「戦争に参加した私の多くの息子たちのうち、たった一人でも生きて残しておいてくれたらねえ・・・
 ところで、ユディシュティラはどこにいます? 呼んでください。」

 これらの会話を聞きながら、ユディシュティラは身を震わせていましたが、両手をぎゅっと握り締めて、ガンダーリー妃に近づきました。そして丁重に礼をしてから、優しい口調で言いました。
「王妃よ、あなたの息子たちを殺した残酷なユディシュティラが、あなたに呪われて当然なユディシュティラが、参りました。大罪を犯した私を、どうぞ呪ってください。命も領土も、もう私にとってはどうでもよいのです。」
 こう言いながらユディシュティラは地面に体を投げ出して、ガンダーリー妃の足に触れたのでした。

 賢明で善良なガンダーリー妃は、怒りを抑えてパーンドゥ兄弟を祝福し、彼らをクンティー妃のもとへと送りました。

 そしてガンダーリー妃はドラウパディーのほうを向き、自分と同様にすべての息子たちを殺されて悲嘆にくれている彼女にこう言いました。
「悲しまないでくださいね。この世ではあなたと私を慰められる人は、誰一人いないのですから。私が至らなかったばっかりに、この偉大な一族が滅亡してしまいました。」
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「アシュワッターマンの復讐」

2015-10-17 19:40:46 | 要約・マハーバーラタ


(49)アシュワッターマンの復讐




 息子であるアシュワッターマンが死んだという嘘をパーンドゥ兄弟がついたことによって、ドローナは戦闘不能になり、宿敵ドリシュタデュムナに殺されました。
 それを聞いただけでもアシュワッターマンは怒り心頭でしたが、さらにはドゥルヨーダナがビーマに、足を攻撃されるという武士道に反するやり方で倒されたということを聞き、アシュワッターマンの怒りは頂点に達しました。そしてアシュワッターマンは誓いました。
「私は今夜中に、パーンドゥ軍を全滅させる!」

 その夜、アシュワッターマンは、寝ているクリパ師を起こすと、自分の計画を告げました。それは、パーンドゥ軍が寝ているところへこっそりと忍び込んで、全員を殺してしまうというものでした。それを聞いたクリパ師はびっくりして言いました。
「とんでもないことだ。それは文句なしに悪いことだよ。眠っている人を攻撃するなど、全く前例のないことだ。クシャトリヤの行動規範に反する空前絶後の最大の罪悪だよ。
 アシュワッターマン、君はいったい誰のために戦うのだ? ドゥルヨーダナのためにみなが集まって、この戦争になったわけだが、彼はまさに致命傷を負って、死ぬところなのだ。われわれは忠実に責務を果たしたではないか。あの強欲で低脳なドゥルヨーダナのために、全力を尽くして戦ったのだよ。だが再起できぬほど敗れてしまった。今となってはもう、戦いを続ける目的も必要もないし、そうするのは愚の骨頂だ。さあ、生き残った私とお前とクリタヴァルマンで、ドリタラーシュトラ王とガンダーリー妃のもとへ行こう。そして智慧者のヴィドラのところへも行こう。これからどうすべきかは、彼らが判断してくれるだろう。」

 クリパ師の意見を聞くと、アシュワッターマンの悲しみと怒りはますます大きくなり、こう言いました。
「パーンドゥ軍の度重なる汚い反則行為は、明らかに犯罪なのですよ? 私は、彼らの邪悪極まりない行動に対して、正当な報復をするだけです。私はもう決心しました。計画を変える気はありません。今夜彼らのテントへ行って、鎧を脱いで眠っている父の敵ドリシュタデュムナ、そしてパーンドゥ一族とパンチャーラ人たちを、殺してきます。」

 これを聞いてクリパ師はひどく悲しみ、何とか説得して思いとどまらせようとしました。
「君は偉大なる名声を得ているのだ。その名声も、すばらしい人格も、すべて台無しになってしまうぞ。真っ白い布に、血を浴びせかけるようなものだ。寝ている男を殺すなど、人間のすることではない。やめなさい。」

 アシュワッターマンは、反論しました。
「先生、何をおっしゃるのです? ドリシュテデュムナは、無抵抗の私の父を殺したのですよ? カルナだって、車を直そうとしているところを、あのごろつきどもに殺されたのです。ビーマは、武士道に反して、ドゥルヨーダナの足を攻撃して瀕死の状態にしました。
 私は彼らに復讐します。それによって私が来世、ミミズに生まれ変わろうとも、私は一向に構いません。結構ですとも!」

 そう言い終わると、アシュワッターマンはさっさと戦車に乗り込み、出発しようとしました。クリパ師とクリタヴァルマンが叫びました。
「待て、アシュワッターマン! どうあっても実行するのか? われわれはそれを承認することはできぬが、かといって君を見殺しにすることもできない。君の行く道を、われらも行こう。君と一緒に罪をかぶるよ。」

 そう言って、二人はアシュワッターマンと共に、パーンドゥ軍の寝ているテントへと向かいました。

 テントに着くと、まずアシュワッターマンは、父の敵であるドリシュタデュムナの寝ているテントへ行き、熟睡しているドリシュタデュムナを殺してしまいました。
 同様にしてすべてのパンチャーラ人たちと、パーンドゥ兄弟の子供たちが全員殺されました。
 この後、彼らはテントに火をつけ、残った兵士たちのほとんどが、焼け死んでしまいました。

 この仕事を終えると、アシュワッターマンは、死にかけているがまだ少し息のあったドゥルヨーダナのところへ向かい、報告しました。
「おお、ドゥルヨーダナ! まだ生きていてくれましたか。喜んでください! パンチャーラ人たちは全部殺してきました。パーンドゥ兄弟の息子たちも、すべて殺しました。パーンドゥ兄弟とクリシュナとサーティヤキなどはまだ生きていますが、それ以外の敵はほとんど壊滅しましたよ。彼らが眠っているところに、夜襲をかけたのです。」
 
