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オンライン講義 記憶の秘密

天文学入門と宇宙論の講義でお世話になっているKagaQ主催の「記憶」に関する講義をオンラインで視聴。講師は、分子生物学・行動心理学が専門のデンマークで「アイデンティティの基礎となる長期記憶がどのように形成されるか」を研究している学者。講義内容は、記憶という概念の基礎知識と、記憶を持ち続ける「安定化」の仕組みの解説。最初に長期的な記憶の分類の説明があったが、それを聞いただけでこれは一筋縄ではいかない大変な世界だと感じた。記憶の安定化については、①脳内の青班核という部位から海馬に電気情報が伝達 ②ドーパミンが生成されそれが海馬の神経細胞を活性化 ③神経細胞の活性化により鍵タンパク質因子が合成 ④電気信号がグルタミン酸に変換され2つの神経細胞間のシナプスを通じて移動という経路をたどるとのこと。記憶とはこのシナプス間の信号のやりとりを通じて蓄えられるものらしい。また、長期的記憶とはシナプス間の信号のやりとりが長期間続くということで、強い刺激(新しい体験など)によりシナプス受容体(情報の受け手)の増加、シナプス自身の巨大化、鍵タンパク質因子の合成などが起きるらしい。ここまでわかっているのに鍵タンパク質因子の正体は候補が3000近くもあって依然不明。講師の先生はその物質の解明を目指していて、その物質が特定できれば健忘症の原因解明や治療薬の開発につながる可能性があるとのこと。今回の話は「記憶の定着」まででその後の「想起の仕組み」は次回。
(記憶の3段階)
①獲得(覚える)②安定化(持ち続ける)③想起(思い出す)
(長期的記憶の分類)
宣言的記憶(言葉で表現可能) :①事実(知識) ②出来事(エピソード記憶)
非宣言的記憶(言葉で表現できない):③技能(自転車運転) ④古典的条件付け(運動=パブロフの犬、情動反応=蛇が怖い)
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宇宙の始まりに何が起きたのか 杉山直

オンラインで視聴している天文学入門と宇宙論の理解を深めたいと思ってその辺りが書いてありそうな本を物色、昔から慣れ親しんだブルーバックスで良さそうな一冊を見つけたので読んでみた。読んだ結果だが、理解が深まったかどうかは微妙なところだ。オンラインで視聴した内容の復習のような部分はそれなりに理解の確認ができたと思える反面、聞いてモヤモヤしていたところは、やっぱり本書を読んでもモヤモヤのままというのが正直なところ。理解できないのは説明してくれる先生の教え方による部分もあるのではないかという気もしていたが、やはり自分の物理の基礎知識の欠落なのだと痛感した。それでも、インフレーションを考える際の「相転移モデル」のところはオンライン講義ではチンプンカンプンだったが、本書で「水が摂氏0度以下でも氷にならずちょっとした刺激で急に凍結するようなもの」「その際にエネルギーを放出する」という比喩で説明されていて、何となく「そういうことか」と分かった気がした。本書全体は「宇宙マイクロ波背景放射」の観測が可能になったことにより、どのように宇宙への理解が深まったのかに焦点を当てた内容。一口に宇宙を研究している学者と言っても、観測精度の向上に特化した学者、その観測結果の解釈に注力する学者など色々で、それらの学者が成果を求めてしのぎを削っている様が非常に面白かった。これからもオンライン講義と読書の両輪でどこまで理解できるか試し続けたいと思った。(「宇宙の始まりに何が起きたのか」 杉山直、講談社ブルーバックス)
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鳥類学はあなたのお役に立てますか? 川上和人

著者待望の新刊だが、今回もとにかく読んでいて面白かったの一言。いつも通り鳥類学に関する解説の途中で脈絡なくアニメ、コミック、娯楽映画になぞらえた比喩的な文章がでてくるのだが、その辺りにあまり強くない自分には半分くらいは何のことだかわからない。そうした比喩が解説内容に対する理解を深めるためとか読者のイメージを明確にしてもらうためとかに役立っているかどうかとかとは無関係に、とにかくファンにはこうしたマニアックな比喩が楽しくてしょうがない。本書も面白い話の連発だが、特にセグロミズナギドリ命名の経緯、「自分はある鳥を絶滅させてしまったことがある。」で始まる一連の学問的な考察の話、恐竜カナズチ仮説の検証などが、面白かった。(「鳥類学はあなたのお役に立てますか?」 川上和人、新潮社)
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ドキュメント 湊かなえ

