本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

ツリーハウス 角田光代

2011-12-23 | 小説

 「そこにいるのがしんどいと思ったら逃げろ、逃げるのは悪いことじゃない。逃げたことを自分でわかっていれば、そう悪いことじゃない。闘うばっかりがえらいんじゃない」

 

ツリーハウス
角田 光代
文藝春秋

 新宿で翡翠飯店という中華料理屋を営む実家に住む藤代良嗣は、その朝、祖父の泰三が椅子に座ったまま息をしていないことに気づく。葬式の夜、祖母つぶやいた「帰りたいよ」と言う言葉に、初めて殆ど親族のいない自分の家族の姿に疑問を持ち始める。

 満州で自分の土地を手に入れられるという言葉につられて大陸に渡った泰三。カフェで馴染みの客の誘われたのがきっかけで新京ににたどり着いたヤエ。二人を夫婦と思った占い師に「子供は六人。でも半分に減るよ」と言われる。結局、終戦後の混乱の中夫婦として生きることになった二人と、六人の子供たちの誕生と三人の子供の死が、徐々に明らかになります。

 この物語はひとつの名もない家族の戦前、戦後から現代にいたる歴史なのですが、歴史書に名を残すような、時代と闘った人が作ったものだけ、歴史として受け継がれるものではないのだなとつくづく思った1冊でした。

 満州での生活や、引き揚げ者の苦労などを描いた小説は沢山あるし、映画やノンフィクションも沢山あります。

 そんな中で、この物語がとてもユニークなのは、成功者でもなく失敗者でもなく、戦後本当に平凡に生きてきただけの家族の中にある歴史に焦点を当てていることだと思います。

 新宿に店を構えて、外から見ればしっかりと根を下ろして生きていたように見える藤代家でも、戦後のどさくさに紛れて手に入れた土地の上に住み、実はツリーハウスのように、いつ壊れても、朽ちてもおかしくない状況を、とりあえず生き延びてきただけだったのかもしれない。

 子供たちは誰も成功せず、孫もまともに仕事をしていると言えるものは誰もいないのだけれど、なんとなく翡翠飯店は祖父亡き後も、続いて行きそうな気配で終わります。そこがなんとなくホッとするところです。

 この国にリーダーが育たないのは、確かに嘆かわしいことではあるかもしれないけれど、でもそうやって実はこれまでもやってきたのだし、日本はこれからもこんな風に生き残っていくのかもしれないななとど思うのは、楽観的すぎるのかもしれませんが・・・。

 祖母ヤエの言葉、

 広場の木、あのおっきな広場を縁取るように気が植わっていて、それを見て、私思ったんですよ、逃げてよかったんだって、あなた方に助けてもらってよかったんだって、こんなに長く生きて、はじめて思ったんです。何をした人生でもない、人の役にもたたなかった、それでも死なないでいた、生かされたんです。

 生かされた人生を生きる圧倒的多数の庶民の歴史は、学術書には刻まれないから、やはりこうやって小説家が物語にするということがとても大切なんだなぁと思いました。 

 

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