 この報告を聞くと、ドゥルヨーダナは最後の力を振り絞って言いました。
「アシュワッターマンよ、君は、偉大なビーシュマも勇敢なカルナもできなかったことを、私のために成し遂げてくれた。私はとても嬉しい。」
 そうしてドゥルヨーダナは、息を引き取りました。

 夜襲されて味方がほとんど壊滅してしまったのを知り、ユディシュティラは悲嘆のどん底に落ちて泣き崩れました。
「勝利の瞬間に、完敗してしまった。われわれの子供たちも、全員殺されてしまった!」

 わが子を全員殺されたドラウパディーも、同様に号泣しました。

 パーンドゥ兄弟は、犯人のアシュワッターマンを捜しに行き、ついに隠れているアシュワッターマンを見つけました。パーンドゥ兄弟が近づいてくるのを見ると、アシュワッターマンは、一本の草に破壊の呪文を吹き込んで、「パーンドゥ一族の子孫が途絶えるように!」と言って、それを投げました。その呪いの草は、アルジュナの息子のアビマンニュの子供を身ごもっているウッタラー妃に突き刺さりました。
 このため、後にこの胎児は死産で生まれてきましたが、クリシュナがこの子を生きかえらせました。この子がパリークシットで、後にパーンドゥ兄弟が森に隠退したとき、ユディシュティラから王位を受け継ぐことになるのでした。

 パーンドゥ兄弟に取り囲まれたアシュワッターマンは、観念して敗北を認め、自分の宝冠を取り外してパーンドゥ兄弟に渡すと、森を目指して立ち去っていきました。

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「ドゥルヨーダナの最期」

2015-10-17 19:35:39 | 要約・マハーバーラタ



(48)ドゥルヨーダナの最期





 カルナの死を見たドゥルヨーダナは、計り知れない悲しみに襲われました。その様子を見て心を動かされたクリパは、ドゥルヨーダナにこう言いました。

「野望と貪欲に突き動かされて、われわれは友人たちにあまりに重い荷を負わせてしまった。だが彼らは文句も言わずにそれに耐え、戦場に肉体を捨てて幸福の国に行ってしまった。
 今君に残されていることはただ一つ。王よ。パーンドゥ兄弟と仲直りすることだ。王よ、この破滅的な戦いを、これ以上続けてはならない。」


 しかしドゥルヨーダナはこう答えました。
「そうしたほうがいい時期も、確かにあったかもしれない。しかしそれははるか以前のことです。今となってはもう、パーンドゥ兄弟とわれわれの間に講和の余地はありません。互いに取り返しのつかぬほど、愛する者たちの血を流してしまったのですから・・・。もし私がこの期に及んで死を恐れて降伏したら、世間の物笑いの種となるでありましょう。そんな屈辱的な生に、私が幸福を感じると思いますか? 弟たちや身内の人々を殺されて、自分だけ王位を保てたとしても、そこにどんな喜びがあるというのですか?」


 ドゥルヨーダナは新たにシャリヤを総指揮者に選び、戦いは続きました。

 パーンドゥ軍では、ユディシュティラ自身が、シャリヤ攻撃の最前列に立って大奮闘しました。それまで温和寛大の権化のように思われていたユディシュティラが、鬼神のように戦い、しかも非常に強いのを見て、誰もが驚きました。
 戦闘は長い間五分五分でしたが、最期はユディシュティラの投げた槍がまともにシャリヤの体を貫き、シャリヤは息絶えて倒れました。

 まだ生きていたドゥルヨーダナの弟たちは、全員でビーマ一人を取り囲み、四方八方から総攻撃を加えましたが、ビーマは一人で全員を殺してしまいました。

 シャクニは、サハデーヴァ攻撃の指示をしていました。サハデーヴァは、
「クル族の悪行の根源め。お前の犯した大罪の罰だ!」
と言いながら、巨大な矢をシャクニに放ちました。それはまっすぐに飛んでいき、シャクニの首を切り落としたのでした。

 シャリヤやシャクニまでやられたことで、残ったクル軍の多くの兵士たちは、四方八方に逃走していきました。そこに一人残されたドゥルヨーダナは、全身が傷によって火のように熱いので、よろよろと貯水池のほうへ歩いていき、水に入りました。水につかりながら、ドゥルヨーダナは自分に対してつぶやきました。
「賢明なヴィドラは、何が起こるかよくわかっていて、われわれに忠告してくれたのに。」

 そこへパーンドゥ兄弟がやってきました。ユディシュティラは池につかっているドゥルヨーダナに対して言いました。
「ドゥルヨーダナ! お前のために戦ってくれた家族や友人たちを破滅させておいて、自分だけ助かりたいために池の中に隠れる気か? お前の誇りはどこへ行った? 恥ずかしくないのか? 出てきて戦え! クシャトリヤに生まれながら、戦いと死から逃げるのか?」

 ドゥルヨーダナは威厳を持って答えました。
「ユディシュティラよ、私は命が惜しくてこうしているのではない。恐ろしいから逃げてきたのでもない。体が熱くてたまらないから水の中に入っただけだ。
 さあ、次々にかかってこい! 私は一人なのだから。
 疲労しきっている上に満身傷だらけの私に、まさか五人一緒にかかって来るわけではあるまいな?」

 ユディシュティラは、鋭い口調で答えました。
「一人を多数で攻めるのが本当に悪いなら、アビマンニュがどのように殺されたか、思い出してみるがいい。たった一人の少年を多数で取り囲んで、むごたらしく殺したのはお前たちだろう。
 しかしまあ、いいだろう。人間は逆境になると正義や正道に気づいて、それを他人に説教したくなるものだ。さあ、われわれ五人のうち、誰か一人を選びなさい。お前の望む者が相手をしよう。さあ、正々堂々と戦って、死んで天国に行くか、または勝って王になるがいい。」

