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囲碁棋士 依田紀基のブログ

下手打ちの極意

2010-01-09 | 日記
皆さんのお役に立つかどうかわからないが、


今日は下手にたくさん石を置かせてこなす極意をお話しようと思う。


ただし、現在の僕にはなくなってしまった能力である。


碁の本当の力と下手ごなしの能力が必ずしも一致するとは限らない。


僕の下手打ちが一番強かった時代は、今から25年以上前、

安藤武夫先生の内弟子で年齢は16才から18才の頃である。


この頃は弟弟子や、勉強に来ていた、院生(プロの卵)を相手に、

毎日のように一番手直りを打っていた。


この連中の棋力は、上から下までまちまちだが、


その中で一番弱い者でも院生だから、


街の碁会所に行けば6段や7段くらいで打てただろう。


それらに当時の僕は平気で6子や7子置かせて打っていた。

このように、本来の実力差よりも、3子くらい余計に多く置かせてこなす能力というのは、本当の碁の力とは別のものなのである。


とてもじゃないけど、現在の僕がそんな手合い割りで打ち切れるものではない。


下手ごなしに必要な心構えと、能力とは、


「たくさんの置石を前にしての気力の充実」と「見切り」である。


当時の僕はたくさん置かれても、

「最後にはなんとかする。」という気迫があった。

「見切り」とは、相手がどこまで踏み込んでくるのか、

間合いを計るということである。


そして、自分がつぶされないギリギリのところを綱渡りしながら、


出来るだけ下手に手数を多く打たせてチャンスを待つという手法である。

当時は初めて打つ相手でも、

「ここに打つ人なら、次はここら辺に打ってくるだろう。」と予想して、


それによって白の着手を決めていた。これが「見切り」である。


この能力がなければ、3子も余計に多く置かせてこなせるはずがない。

しかし、こういった能力は、碁の本当の強さを追求して行く中で消えてしまった。


トーナメントプロに必要がないからである。



あるとき、新宿歌舞伎町に、ある名物おじさんがいて、仮にTさんとしておこう。


この人の棋力は僕に3子くらいだと思うが、


このTさんが5段くらいの人に8子置かせて打っていた。


どう考えても手合い違いであるが、Tさんのこなし方は、僕とは違っていた。


Tさんは、白がつぶれかけると、そこを放って置いて、別のところに転戦して、


そこもつぶれかけると、又転戦する、といった打ち方で、


口八丁、手八丁、で大きな目をぎょろぎょろさせて、三味線を弾きながら、


最後には一局をまとめあげて、勝ちに持っていくという、


見ていて、かなり具合が悪くなるような、こなし方だった。



このように、本当の棋力と下手ごなしの能力とは別のものなのである。
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