l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

第28回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展

2009-04-02 | アート鑑賞
損保ジャパン東郷青児美術館 2009年3月7日-3月29日



まずは本展覧会の趣旨をオフィシャル・サイトから引用しておく:

全国の推薦委員より推薦された若手作家と、美術団体が開催する公募展で「損保ジャパン美術財団 奨励賞」を授与された作家の作品約80点を一堂に展示、会場審査により優秀作品を選出、表彰いたします。

今年は奨励賞受賞作家が36名、推薦作家26名の平面作品が並んだ。各賞は以下の通り:

損保ジャパン美術賞 
弓手 研平(ゆんで けんぺい) 『梅雨色田植図(憲法前文三部作その二)』

秀作賞
細川 憲一(ほそかわ けんいち) 『Trace 紋章』

山本 雄三(やまもと ゆうぞう) 『祈り―温もりに包まれて』

大矢 加奈子(おおや かなこ) 『line-girls』

以上4名、すべて推薦作家。

過去にも何度か足を運んでいる展覧会だが、今年は見損ねそうになっていたところ、私が油絵を教えて頂いている実石江美子先生(三軌会にご所属)からご案内のメールを頂いて、最終日の閉館前に駆け込んだ。

個人的に印象に残ったのは、以下の作品:

長内さゆみ 『秋の水辺』

画面を右上から左下へ斜めに二分した構図で、右下には水辺に浮かぶ睡蓮がこんもりと茂り、左上には紅葉した赤い葉をつける秋の木立が湖面に映りこむ。まずは睡蓮の見事な写実的描き込みに目を奪われた。葉の外側の枯れた部分、日の光に透けて見える葉脈、葉の上で光る水滴。真摯に運ばれる筆の動きを感じ、水辺の息遣いが伝わってくる。

白井洋子 『毀れゆく刻(こわれゆくとき)』

今までも何度か作品を拝見したことのある作家さん。一瞬平和な静物画かと思うが、台の上に載る様々なモティーフをよく観るとどれも不穏。ガラスの器に入ったイチゴの一つはこぼれ落ちたところで宙に浮かぶ。三つあるワイングラスは一つは倒れ、一つは斜めに傾き、もう一つは台の下へ落下するところ。不安定に置かれたヴァイオリンには弦が1本しかない。そう、右端のフクロウの横に描いてある文字"VANITAS"を観るまでもなく、これはヴァニタス画。美しく舞う蝶が時の儚さを強調し、背景にはいつものように金箔も貼られ、沈澱した空気を醸し出す。水彩ならではの深く沈む画面が魅力的。

株田昌彦 『Round About』

工場と象が一体化した、シュールレアリズムの絵。モクモクとクリーム色の煙を吐き出す煙突が横に並ぶ工場そのものを胴体に、右側から虚無感を漂わせる象の顔が出ており、下からは前足2本が覗く。少ない色数で建物部分のメカニックな描き込みと、象のドカンとした重量感の対比が表現され、形而上の意味とか難しく考える前に、単純に絵の造形がおもしろかった。

岩田壮平 『花泥棒』

ニット帽に迷彩色のパンツを履いた今風の男の子が、大輪の赤い花束を抱えて自転車で疾駆している様子を、斜め頭上から捉えた日本画。鮮やかな花束の赤に目を奪われ、顔の表情は見えないものの、必至に自転車を漕いでいる様子が伝わってくる。大きい画面に展開されるアングルがおもしろく、感性のままにこのままダイナミックな日本画をじゃんじゃん描き続けて頂きたい作家さん。

大矢可奈子 『line-girls』

大きく口を開けて楽しそうに笑う若い女の子が6人横に整列し、恐らく背後で互いの背中や腰に腕を回してピッタリ寄り添いながら、膝下の高さの水の中を行進している。人物の肌は茶味を帯びた赤い色の濃淡で描かれ、顔の輪郭ははっきりしない。が、女の子たちが笑う口元にこぼれる歯や、短い丈のスカートから覗く、前に踏み出された足の腿の部分に入れられた白のハイライトが効いて、絵にリズムが生まれている。あっけらかんとした健康的なイメージと、なんとなく逆光のような暗さが混ざったおもしろい感覚を呼び起こす作品。

渡辺まり 『ギャロップ』

不思議な絵。何もないクリーム色の背景に、紫がかったグレーで描かれた頭部のない幼児体型の裸の肢体(ラファエロの描く天使のようにモチモチした体)が、アンバランスな姿勢で真ん中に大きく描かれている。左足が軸となって踏ん張り、まるで反動をつけるように反り返りつつ、右足が大きく前へ踏み出さんと宙に浮いている。高く掲げた左腕と下に下がる右腕でバランスを取ろうとしているようだ。肢体と同じ色で描かれた、左側の水溜りのようなものは何だろう?ギャロップとは疾駆を意味すると思うが、その第一歩を踏み出す一瞬なのだろうか?

ましもゆき 『前夜祝』

紙にペンでコツコツと構築した、緻密な作品。一見して植物が描かれているようだが、反復して現れるモティーフは、上を向いていると椿のような花に見え、下を向いていると雄しべが植物の根のように絡み合いながら長く下がり、クラゲのようでもある。描き込みのバランスもいいと思った。


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2 コメント

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Unknown (はろるど)
2009-04-06 21:33:28
こんばんは。お返事が遅れて失礼しました。

岩田さんは今回皆さん挙げておられますね。
先日のアートフェアでもお花の作品が出ていました。また花泥棒のバージョンはアングル違いの二種類あるのだそうです。一目見て斬新な印象がありますよね。

>ましもゆき 『前夜祝』

私も印象に残りました。仰るような上と下で反転するようなイメージが楽しかったです。
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Unknown (YC)
2009-04-06 21:59:59
☆はろるどさん

こんばんは。

いえいえ、コメントとTBありがとうございます。

『花泥棒』、私は今回初めて拝見したのですが、
日経日本画大賞の方を参照して、確かに"こんなに
こじんまりした構図だったっけ?"、と思いました
(これはこれでいい感じですけど)。

ましもゆきさんも、ずいぶんお若い作家さんの
ようですので、今後どのように開花するか
楽しみですね。

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