 こう言われて、ドゥルヨーダナはビーマを自分の対戦相手に選びました。二人の対決はほぼ互角で、なかなか勝負がつきません。生き残った兵士たちは周りを取り囲んで観戦しています。
 観戦していたクリシュナが、アルジュナにつぶやきました。
「ビーマはあの大広間の事件のとき、ドゥルヨーダナの大腿骨を折ってやると誓ったが、それを実行するだろうか。」

 この言葉を聴いたビーマは、愛するドラウパディーが屈辱を受けたあの事件を思い出し、怒りに燃えました。そしてライオンのように飛び上がると、落下する勢いで矛を力いっぱいドゥルヨーダナの腿に打ち付けました。ドゥルヨーダナの大腿骨は粉々になり、致命傷を負って地面に倒れました。ビーマは動けないドゥルヨーダナの頭の上に乗り、奇怪な踊りを踊り始めました。

 「やめなさい、ビーマ!」
と、ユディシュティラが叫びました。
「もういい。勝負はついた。これでもう、貸しは返してもらった。
 ドゥルヨーダナは、お前のいとこではないか。頭に足を乗せるのはよくない。」

 そしてユディシュティラは、暗い顔で黙り込んでしまいました。

 クリシュナは、
「ユディシュティラよ、どうしてそんなに変に黙り込んでいるのだ?」
とたずねました。ユディシュティラは答えました。

「クリシュナよ。ビーマは、クシャトリヤのおきてに反してドゥルヨーダナの腰から下を攻撃しました。さらに死にかかっているドゥルヨーダナの上に飛び乗り、足でいとこの頭を踏みつけているのを見て、気分が悪くなったのです。わが民族の栄光の時代は終わりました。
 しかし、私たちはクル一族に本当にひどい目に合わされました。だから、ビーマの胸のうちもよくわかるので、ビーマをしかることもできないのです。
 私たちはドゥルヨーダナという、抑えきれぬ欲望と貧弱な理解力のために苦しんだ一人の男を殺しました。いまさら道徳談義をしてみたり、復讐が適当だったかと議論してみても、意味のないことです。」

 ユディシュティラは、胸がつぶれるような思いで、こう言いました。アルジュナは、ビーマの行為を承認も非難もせず、ただ沈黙していました。

 その場に居合わせた他の兵士たちは、ドゥルヨーダナのこれまでの悪行を思い出し、声高に断罪していました。彼らに対して、クリシュナは言いました。
「戦士たちよ。負けて死にかかっている敵に対して、これ以上熱弁をふるうのは適切ではない。死に行く人を悪く言うのはよそう。愚かだったために、彼は自らこういう結果を招いたのだ。悪い人々の仲間に入って破滅したのだ。さあ、行こう。」

 ドゥルヨーダナは地面に伸びて瀕死の状態でしたが、クリシュナのこの言葉を聴くと、一時的に活力を取り戻し、上体を起こして、クリシュナに向かって叫びました。

「この人でなし! 奴隷の息子め!
 貴様は卑劣な策を使って、正々堂々と戦っている戦士たちを次々と殺してのけた。
 何気なくアルジュナにささやくふりをして、私の腿を狙えと、お前がビーマをそそのかしたのを知っているぞ!
 貴様には同情心もないし、恥も知らない!
 貴様はビーシュマじい様と戦うときも、ビーシュマじい様が女性と戦えないということを知って、シカンディンを前に立たせたな! だからじい様はろくに抵抗もできずに致命傷を負ってしまったのだ!
 貴様はユディシュティラに嘘を言わせて、ドローナも殺した。そして武器を捨てて瞑想に入ったドローナ師を、恥知らずのドリシュタデュムナが攻撃して殺害したとき、貴様はそれを止めるどころか喜んで見物していたのではないか!
 戦場でぬかるみに車輪がはまって動けないカルナに対して、攻撃しろとアルジュナをそそのかしたのもお前だ!
 このろくでなしめ! わが一族の滅亡は、まさに貴様一人が原因なのだ! 貴様の卑怯なやり方は、世界中の非難を浴びているぞ!」

 このようにクリシュナを非難し罵倒する言葉を叫んだ後、ドゥルヨーダナは苦痛に顔をゆがめて、また上体を地面に倒しました。クリシュナは、ドゥルヨーダナに答えて言いました。

「ドゥルヨーダナよ。断末魔の苦しみの中にあるのに、怒りまで添えるとは。
 自分の悪行の結果生じた憎しみや激情に任せ、他人を責める権利など、お前には微塵もないのだよ。
 お前が卑劣だと言った私の一連のやり方も、あまりにも邪悪なお前の行状に対抗するため、やむを得ずやったことなのだ。
 強欲によって負った悪業という借金を、ともかくお前は、今回の戦争における苦しみで、返済したのだ。お前は勇者として死に、幸福の国に行くことだろう。」 

 ドゥルヨーダナは言いました。
「クリシュナよ。貴様に言われなくても、私は死んだ友人や親族と共に、仲良く天国へ行くよ。
 だが貴様や貴様の友人は地上に残って、死んだ仲間たちのことを思いながら、苦しんだり悲しんだりしながら暮らしていくだろうよ。そして世の人々は、卑怯なやり方で勝った貴様たちを侮蔑するだろう。
 動けぬ私の頭の上に、ビーマが足を乗せたとて、私は一向に構わない。私は戦士として堂々と死に、意気揚々と、仲間たちの待つ天の世界に行くのだ。」

 ほどを知らぬ嫉妬や欲望がドゥルヨーダナを誤った道に踏み入らせ、そこから怒りや無数の悪行が発生したとはいえ、このドゥルヨーダナの戦士としての不屈の精神は見事なものでした。死の間際のドゥルヨーダナの不屈の精神を称えて、神々は彼の頭上に花の雨を降らせ、ガンダルヴァは天の音楽をかなで、空は虹色に光り輝いたのでした。
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「カルナの最期」