ある高校の放送部が全国大会への出場を目指して活動する様を描いた本書、一応謎解きの要素はあるもののジャンルとしては完全に高校を舞台にした青春群像小説だ。ドキュメンタリーやドラマを作成する活動を通じて、メディアとは何か、人に情報を伝えたり感動を与えるためにはどうしたら良いかを議論しながら学んでいく様子が丁寧に描かれている。そして何よりも驚かされるのは、自分の発言や行動が相手にどのように思われるのか、周囲にどのような影響をもたらすのかを常に深く考察してしまい、言いたいことを言わなかったり行動を躊躇してしまう登場人物たちの振る舞いだ。そこには「誠実」という言い方では済ませられないような息苦しい逼迫感があり、つくづく今の世の中若者は色々大変だなぁと思ってしまう。それを読者に感じさせるのが著者の小説家としての力量なのだろう。(「ドキュメント」 湊かなえ、角川書店)
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オンライン講義 天文学入門(9)

天文学入門その9で7回目の視聴。前回は「太陽」の誕生、核融合の開始、寿命といった太陽の天文学的特性の説明までで、今回は太陽系の惑星、彗星、流星など諸天体の特性についての解説。角運動量(回転の激しさ)、運動方程式(F=ma、力=質量x 加速度)いう概念の説明から始まって、惑星の生成、自転公転の法則性、分類の仕方など、とても分かりやすく教えてもらえた。これまでと違って具体的な話なので、モヤモヤしたところも少なく楽しく視聴できた。印象的だったのは、記憶に新しい冥王星が惑星ではなく準惑星になった理由(太陽の周りを公転しているかとか大きさや球体という形状ではなく軌道の周囲の天体と合体して綺麗にしてしまったかどうか)の詳しい説明、太陽系の火星と木星の間にスノーライン(100K)という境界(水が安定的に存在せず岩石中心の惑星になる境目)があってその内と外で惑星の組成が大きく違うという話など。また、ケプラーの法則と万有引力の法則(F=GxMm/r*r、引力=G x2つの物体の質量/距離の2乗)の関係の話も、やはり「法則」というのは発見するもの気づくもので、この法則がなかったらという問いはある意味無意味なんだということが了解できた気がした。
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くよくよマネジメント 津村記久子

著者の本を読み続けていると、最近の作品になるにつれて明るさを増していることが手にとるように分かるのだが、本作を読んで『あれっ」と感じた。題名の通り、色々なことにくよくよしたり落ち込んだりする自分を見つめ、自分を追い込んだり開き直おったりするのではなく現状をひたすら静かに受け止める様を描いたエッセイ集で、文体も内容も作者自身が精神的に辛かったと吐露している昔の作品のように感じたからだ。読み終えて巻末を見るとその疑問はすぐに解消、要はこの本は10年ほど前に書かれた作品だったのだ。ネットで著者の本を探していて未読だったので購入したが、単行本なのでてっきり最近の本だと勝手に勘違いしていたという次第だ。2010年から始まった雑誌の連載をまとめたもので2016年に単行本化。著者自身も書いた当時を「苦しかった時代の文章」と振り返っていて、当時のことを文章で読み返すと懐かしさ以上の効用があると指摘する。作家にとって作品は読者のためだけではなく書くことで作家自身も救われるのだと改めて感じた。(「くよくよマネジメント」 津村記久子、清流出版)
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うるさい日本の私 中島義道

著者の本はこれまでに10冊以上読んでいるが、本書はその中でも最も古い著作ということになる。これまで読んできた本の中で著者は再三日本の町中に流れる大音量の自動録音テープや拡声器での訴えかけといった騒音公害について言及しているが、本書はそのテーマを絞った一冊。一冊を通してその理不尽さを訴える著者の行動や発言を読むと、いかに著者が世の中の無関心、無理解、無責任、優しさという仮面をつけた悪意を相手に孤軍奮闘してきたかがうかがわれ、自分自身反省を禁じ得ない。自分の経験で言うと、時々訪れる名古屋駅地下のJRから地下鉄に乗り換える通路での献血を訴える拡声器のボリュームの大きさにびっくりして、耳をふさぐようにして足早に横を通り抜けながらもう少し何とかならないかといつも思う。大声を出している本人は「世の中の為になることをしている」という満足感からか自信たっぷりの口調で、その声が地下街にどのように響いているのか、どれほどの不快感を周りに振り撒いているのかに全く無頓着のように思える。著者の言いたいのはこうしたことなんだろうなぁ、その大声はとにかく近寄り難いほどなので「かえって逆効果ですよ」と嫌味の1つも言いたくなるのだが、言えずに通り過ぎる自分自身に自己嫌悪を感じてしまう。本書は、単行本で刊行されてから20年以上経っていて、自分が手にしたのは3度目の文庫化。それだけ読まれているということだ。ちなみに本書で槍玉に上がっている銀行だが、今日自動機で払出をした際に自動音声がどのくらいうるさいか耳を傾けてみたが、操作を行っている最中全く音声は流れなかった。(「うるさい日本の私」 中島義道、角川文庫)
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