漫画家アシスタント物語

漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。

漫画家アシスタント 第5章 その20

2007年12月14日 21時24分19秒 | 漫画家アシスタント
( この写真は、東京、新宿駅西口である。39年前、『10,21反戦デー、新宿騒乱』の主
 戦場だった場所です。そして、このO田急デパートとK王デパートの間にある小さな路
 地で・・・・・・。《 2007年度12月撮影 》 )
 
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
  
   
               その20
 
 
世の中とは不思議なもので、漫画を描かせたら私よりはるかに上手かった
中江君( 仮名、中江誠、1971年当時17歳。父親は医師。壮麗な洋館に住
む美男子 )が漫画家に成る気がまるで無かったのに・・・
 
おそまつな漫画を描いていた私が漫画家に成りたいという欲望ばかりを全
身から、風呂上がりの湯気の様に蒸散させていたわけです・・・。
 
中江君はしばらく不登校のまま高校を中途退学。その後、まったく連絡が
ありません。しかし、彼がくれた「 共産党宣言 」は3年後に、私の脳髄
に大きな影響を及ぼします。
 
 
ここでもう一人、私の「 社会観 」を大きく変えた人物を紹介したいと思
います。彼の話の内容は多くの問題が含まれているため、人名は勿論、場
所、時間などが「 架空 」の設定になっている事をご了承下さい・・・。
 
しかし、決して大げさな表現や誇張はありません・・・・・
 
私は1970年代の後半に南さん( 仮名:南浩志、1949年生まれ、東北出身 )
と出会いました。漫画家アシスタントの先輩、後輩の関係でした。
 
南さんは、アシスタントの中でも物静かで、人が嫌がる仕事をすすんで黙々
とこなす真面目なタイプ( 私の様な遅刻と手抜きのダメアシとは真反対の
人! )でした。 先輩面した横柄な態度など微塵も無く、いつもやさしく
ていねいに新入りの私を指導してくれました・・・。
 
ところが・・・長髪に口ひげを生やした優男の南さんには前歯が2本ありま
せんでした。イイ男なのに前歯が欠けている事が気になってしょうがありま
せんでした・・・。
 
 「 南さんの・・・その歯はァ・・・何ンで・・・・・? 」
 
そんな失礼な私の質問に・・・ある日、南さんはその理由を静かに話し始め
てくれました・・・少し困った様に苦笑しながら・・・・・
 
 「 Y君。これは誰にも言わないでね。ここだけの話だよ・・・ 」
      ( 注:ブログで公開する事は承諾していただいております! )
 
そう言って、前歯を失った時の事を話してくれました・・・・。それは、私
が想像もしなかったほど恐ろしい話でした・・・・・
 
 
1968年10月21日( 南さんは当時19歳 )。 それは新宿が燃えていた日に起
きたのでした・・・・。
 
「 10,21反戦デー 」テレビや新聞では連日、全学連や労働者が「 ベトナム
戦争反対 」「 安保粉砕 」の武装デモを報道していました。「 10.21 」には
新宿駅は投石、放火によって閉鎖され、電車も動いてはいませんでした。
 
火炎ビンが破裂し、車が放火され、駅、商店などが投石でメチャクチャに破
壊される・・・まさに「 暴動 」でした。
 
19歳の南さんはこの当時、東北から上京し渋谷、原宿あたりのレストランで
アルバイトをして暮らしていました。漫画家志望ではありましたが、高校時
代からカメラが好きで、長兄から譲られたキャノンの一眼レフで風景写真を
撮る事が趣味の一つだったのです・・・・
 
68年10月21日、南さんはバイト( 食器洗いと残飯処理 )を終えて日暮れ前
に新宿に向かいます・・・。電車は完全にストップ、放火された車が燃え、
多くの群衆が駆け回っている・・・まさに「 戦場 」となった新宿を夢中で撮
りまくりました。( 戦場カメラマンのごとく・・・と言うか・・・カメラを
持った野次馬と言うべきか・・・? )
 
デモ隊と機動隊との主戦場は新宿西口前。時にはデモ隊が機動隊を押し返し、
時には機動隊がデモ隊を包囲せん滅する・・・。一進一退の攻防の最中。
 
南さんは、当時としては高価な「 キャノン 」を持って走り回ります。気が付
けばもう、すっかり日が暮れている・・・。
 
デモ隊が機動隊に追い詰められ、粉砕される真っ直中に南さんはいました。
それは、大変危険な状態でした。
 
優勢な機動隊は逃げ惑う学生や労働者を叩きつぶします。そして、その中に
混じり込んでしまった南さんにも襲いかかりました。 
 
返り血を浴びつつ昂ぶる機動隊員たちは、南さんをわしづかみにして・・・
 
 「 コ~ボォ~~ッ! 」( 『公務執行妨害』の意 )
 
 「 この野郎! こっち来い! 」
 
一瞬の出来事でした。南さんは新宿駅西口にあるK王デパートとO田急デパ
ートの間の路地に連行されます。
 
 「 ぼ・・・ぼくは写真を・・・・・! 」
 
 「 うるせェ~ッ! 」

 「 いいから来いッ! 」
 
南さんの必死の弁明は、機動隊員たちの罵声にかき消されます! デパートの
壁際に引きずり倒された南さんを数人の機動隊員が囲んだその時・・・!
 
一人の機動隊員が壁を背にしてひざまずく南さんの顔面を蹴ります!
 
 「 ギャああッ・・・!!! 」
 
この一撃、たったこの一撃で南さんの前歯2本がスッ飛んでしまいました( 機
動隊員の靴は鉄の様に硬い! )。 口の中にはバーッと血があふれます。その
ドロドロの血をゲロの様に吐き出します。
 
吐き出される鮮血でシャツも顔も血だらけです。
 
しかし・・・・・これは序章にすぎません!
 
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第5章 その21 」 へつづく・・・



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