2015-10-16 19:07:28 | 要約・マハーバーラタ




(47)カルナの最期



▽パーンドゥ軍
◎クリシュナ・・・パーンドゥ兄弟のいとこ。実は至高者の化身。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。

▽クル軍
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。
◎ドゥッシャーサナ・・・ドゥルヨーダナの弟の一人。
◎シャリヤ・・・パーンドゥ兄弟の叔父だが、ドゥルヨーダナの策略により、クル軍側につく。



 ドローナが死ぬと、クル軍は今度はカルナを最高指揮官に任命しました。こうしてまた激しい戦いが続きました。

 ドゥッシャーサナは、ビーマに狙いを定めて、集中攻撃をしてきました。ビーマは笑いながら言いました。
「この卑劣な男を今まで生かしておいたが、今日こそは、お前を打ち倒し、血を飲んでやるという誓いを、きっと果たしてやるぞ。」

 愛するドラウパディーにドゥッシャーサナがしたひどいことを思い出したとたん、ビーマの胸には怒りの炎が燃え上がりました(第22話参照)。
 ビーマは逆上して、手当たり次第にドゥッシャーサナに武器を投げつけました。そしてついには戦車から飛び降りると、まるでトラが獲物を獲るときのようにドゥッシャーサナに飛びかかり、その怪力でドゥッシャーサナを大地に叩きつけ、体中の骨をへし折ってしまいました。
 そしてビーマは言いました。
「この悪賢い畜生め! この手でドラウパディーの髪の毛をつかんだのか? 体から引き抜いてやるぞ!」
 そう言うとビーマは、怪力で本当にドゥッシャーサナの腕を引き抜いてしまいました。そしてその腕を放り投げると、13年前に自らがした誓いどおりに、ドゥッシャーサナの肩の傷口からごくごくと血を飲むと、血に染まった大地の上で踊り狂いながら、叫びました。
「やったぞ! この大罪人に、私が誓ったとおりの罰を下してやった。
 あとは残っているのはドゥルヨーダナだけだ!」

 この恐ろしい光景を見て、誰もが恐怖しました。ドゥルヨーダナも、カルナでさえも、震えが止まりませんでした。
 そんなカルナを、シャリヤが励ましました。

「ひるんではいけない。総指揮官が、恐怖の表情などを見せるものではない。ドゥルヨーダナが恐怖で縮み上がっているときに、そなたまでもがそんな態度をとっては困る。ドゥッシャーサナ亡き後は、わが軍の希望はそなた一人にかかっているのだから。今こそ、総指揮官として責任を負わなければならぬぞ。
 そなたは派手なことが好きだから、今こそ一か八か、アルジュナと一騎打ちをしてみてはどうか?」

 シャリヤにこう言われて、カルナは持ち前の気性を取り戻し、心を決めて、アルジュナのいるほうへと向かっていきました。

 カルナはアルジュナに向かって、太陽のようにまぶしく輝く矢を放ちました。まさにそれはアルジュナの頭部に命中しそうになりましたが、その瞬間、クリシュナが戦車をぐっと下に押し、車輪を大地にめり込ませました。それによって矢は少しアルジュナの頭をそれ、アルジュナのかぶとの先端に当たりました。

 アルジュナがお返しにカルナに向かって矢を放とうとしたそのとき、突然、カルナの戦車の片方の車輪が、血のぬかるみの中にはまってしまい、動かなくなってしまいました。カルナは戦車から飛び降りて、車輪をぬかるみから持ち上げようとしますが、全く動きません。カルナはアルジュナに言いました。

「待て! 戦車が土の中にめり込んだ。君は偉大な戦士だから、武士道をよく心得ていよう。この事故につけこんで攻撃してくるなど、公正でない卑劣な行動は取るまいな。戦車を整えてから、正々堂々と戦おう。」

 こう言われて、アルジュナは攻撃を躊躇しました。しかしクリシュナがカルナに向かってこう言いました。

「カルナよ! 武士道とか、正々堂々とした公正な勝負というものが、この世に存在するということを思い出したとは、あっぱれだ!
 今お前は窮地に立っているから思い出したのだろう。だが、お前とドゥルヨーダナとドゥッシャーサナとシャクニが、か弱い女性であるドラウパディーを公衆の面前に引きずり出し、散々辱めたときにはどうだった? そこに武士道とか公正という言葉はあったのか?
 賭け事が下手なユディシュティラを誘い出して領土を騙し取ったときには、お前の武士道や公正さはどこに隠れていたのだ?
 不当とはいえ約束を守って12年間を森で過ごし、13年目を隠遁して戻ってきたパーンドゥ兄弟に、領土を返さないのが公正なのか?
 お前は悪人どもと共謀して、ビーマを毒殺しようとしたこともあった。また、パーンドゥ兄弟を焼き殺そうとしたこともあった。そのとき、武士道や公正さはあったのかね?
 また、少年のアビマンニュ一人を四方から取り囲み、大勢でよってたかって殺してしまった。あれが武士道か?
 悪人よ、今になって、公正な勝負とか武士道とかを口にするな。お前は一度もそれを尊重したことがないのだからな。」

 クリシュナにこのように言われると、カルナは恥ずかしそうにうなだれて、言葉一つも返せませんでした。動かなくなった車輪をそのままにしてカルナは再び戦車に飛び乗り、アルジュナに向かって矢を放ちました。そこで一瞬アルジュナがひるんだ隙を利用して、カルナは再び車輪を動かそうと試みましたが、全く動きません。そこでカルナは、パラシュラーマ師から習った必殺の武器「ブラフマ・アストラ」を使おうとしましたが、パラシュラーマが予言したとおり、この決定的な瞬間に当たって、カルナはそのブラフマ・アストラを発射するためのマントラを、どうしても思い出せないのでした(第10話参照)。

