本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

ボローニャ紀行 井上ひさし

2008-11-13 | その他
ボローニャ紀行
井上 ひさし
文藝春秋

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 またまた、NHKの週間ブックレビューで紹介されていた本です。

 

 井上ひさし氏の著作をあまり読んでいないので、この人のバックグラウンドや立ち位置がよくわからないまま読んでしまいましたが、おもしろかったです。最近近視用のコンタクトをつけたままでは小さい字が読みづらくなってきた私の目にも優しいおおきな文字だったのも助かりました。

 

 

 著者が子供のころに世話になった人がボローニャに本山のある聖ドミニコ会の神父だったことが縁で、三十年もの長い長い片思いの末、やっとNHKのオファーで実現したあこがれの街への旅の記録です。

 

 

 ナチスに対するレジスタンス運動で、自力で街を開放したこともあって、この街は最近まで、左翼民主党(旧イタリア共産党)の砦だったそうで、そのせいなんですね、共同体という考え方が、私たちの慣れ親しんだものと少し違う。でもうらやましいなぁ・・・と思えることがたくさんあります。

 

 

 それらを”ボローニャ方式”と呼ぶのだそうです。何か社会が必要としているものがあるなと考えた人が、きちんと企画書などを書いて行政に申し出れば、資金や場所、税金などの面でサポートや優遇をされる制度。また、ある企業で技術を習得した人が独立するのをサポートする制度。銀行が地域の文化やスポーツに利益を還元する制度などなど・・・。

 

 

 読んでいけばよい事だらけのようですが、そこは多分著者自身も認めているように、贔屓目というものなのでしょう。

 

 

 しかし、市民社会が成熟すれば、ある種の社会主義や共産主義が機能するのかもしれないなぁとつくづく思いました。皮肉なことに、実際に国の体制として社会主義や共産主義をとったところは、市民社会が未熟(存在すらしていなかった?)なところばかりだったのですね。だからあんなことになってしまった。

 

 

 でも、資本主義制度でも、個人の欲を強く肯定し、それに任せた結果、バブルが膨らみ未曾有の金融危機に見舞われている。実際ソ連が崩壊したように、アメリカもある意味崩壊するのではないでしょうか。

 

 そしてそんな今だからこそ、”個人の欲のみを追及しすぎても社会はよくならない”というお説教は特に日本人には受け入れられやすいはず。また今の若者が比較的ボランティアなどに積極的なことなどを考えても、こういうボローニャ方式の基礎にある、”助け合い”、”共同”という精神を育てるよい機会なのではないでしょうか。

 

 

 右でも左でも、いきすぎると破綻する。世界が欲に走りすぎたあと、少し左に振ってみるのもよいかもしれない。そうそう、今話題の給付金なども個人に渡すのではなく、また困ってる人にただあげてしまうのでもなく、なにか新しいことを始めて社会に役立てたいと思っている、失業して時間はあるが、お金がない人たちに提供するのはどうでしょうか。その人たちが、社会を変え、バブルではない景気を呼び込んでくれるかもしれません。そこまでうまくいかなくても、ただ、生活費の足しにしてしまうよりは、ずーっと意味のあることに思えます。

 

 と、話を本に戻して、本書の感想を。この本は紀行文ですが、あまり名所旧跡、グルメなどの情報はありません。でも、ボローニャに行ってみたいなぁと思わせ、また自分もこんな旅がしてみたいなぁと思わせる本です。そして、今の日本についてもいろいろ考えさせられる本でした。

 

 さすが、井上ひさし氏ですね。