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読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

服従の心理

2009-05-16 | 評論
服従の心理
スタンレー ミルグラム
河出書房新社

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 私、心理学を甘く見ていました。

 

 この本の原典は、1970年代に出版されたもので、非常に有名な心理学実験について書かれたものです。(が、私はそんな実験のことは全然知りませんでした。

 

 

 ”記憶に関する実験への参加者募集 1時間4ドル”という広告をみて応募したとする。別の応募者と一緒に実験室に連れて行かれ、くじをひいた結果、自分は”先生”、もう一人は”学習者”の役割を引き当てる。生徒は、別の部屋に連れて行かれ手首に電極を巻かれ、椅子に固定される。先生である自分は、問題を読み、生徒が答えを間違えると電気ショックを与えるように指示される。この電気ショックは30段階あり、15ボルトから450ボルトで、間違えるたびに、レベルを上げていくという手順を指示される。

 

 ボルト数と実際に感じるショックの程度が分からなくても、スイッチには15から60ボルトは”軽い衝撃”とかいてあり、その上は、中ぐらい、強い、強烈、超強烈、危険:過激な衝撃とそれぞれ、スイッチのレベルごとに示されている。

 

 

 実験中は、電撃75ボルトで、別室の被害者のうめき声が聞こえはじめ、レベルが上がるに従い、抗議は猛烈になってくのが壁越しに聞こえるのだが、実験者は淡々と、”大丈夫です。続けてください。続けてもらわないと困ります”といい続ける。

 

 

 この状況で自分ならどのレベルまで電撃を与え続けるか・・・。

 

 

 著者が考案したそういう実験の結果、なんと60%の人が最後のレベルまで電撃を与え続けたという。これは、おそらく大多数の人にとって電撃以上にショッキングな結果が出てしまった。

 

 

 著者のミルグラムは、この結果について、人には自分の道徳観や価値観に従って自分のために行動する”自律モード”と、ヒエラルキーの中で、権威の価値観に従い他人(権威)の願望の実現のために行動する”エージェントモード”があるという。

 

 

 そして、人は自分の価値観にあわない命令を権威から受けたときに、まず反抗するのではなく、様々な方法でその緊張を解消しようとする。身体的には、汗、震えなどの反応があり、心理的には、ごまかしや、責任転嫁などの方法があるが、これで十分に緊張が解消できない場合に初めて抵抗する。つまり、”責任は自分にはない”とか”答えを間違える被害者が悪いんだ”と自分を納得させて、緊張を緩和することができれば、理不尽な命令にでも従い、電撃を与え続けるのだと分析している。

 

 

 被験者の行動のカギは、鬱積した怒りや攻撃性にあるのではなく、かれらの権威との関係が持つ性質にある。かれらは自分自身を権威に与えた。そして自分が権威の希望を実行するための道具だと考えるようになった。いったんそう定義づけられると、そこか身をふりほどくことはできないのだ。

 

 

 

 著者は、本書の中で何度も、ナチスのユダヤ人虐殺に触れている。平凡なドイツ人が、なぜあれほどの蛮行を行いえたのか、という疑問が常に彼にあったろうし、またベトナム戦争でのソンミ村事件も衝撃だったのだろう。また、2004年に再版されたのは、イラクのアブグレイブ監獄の囚人虐待事件がきっかけなのではないだろうか。

 

 

 旧日本軍のことは殆ど触れられていないが、日本人としてはこの実験の結果と、アジアの国々から批判されているかつての自分達の行動とを照らしあわさずにはおられない。

 

 

 今では、実際にその時は生まれていなかった人まで、執拗な批判に耐え切れず、”日本人がそんなことをするわけがない”という”否認”や、”現地人が馬鹿だったからだ”という責任転嫁を大声でやっている。現実にその場でそういう命令を受ければ、服従するんだということは、人間の本性を真摯に見つめた場合、認めざるを得ないのだ。(だから、最近は”そういう命令はなかった”という主張もでてきはじめた)

 

  

 そして、オウム事件。なんで、あんなエリートが簡単に洗脳されたのだろうと本当にショックを受けたのだけれど、こういう心理を知っていれば驚くに足らないのだ。必要なのは、”真理”というものが正当な権威だということを信じ込める状況。それさえ作ってしまえば、彼らの行動をコントロールすることなんて難しくはないんだ。麻原もきっとこの実験のことは知っていたに違いない・・・。

 

 

 

 人間の社会は、権威であふれている。権威に服従する人間の本性がなければ混乱するだろう。サルの社会にだって序列がある。だけど、ただ盲目的に服従するのではなく、自分の良心の葛藤から逃げずに、”正しく”いられるのか・・・。

 

 

  キーワードは ”知” なのかもしれない。

 

 

 ともかく、ガーンときた本でした。 



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