 クリシュナは、アルジュナに言いました。
「時間を無駄にするな。早く矢を放って、君の宿敵を討ち倒せ!」

 アルジュナの気持ちは揺れ動きました。アルジュナは、武士道精神に外れた方法でカルナを倒すことをためらっていたのです。しかしクリシュナに促されたとき、アルジュナは自分の善悪に対する観念よりも至高主クリシュナのお言葉を受け入れ、矢を放ってカルナの首を射落としたのでした。

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「ドローナの最期」

2015-10-16 18:54:17 | 要約・マハーバーラタ


(46)ドローナの最期


▽パーンドゥ軍
◎クリシュナ・・・パーンドゥ兄弟のいとこ。実は至高者の化身。
◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。クンティー妃とダルマ神の子。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。

▽クル軍
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。





 ビーシュマが戦列を離れた後、クル軍の指揮はドローナがとる事になりました。そしてその後の数日間の戦闘で、両軍共に多くの戦士が戦死しました。ドゥルヨーダナは多くの弟たちを失い、またアルジュナの息子のアビマンニュなども死を遂げました。

 戦争も後半戦に入ると、日が沈んだらその日の戦闘は終わりというルールも守られなくなり、暗くなってからも戦闘が続くということもしばしばありました。

 ビーマの息子であるガトートカチャと、彼が率いる阿修羅の軍隊は、夜に最も強くなるという種族的特徴を持っているので、戦争14日目の夜、彼らはクル軍を急襲しました。阿修羅の軍隊は、不気味に空を飛び交いながら、クル軍を攻撃しました。
 
 カルナは、インドラ神からもらった、絶対的な効果を持つシャクティという槍を一本持っていました。しかしこの槍はたった一度しか使えず、一度使うと消えてしまうというものでした(第10話参照)。
 カルナはこの槍を、宿敵であるアルジュナを倒すためのものとして大事に取っていたのですが、この真夜中の阿修羅軍の不気味な攻撃に理性を失い、阿修羅軍のリーダーであるガトートカチャに向かって、この必殺の武器を放ちました。こうしてビーマの息子のガトートカチャは死に、必殺のシャクティ槍は消えました。

 アルジュナの息子のアビマンニュに続いてビーマの息子も死に、パーンドゥ軍は悲しみに包まれましたが、その後も戦闘は続きました。特にクル軍の総司令官であるドローナが圧倒的な強さでパーンドゥ軍を攻め立て、パーンドゥ軍は大打撃をこうむっていました。
 しかもドローナは、ブラフマ・アストラという、宇宙原理を応用した必殺の武器を持っていましたが、まさに今、それを使おうとしていました。それは、もし今ここでそれを使われたら、一発でパーンドゥ軍は全滅しかねないというほどのものでした。

 クリシュナはアルジュナに言いました。
「アルジュナよ。このままではドローナにわが軍は壊滅させられてしまうぞ。
 ドローナを打ち倒すことはなかなか難しい。しかし一つだけ方法がある。
 ドローナは本来、何に対しても執着のない男だが、ただひとつ、息子のアシュワッターマンにだけは強く執着している。彼の性格からいって、アシュワッターマンが死んだと聞けば、戦意を失ってしまうだろう。
 だから誰かが、『アシュワッターマンは死んだ』という嘘をつくのだ。それによってドローナの攻撃を止めることができるだろう。」

 このクリシュナの提案を聞いて、アルジュナは恐ろしさで身震いしました。彼は「うそつき」にはなりたくなかったのです。そばにいた他の者たちも皆、この役目を辞退しました。

 ユディシュティラはしばし沈思熟考していましたが、
「私がその罪をしょいましょう。」
と申し出ました。

 これにはみなが驚きましたが、ユディシュティラは、ドローナによる自軍の壊滅からみなを救うため、自分が罪を背負おうと考えたのでした。

 ビーマも、このユディシュティラの決心に力を貸すことになりました。まずビーマは、アシュワッターマンという名の象の頭に槍を振り下ろし、この象は即死しました。そこでビーマは、「私はアシュワッターマンを殺したぞ!」と、大声で、ドローナにも聞こえるように叫びました。
 生まれてこの方、こんな下等なことはしたことがなかったビーマは、恥ずかしさで顔が真っ赤になりました。

 ドローナは、今まさに必殺のブラフマ・アストラを発射しようとしているときに、このビーマの叫び声を聞きました。ドローナは「まさか・・・」と思いましたが、
「ユディシュティラよ、私の息子のアシュワッターマンが殺されたというのは本当かね?」
と、ユディシュティラに向かって聞きました。ドローナは、ユディシュティラは決して嘘は言わないと確信していたからです。 

 ユディシュティラは、これから犯す罪の恐ろしさに身を震わせて立っていましたが、
「みなを救うために、私が罪を負えばいいのだ」
と自分に言い聞かせ、心を鬼にして、大声で叫びました。
「その通り。アシュワッターマンは殺されました。」
 しかしどうしても良心がとがめるユディシュティラは、その後に小さな声で、
「ただし、象のアシュワッターマンが。」
と付け加えました。しかし戦場の騒々しさで、その声はドローナには届きませんでした。

 ユディシュティラの乗る戦車は、常に地面からわずかに浮いていました。しかしユディシュティラが不真実の言葉を口にしたとたん、戦車は地上に落ち、車輪は地に接触しました。

 愛する息子が殺されたと聞いたとたん、ドローナの生きる意欲は、すべて失せてしまいました。戦意も、その他の思いも、まるですべて最初からなかったかのように、きれいさっぱりと消えてしまったのでした。
 こんな状態のドローナにさらに追い討ちをかけるように、ビーマは次のような厳しい言葉を浴びせかけました。

「ドローナよ。あなたは本来はブラーフマナ(僧侶階級)であるにも関わらず、自らの天職を投げ捨てて、クシャトリヤの道である武の道を選び、多くの王族たちを破滅させた。
 不殺生こそは第一のダルマであり、ブラーフマナこそはそのダルマの維持者であると、あなたは教えた。それなのに、あなたはその教えを自ら否定して、恥ずかしげもなく殺人の専門家となったのだ。あなたがこの罪深い生活に堕落したことは、われわれにとって大きな不幸であった!」

