じゃっくり

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暗がりで本を読む

2006年05月26日 | 雑記
暗がりで本を読む

 まだ明るい十六時だというのに、カーテンを閉め、部屋を暗くしてベッドヘッドに備え付けてあるライトだけを頼りに本を読み始めた。
 暗がりが好きだ。明るい所で本を読むのはどうも相性が合わないらしく、なかなか読み進められない。暗いところにぽつりと少しの灯りがあるのがいいのかもしれない。さすがに真っ暗だと本は読めないし、一点だけほのかに明るいのがいいのだろう。
 椅子に座って読むのは苦手だ。学生時代、思えば机に向かい椅子の上で教科書を開いて勉強したことはあまりない。僕はあぐらを書いて地べたに座ってか、あるいはベッドの上であぐらを書いて勉強をしていた。
 本を読むときも、だからそうしている。椅子は何かを読む人が座るために作られている一面が大きいのに、僕はそのためになっていない。道を外れた者なのであるが、それもまたよし、違っていることは嬉しい。

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ちょこん

 「ダ・ヴィンチコード」を劇場で観たかった理由としては、小説が原作なことと、知り合いがすでに観ていたことが挙げられる。映画を観る際、前もってほとんどの予備知識を詰め込まないでおく。だからパンフレットも買わないし、宣伝広告も僕の前ではゴミ同然なのである。あらかじめ得られる情報源としては、TVで流れるコマーシャルだけである。
 一人で観るつもりだったが、一人の女性を誘うことにした。確率的には半々、釣れるか釣れないか、ギャンブルをしているようで返信のメールを待っている間がとても楽しかった。
 返信メールの件名に絵文字で人差し指と親指で円を作ったものが表示されていた。「OK」を表す手の絵文字だった。
 車で待ち合わせ場所に待ち合わせ時間のちょうどに着くと、ベンチにちょこんと虚ろな表情で彼女は座っていた。虚ろという表現が彼女くらい合う女性はなかなかいないだろう。本当にぼんやりし、けだるい。そして、僕はそこに惹かれている。年は三十七。女性は三十からが勝負だとよく聞いたりするが、彼女は素敵に年齢を重ねている。結婚期を過ぎ、妹は先に結婚してしまい、弟は恋人に夢中でほとんど家に帰ってこない。寂しそうな雰囲気を彼女は漂わせている。それが僕を惹き付ける。
 車のATとMTの話、今日は仕事があったのか、好きな映画のタイプは、好きな俳優は、何時に寝るのか起きるのか、どの辺に住んでいるのか、僕は最後にはてなマークがついた質問をどんどん仕掛ける。自分のことはほとんど言わない。これは会話をする上でいつも僕が心がけていることだ。彼女は僕の目を見ず、斜め下を見ながらゆっくりと話す。僕と彼女はまだ、沈黙を恐がっている間柄だ。だから会話をなかなか途切れさせようとしない。

 「前から三四列目によく座るんです」と僕が言うと、「そう」と彼女は僕の前に立って歩き、四列目の真ん中に腰掛けた。僕はその右隣に腰掛けた。少し手を伸ばせばどこまで触れることができるのだろう。彼女の右手、右腕、右肩、右胸、右脚、髪の毛……。彼女は小さいせいもあり、ベンチに座っていたときと同じくちょこんと座っている印象があった。触れたい衝動に駆られるが、そんなことはできないし、しない。想像の中でそれをして楽しんだ。
 「ダ・ヴィンチコード」は常に考えないといけない映画で、謎の上に謎が乗っかってくるので、混乱してしまう。人間模様も複雑で頭の中で相関図を描くのが難しい。ほつれて変なことになってしまう。警察が必要以上に出すぎて雰囲気を壊している。映画において、「追ってくる者」というものを出す演出は視聴者を飽きさせないためというのが理由にあろうが、僕は何度ももういいやと思ってしまった。「最後の晩餐」の絵の説明がとても興味深い。それが僕の一番の見所であった。しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチは核ではない。核はキリスト教であった。キリスト教ではない日本人は楽しめない。

 お互いに手を触ったり、身を寄せたりすることもないままに映画を終えた。デートコースのうちに映画がよく入っている理由は、二人なのを意識するからだろう。上映中は静かにしていなくてはならない。その沈黙が二人を二人であることを意識させる。何度か横目で彼女の黒髪や小さな身体や脚を見た。彼女は僕に女性が隣にいることを意識させていた。
 映画が終わったあとの彼女は、映画が始まる前の彼女となんら変わりなく、とてもゆっくりとした佇まいで僕をあいかわらず観ずに淡々と映画の感想を述べた。彼女はとても話しやすい雰囲気が作れる人で、僕は吃る予期不安を感じず、いいたい言葉を言おうとすることができた。ただ、やはりそこには言いにくい言葉が含まれていて、その度に沈黙が流れた。しかし、彼女は僕の言葉について指摘をしない。
 
 彼女を助手席に乗せ、家まで送った。バックミラーを通り過ぎる彼女を確認した後、視線を前に戻し、運転して帰った。

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