風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

星の岬

2010年04月19日 | 詩集「風の記憶」
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屋上の天体望遠鏡を
ほとんど水平に近い角度に傾けて
やっとその星をとらえたことがありました
あと3日の百武彗星
あれはアトランタオリンピックの年でした


歳月のことを星霜というけれど
わたしたちの頭上をぐるっとまわり
星も年輪をかさねているのでしょうか
あなたの天体望遠鏡は星の
いのちの始まりを見つめているのだと言いました


珊瑚と熱帯魚の行きどまり
4月の海のまどろむあたり
貝殻が打ち上げられた海岸線を走る
車のウインドウを少しだけ下げて
文旦の風をそっと逃がす
消えた彗星の尾のさきへ
ひろった貝殻を置いてきました


太平洋に口をひらいた岬の洞窟
……心ニ観ズルニ明星口ニ入リ
えらいお坊さんように闇をみつめる
あなたはいまも星を追いかけるひとですか


洞窟の奥から鯨の海をさがす
空とひとつに溶けあう深い午後には
奇跡の星が見えるでしょうか


もう星座の名前も忘れそうです


(2004)


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