 ビーマのこの叱責の言葉は、すでに生きる気力を失っていたドローナを、耐え難いほど苦しめました。
 そしてドローナは武器をすべて投げ捨てると、戦車の上で座法を組んで瞑想に入り、トランス状態に入ってしまいました。

 そのとき、ドローナの宿敵であるドリシュタデュムナが、ドローナを討つためにドローナの戦車によじ登りました。
 本来は、こんな状態のドローナを攻撃するのは、武士道精神に反する恥ずかしいことです。しかしドリシュタデュムナはもともと、父であるドルパダ王の苦行の力により、ドローナを殺す運命を持って生まれてきた男でした(第11話参照)。その運命の力に駆り立てられ、周囲に沸き起こる非難と嫌悪の声にも耳を貸さず、ドリシュタデュムナは一撃の下に、無抵抗状態のドローナの首をはねたのでした。
 ドローナの魂は肉体を離れ、きらきらと輝きながら、天へと昇っていきました。


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「ビーシュマの最期」

2015-10-16 10:30:04 | 要約・マハーバーラタ


(45)ビーシュマの最期


▽パーンドゥ軍
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。
◎シカンディン・・・ドルパダ王の娘。ビーシュマを殺すために生まれてきた。もとは女性だったが、苦行によって男性になった。

▽クル軍
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。一族の長老的存在。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。







 それは戦争が始まって十日目のことでした。アルジュナはシカンディンと一緒に、ビーシュマを攻撃していました。シカンディンがアルジュナの前につき、その後ろからアルジュナが攻撃していたのです。

 ビーシュマは、シカンディンを攻撃することができませんでした。なぜならシカンディンは、苦行によって男になったとはいえ、もとは女性だったからです。ビーシュマは、女性と戦うのは戦士らしくないという信念を持っていたので、シカンディンとも戦わないと、心に決めていたのです。
 一方のシカンディンは、もともとビーシュマを殺すために生まれてきたような人物ですので(第三話参照)、容赦なくビーシュマに攻撃を浴びせ、そのうちの一つの槍が、ビーシュマの胸にぐさりと突き刺さりました。

 前方にいるシカンディンをビーシュマが攻撃できないのをいいことに、アルジュナも心を鬼にして、シカンディンの後方から、ビーシュマに対して雨のように絶え間なく矢を射続けました。それらが、鎧の隙間から、ビーシュマの肉体にグサグサと刺さりました。
 ビーシュマは言いました。
「ああ、これはアルジュナの矢だよ! シカンディンのじゃない。なぜなら、カニの子が母親の体を裂き破って出て来る時のように、私の肉がぴりぴり痛むからね。」

 ビーシュマ長老は、アルジュナの放つ矢を、このように思いながら受けていたのです。

 ビーシュマは、もう自分の戦いはこの辺で終わりだと思い、盾と剣を持って、戦車を降りようとしました。そのとき、アルジュナの矢がその盾を粉砕し、次の瞬間、ビーシュマの体中に矢が突き刺さり、ビーシュマはそのまま戦車の上からまっさかさまに落下しました。このとき、天上から見ておられた神々は、彼に向かって恭しく合掌して、芳しい香りのそよ風を送り、涼やかな雨を降らせて、戦場をあまねく清浄にしてくださったといいます。

 このようにして、偉大で善良なビーシュマは倒れました。
 ガンガー女神の息子は倒れました。
 大地と大地の生むすべてのものを清めるために、この地上に降りてこられたかのガンガー女神の息子は、倒れました。
 この清廉潔白な英雄は、かつて父を喜ばせるために自ら進んで、王子としてのあらゆる権利を放棄したのでした(第二話参照)。
 弓の名手、正しいダルマのためには自分を捨てて働く人ビーシュマは、こうしてドゥルヨーダナに義理を果たし、自らの血によって戦場を清めながら、傷ついた体を死の床に横たえました。

 しかしビーシュマの体は、横になっても大地に触れていません。なぜなら、体中に矢が突き刺さっているので、その矢がまるでベッドのようになって、ビーシュマの体を支えているのでした。彼の肉体は今までにないほど輝いています。

 このとき、両軍は戦いをやめ、両軍の戦士たちは皆、瀕死の重症で弓の床に横たわる偉大な英雄の周りにかけよってきて、取り巻きました。地上の王たちが頭をたれて彼を取り巻く様は、まさに神々が大梵天を取り囲んでいるかのようでした。

 「頭が垂れ下がっている」と、ビーシュマが言いました。

 近くにいた王族たちが、急いでやわらかい枕を持ってきました。しかしビーシュマは微笑んでそれを拒絶し、アルジュナのほうを向いて言いました。
「アルジュナよ。戦士にふさわしい枕を、私におくれ。」

 アルジュナは、自分の矢を三本取り出して、ビーシュマの頭を支えるようにして、大地に突き刺しました。

 ビーシュマは言いました。
「アルジュナの矢こそ、私の枕にふさわしい。私は満足だ。
 私はもうしばらく、魂が肉体を離れることなく、このままでいなければならぬ。私が死んだら、そのときまでまだ戦死せずに生きておられた方々は、ここへ来て私を見てほしい。」

 それからビーシュマは再びアルジュナに向かって言いました。
「喉が渇いた。水を飲ませておくれ。」

 するとアルジュナは、矢を大地に放ちました。するとその矢が突き刺さった場所から、ビーシュマの母であるガンガーが、清らかな甘い水となってあふれ出し、ビーシュマの口まで達し、息子の喉の渇きを潤しました。ビーシュマはまことに幸せな気分でした。

