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読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

明香ちゃんの心臓  鈴木敦秋

2007-11-17 | ノンフィクション

明香ちゃんの心臓―〈検証〉東京女子医大病院事件
鈴木 敦秋
講談社

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 やはり、医療関係の本が気になってしまいます。

 

 心臓に先天的な血管をもつ、12歳の平明香ちゃんは、心臓外科では日本一といわれている東京女子医大病院心臓血圧研究所(心研)を受診する。病院の対応にやや違和感をもった両親は、他の病院にも行ってみるが、それほど難しい手術でないのでうちでもやれるが、心研で受診しているなら、そちらで手術を受けるのがよいのではと言われ決心する。そして、その特に難しいことはないはずの手術で明香ちゃんは命を落としてしまう。この事件をめぐって、両親は病院側の誠意を認め示談に応じるが、手術に関わりカルテなどの記録を改竄した2人の医師が逮捕される。

 

 

 著者は、この事件を根気強く取材した読売新聞記者です。本書で患者を被害者、病院を加害者とする平面的な視点ではなく、この事件の裏に見える日本の医療の問題点を明らかにし、両親の「これをきっかけに、日本の医療を変えたい」という切実な気持ちを十分に受け止め、ジャーナリストとして社会に訴えようとしたのだと思います。

 

 戦後、世界に追いつくために様々な分野で日本人は、本当に志高く働いていたようですね。あらゆる組織で若い力が活性化していたように見えます。ただ、発展という大きな目的の影で、犠牲になった命がたくさんあったのも事実。心臓外科の分野で言えば、成功率が5割というような手術が数多く行われ、水俣では、多くの水銀中毒者が出ても、国は産業振興を優先していた。そんな犠牲の上に成り立った日本の発展。そして、その発展がかげりを見せ始めたとき、社会では様々な組織が硬直化しさまざまな事件となって顕在化してくるのですね。

 

 明日香ちゃんの死後、バブル期を経た一流企業が抱える「隠蔽」「改竄」「開き直り」が次々と事件化した。高度成長期には国民の目に映りにくかった日本社会の病理が、この時期に一気に噴出したのである。

 

 

 今や多くの国民が、個人の命がおろそかにされることへの憤りを感じる一方で、硬直化した組織の中では誰もが容易に「悪」に変わりうるおそろしさに気づいている。

 

 

 多くの産業がそれぞれに問題を抱え、批判の先例を受けたが、日本の社会は浴びせた批判と引き換えに、未来を保証する答えを引き出すことができなかった。

 そして私たちは、立場が異なるものに対する想像力を失うようになった。患者と医師の間の溝が広がり、医療に絶対はないのだという現実が見えにくくなっている現状はそんな社会状況と重なりはしないか---

  

 

 バブル崩壊からずいぶん時間がたつけれど、まだまだ出ていない膿がたくさんある。けれど膿を出した後、私たちは再生する力を残しているんだろうかと考えさせられた1冊でした。といっても読後感は、”絶望”ではなく”希望”でした。

 

 だって、今年はダーリンの白板症という下にできたできもののお陰で生まれて初めて大学病院に行き、そこで働くお医者さんや看護師さんはとても誠意のある人たちだったし(受付は態度がおおきくてちょっとムッとしたけど)、自分が手術を受けた中規模の病院でも、先生も看護師さんもとても親切でしたもの。(なんて、落ちがちょっと単純バカっぽいですね)

 



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