 そしてビーシュマは、ドゥルヨーダナに言いました。
「ドゥルヨーダナよ、賢くなれ!
 アルジュナが、どのようにしてわしの喉の渇きを癒したかを見たか。この世界にこんなことのできる者が、他にいると思うか? 一刻も早く、彼と仲直りしなさい。わしの死と共に、戦争を終結させなさい。王子よ、わしの言うことを聞いて、パーンドゥ軍と講和しなさい。」

 ドゥルヨーダナは、この言葉が不満でした。しばらくして戦士たちは皆、各自の陣地に引き上げていきました。

 みなが再び戦場に戻った後、カルナはビーシュマのもとに駆け寄り、平伏してこう言いました。
「わが一族の最長老であられるお方よ。身に覚えがないに関わらず、悲しくもあなた様のご不興をこうむった私、御者の息子が、恭しく足元に平伏いたします。」

 カルナの丁重な挨拶に感動したビーシュマは、優しくカルナの額に手を当てて祝福を与えると、言いました。
「若者よ。お前は御者の息子ではない。お前は太陽神スーリヤの息子であり、クンティー妃が最初に産んだ子なのだ。この世の秘密をすべてご存知のナーラダが、このことをわしに知らせてくださった。
 わしはお前を嫌ってなどいないよ。ただ、お前がわけもなくパーンドゥ兄弟を憎み、日増しにそれを増長させていくのを見るのが悲しかったのだ。
 お前がどれほど武芸に秀で、またどれほど気前が良い性格か、わしはよく知っているし、感心もしている。
 パーンドゥ兄弟と仲良くしなさい。同じ母から生まれた兄弟なのだから、そうするのがお前にとって正しい生き方だ。
 わしがこの戦争から退場するのと同時に、彼らに対するお前の敵意も打ち止めにしてもらいたいものだ。カルナよ、これがわたしの願いだ。」

 カルナはビーシュマの言葉を恭しく聞いた後、こう答えました。
「じい様。私は自分がクンティー妃の子であることを知っておりました。しかし私はドゥルヨーダナの禄を食みましたので、彼に対して忠実でなければなりません。だから今ここでパーンドゥの方へ行くことなど、私にはできません。私に寄せられたドゥルヨーダナの愛と信頼にこたえ、自分の命を賭けてその義理をお返しすることをお許しください。
 言葉においても行動においても、私はずいぶん間違いを犯しました。なにとぞ、すべてを水に流してお許しくださり、ドゥルヨーダナのために戦う私を祝福してください。」

 ビーシュマはカルナの言葉を聴いてしばらく考えた後、こう答えました。
「お前の思うとおりにしなさい。それが正しい道だ。」

 
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「第三日目 全力を尽くすことと、ビーシュマの歓喜」

2015-10-15 22:20:12 | 要約・マハーバーラタ


(44)第三日目 全力を尽くすことと、ビーシュマの歓喜



☆主要登場人物

▽パーンドゥ軍
◎クリシュナ・・・パーンドゥ兄弟のいとこ。実は至高者の化身。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。

▽クル軍
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。一族の長老的存在。
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。






 戦争三日目、ビーマが放った矢がドゥルヨーダナに当たり、ドゥルヨーダナは気絶してしまいました。彼の御者は急いで戦車を戦場から遠ざけました。ビーマはこの機を逃さず、逃走するクル軍に大打撃を与えました。

 意識を回復した後、ドゥルヨーダナはビーシュマに言いました。
「わが軍の見苦しい敗走をご覧になって、どう思われますか? あなたはよく我慢ができますね。パーンドゥ軍の連中の中には、本気になったあなたに太刀打ちできる者など一人もいないはずです。あなたは彼らをいとも簡単にやっつけられるはずなのに、なぜそうしないのですか? あなたはパーンドゥ兄弟たちを愛しているので、彼らの軍と本気で戦うことができないのでしょう。そうならそうと、はっきりとおっしゃってください。」

 敗戦の悔しさと、ビーシュマが常々自分のやり方を非難しているという不満が重なって、ドゥルヨーダナはこんなひどい嫌味をくどくどとビーシュマに述べました。しかしビーシュマは怒りもせず、にっこりと笑ってこう答えました。
「わしは腹蔵なく、はっきりと忠告したではないか? その忠告を受け入れずに、お前は戦争を始めたのだよ。わしは戦争をやめさせようとしたが、力及ばずにこうなってしまった。だが、こうなってしまったからには、わしは力の及ぶ限り義務を果たしているつもりだ。老人のわしには、これが精一杯なのだよ。」

 こう言うと、ビーシュマは戦列に戻りました。

 ドゥルヨーダナの小言に刺激されたビーシュマは、猛烈な勢いでパーンドゥ軍に攻め入りました。この日の戦況が予想以上に有利に動いていたので気を緩めていたパーンドゥ軍は、隙をつかれた形になりました。ビーシュマがいくつもの分身を使っているのではないかと疑われるほど、この日のビーシュマの動きは早く、あちこちでパーンドゥ軍に大打撃を与えました。

 パーンドゥ軍の危機を見て、クリシュナはアルジュナに言いました。
「アルジュナ。危機到来だ。今こそ君は、君がなした決心を忠実に守りなさい。
 ビーシュマ、ドローナ、そして大勢の友人や親族たち、尊敬している長老たちを、戦闘で殺すことにしり込みするな。君自らがそれを誓ったのだ。今こそ、それを実行したまえ。さあ、ビーシュマじい様を攻撃するのだ。」

 アルジュナを乗せたクリシュナの戦車がビーシュマに向かって突進しました。ビーシュマは無数の矢をアルジュナ放ちました。アルジュナも矢を放ち、その矢はビーシュマの弓に当たり、それを壊しました。ビーシュマが新しい弓を手に取ると、またアルジュナはその弓に矢を命中させて、壊してしまいました。
 アルジュナの弓術の見事さを見て、ビーシュマは喜びました。そして再び新しい弓を取り上げ、アルジュナに向かって矢を浴びせながら、
「いいぞ! 勇ましい戦士よ!」
と叫びました。

 クリシュナは、アルジュナの戦い方に不満がありました。一見、熾烈な攻防を繰り広げているように見えますが、ビーシュマは全力でアルジュナに向かってきているのに対し、アルジュナのほうは全力を尽くしていない、つまり、気が入っていないのがわかったからです。アルジュナは、偉大なビーシュマ爺さまのことを、あまりにも尊敬していたのです。

 実際、ビーシュマの矢は、アルジュナとクリシュナの体に、いくつも当たりました。ついにクリシュナは叫びました。

「アルジュナよ! なぜ君は、なすべきことに全力を尽くさないのだ! 君がやらないのなら、私がビーシュマを殺す!」

 こう叫ぶと、クリシュナは戦車から飛び降り、ヴィシュヌ神の必殺の武器である円盤を取り出して、ビーシュマに向かって走り出しました。

 クリシュナが自分を殺そうと突進してくるのを見て、ビーシュマは、少しも狼狽しないどころか、歓喜に包まれた様子で、こう叫びました。

「おお! 蓮華のような目をしたお方よ!
 ようこそ、クリシュナよ!
 世界の主よ、あなたは本当に私のために、戦車から降りてくださったのですか?
 私は喜んで、あなたに命をささげます。もしあなたに殺していただいたなら、およそ三界において、これほど光栄なことはありません。なにとぞその恩寵を私にお授けください。願わくばあなたの手でこの命を召され、永遠の救いを与えたまえ!」


 しかしアルジュナはあわてて戦車から飛び降りると、クリシュナに追いついて、戦車に戻ってくれるようにと懇願しました。
「どうか、お許しください。私は全力で戦います。なすべきことを全力でなします。決してしり込みしませんから、どうか戦車に戻ってください。」

 こうしてクリシュナとアルジュナは再び戦車に戻り、戦闘は再開されました。 

 この日、アルジュナは、ビーシュマを倒すことはできませんでしたが、クル軍の数千の兵士を殺戮しました。こうして三日目は、クル軍がアルジュナ一人に手痛い打撃を受けてしまったのでした。

 日が沈んだ後、クル軍の兵士たちは、互いに言い合いました。
「今日のアルジュナの戦い方を見たか? アルジュナにかなう者がいるのだろうか? あれでは向こうが勝っても不思議ではない。」
 
 この日のアルジュナの活躍は、それほどすさまじかったのでした。
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「第二日目 思ったらすぐに」

2015-10-15 21:57:34 | 要約・マハーバーラタ

(43)第二日目 思ったらすぐに



☆主要登場人物

▽パーンドゥ軍
◎クリシュナ・・・パーンドゥ兄弟のいとこ。実は至高者の化身。
◎ドルパダ・・・パンチャーラの王。ドラウパディーの父。ドローナに敵対心を抱く。
◎ドリシュタデュムナ・・・ドルパダ王の息子。ドラウパディーの兄。ドルパダの祈りにより、ドローナを殺すために生まれてきた。
◎サーティヤキ・・・クリシュナと同じヤドゥ族の偉大な戦士。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アビマンニュ・・・アルジュナと、クリシュナの妹スバドラーとの息子
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。

▽クル軍
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。一族の長老的存在。
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。




 第二日目も、ビーシュマ長老はクル軍の指揮官として、多くのパーンドゥ軍の兵士たちを殺傷していきました。

 アルジュナは、御者のクリシュナに言いました。
「このままでは、まもなくわが軍はビーシュマじい様に全滅させられてしまいます。ビーシュマじい様を倒さない限りは、われわれに勝ち目はありません。」

 これを聞いたクリシュナは、
「アルジュナ、そう思ったらすぐに実行だ。それ、行くぞ!」
と言うが早いか、ビーシュマに向かってまっすぐに、アルジュナを乗せた戦車を走らせました。

 兵士たちはビーシュマを護衛して、アルジュナとクリシュナを攻撃しました。アルジュナは平然として、多数を相手に戦い、いとも簡単に片付けてしまいました。そしてビーシュマとアルジュナの一騎打ちになりましたが、両者の力は拮抗しているので、なかなか勝負はつきません。


 また別の戦場では、ドローナとドリシュタデュムナの戦いが繰り広げられていました。ドリシュタデュムナは、父であるドリパダ王の祈りにより、ドローナを殺すために生まれてきた男なので、この二人は生まれついての宿敵なのです。
 ドローナの攻撃は強烈で、ドリシュタデュムナは重症を負いました。さらにドローナはドリシュタデュムナの戦車の御者を射殺したため、ドリシュタデュムナは戦車から降り、矛を持ってドローナに突進していきました。ドローナは矢を放ってその矛を叩き落しました。するとドリシュタデュムナは今度は剣を抜いて、ドローナに襲いかかります。しかしまたもやドローナの攻撃が勝ち、ドリシュタデュムナは負傷で動けなくなってしまいました。
 
 ドリシュタデュムナが窮地に陥っているのを見たビーマは、ドローナに対して矢を雨あられのように打ち、隙を見てドリシュタデュムナを自分の戦車に乗せて救出しました。

 これを見ていたドゥルヨーダナは、カリンガ隊をビーマに対して差し向けました。しかしビーマはまるで死神のように、カリンガ隊の兵士たちを次から次へとなぎ倒し、叩き伏せ、殺していきました。そのあまりのすさまじさに、敵も味方も震え上がりました。
 
 これを見て、ビーシュマがカリンガ隊の救援にやってきました。パーンドゥ軍も、サーティヤキ、アビマンニュ、その他の戦士たちが、ビーマの救援にやってきました。

 サーティヤキの矢がビーシュマの御者を射殺したので、馬が驚いて駆け出し、ビーシュマを戦場から遠く離れたところまで連れ去ってしまいました。敵の大元帥がいなくなったため、パーンドゥ軍が優勢となり、クル軍に猛攻撃を加えました。

 こうして、一日目とは逆に、この日はクル軍の方が多大な損害をこうむったのでした。
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