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秋の南アルプス 北岳・間ノ岳登山 その②

2008-10-07 | 山歩き
5時過ぎに少しずつ明るくなり始めた。 薄いオレンジ色が雲海のかなたに射し始め、少しずつ明るさを加えていく。 摂氏0度近い山頂の夜明けは、じっとしていると身震いするほどだが、暗闇の尾根を徘徊するマグライトや、カメラを据えて岩場に息を潜める人影が、この闇にいるのは自分だけでないことを教えてくれる。

やがて、東の空がオレンジ色を増し、その周辺の空が紫や薄い青を帯びながら、白く明るくなっていく。 薄明の一番美しい時間だ。西の空の中央アルプスも、東の光を受けて、そのシルエットを露わにし始める。 5時35分、ついにオレンジの太陽の頭が覗き、その丸い円弧の形が認められると間もなく、眩い燭光が雲海の彼方から照射される。横からの広い光を受けて、富士山の三角は、薄い青に染まり雲海に浮かんでいる。 このまま謹賀新年の絵葉書になるような、日本独特のご来光の図だ。

同じような日の出を、かつて鳳凰山に登る尾根で見た。北穂小屋からは、奥穂の岸壁が日の出前の光に赤く染まっていくのを見た。 また、ハワイのハレアカラでは、真っ暗な山頂で震えながら、星降るごとき天の川を見上げ、やがて360度見渡す限りの雲海に囲まれて日の出を見た。新しい一日が誕生するまでのひと時は、実にゆっくりと歩を進める。そして一旦生まれ出てからは、ぐんぐんと明るさを加え、澄み切った柔らかな光で世界を包み始める。 山は稜線を境に、光を受ける側とその反対側で光と影が対象をなし、この時間帯の山の景色を格別美しいものにする。 こうして朝方の済んだ数時間が過ぎて、日が高くなれば、光は次第に強く、やがて容赦なく肌に照りつける。 今回も、耳や首筋に暑さを感じた頃にはもう手遅れで、立派に日焼けをしている。

   

小屋の朝食を最後の方に駆け込んで済ましたころには、もう宿を発つ人もある。大人数の中高年パーティは、農鳥岳から大門沢小屋で今晩は泊まるとのこと。標高820mの奈良田まで一挙に2000m下ろうという夫婦もある。 さすがに塩見岳まで行くという人は見当たらなかった。 6時半、ほとんどの人が既に出発した小屋に荷物を置いて、間ノ岳までピストンする。ザックがない杖だけの身は軽く、先行く人を何組も追い越して、ピークを幾つか越え、8時前には間ノ岳頂上に着く。 ここからの眺めは雄大だった。 昨日の北岳山頂以上に四方は晴れ渡り、北アルプスは雪化粧した白馬までうっすらと見える。 圧巻は、塩見岳から荒川岳、赤石岳、聖岳など3000m峰が連なる赤石山脈の眺め。 初めて見たせいもあるが、その山塊の幅、大きさ、長さともに圧倒的だ。 一番近くに見える塩見岳でさえ、遠く歩けば丸一日がかるだろう。いつかこの峰々を縦走してみたいと思わせた。


   

塩見岳に連なる主脈の東側に走る農鳥岳に続く尾根のとっつきまで行ってみると、農鳥小屋も意外と近くに見える。いっそ西農鳥まで行ってやろうかとも考えたが、やはり帰りの時間が厳しいと思われ思い留まった。 午前9時過ぎ、南の景色を惜しみながら、間ノ岳山頂に別れを告げ、来た道を引き返す。10時過ぎ、北岳山荘に帰着。 昨晩宿の手伝いをしていた若い女性と会話する。 なんでも、この夏一か月ほど小屋でバイトをしていたらしいが、今週末天気がいいと聞いて東京から出てきた。夏はこんなに晴れたことは一度もなかったという。靴紐を締めながら、これから北岳山頂に登るとのこと。 自分も荷繕いを確認し、弁当を受け取って八本歯のコル経由、右股ルートで下山することにする。 11時15分、北岳山頂と北岳山荘への道の分岐しているところで、間ノ岳を見ながらに弁当を広げる。 5歳の娘と登ってきた夫婦がある。 このルートは、登りに使うと尾根に出てから間ノ岳をずっと左に見ることになる。 間ノ岳は3189m、北岳に劣らぬ高さと豊かな山稜を持つ日本百名山の一つ。 南アルプスの森林限界は高く、ほぼ山頂近くまでダケカンバなどが密生していて、山頂に近づくに従って、紅葉も黄色から赤に変わる。

11時半、再び下山開始。 岩場にかかった梯子の連続で、八本歯のコルまではあっという間。その後、連続する梯子では続々と登ってくる登山者に道を譲ったりしながら、一気に高度を下げる。左手に聳える北岳パッドレスには、岩登りのパーティが張り付いているようで、下のほうから大声で呼びかけている。 二股までの下りは、相当に急峻だが、なんとか膝の痛みは起こさずに下れた。しかし、真昼の首筋に照りつける太陽は痛いほどで、タオルをぬらして首に巻くがすでに日焼けは手遅れ。 二股に出たのは13時。 直前にすれ違った若い女性は軽装だったが、日没までに北岳山荘に到着するだろうか、などと心配になる。 二股のすぐ下でも、外人交じりの若い学生らしき男女の10人ほどのパーティに出会ったが、彼らには、今晩は白根御池に泊まりなさい、とベテランらしき中年女性がアドバイスしていた。あの足取りでは、肩の小屋までは無理だろうと私も思った。



2200mの二股から1500mも広河原までの下りはそれほど急ではないが、疲れも出て、暑さで汗もかいており、水もペットボトルをひとつ小屋に忘れてきてしまったので、喉も渇いてきた。大樺沢沿いの道を歩き続け、腕の高度計に何度も目をやりながら、ひたすら下り続ける。 随分と時間が長く感じられる。 コースタイムは1時間半ほどになっているが、それを10分ほど短縮して、2時20分広河原山荘に到着。 顔と上半身を拭き、シャツを着替えて少しさっぱりする。山荘でバスの時間を聞き、アイスで胃袋を冷やしながら、主人と雑談をする。

3時に芦安行きのバスと乗り合いタクシーがあり、少し下った立派な停車場まで行き、そこで切符を買って、7人乗りのタクシーに乗り込む。 グネグネ道とトンネルの続く南アルプス林道を40分ほどで芦安に到着。 南アルプス温泉という宿に隣接した日帰り温泉で汗を流し、疲れた四肢を湯船の中で休める。 芦安は標高800mほどだろうか、帰りは、まずガソリンを補給し、高速に乗る。 途中、小仏トンネルと国立府中から八王子まで少し渋滞があったが、7時には自宅に帰着した。 携帯電話には、留守電やメールが5件ほど入っており、金曜は結構忙しかったようだが、週末ではあるしあまり気にしても仕方ない。

今回は稀に見る天気に恵まれ、最高の白峰登山となった。息を切らして辛抱強く尾根道を登り、山小屋では一人布団にくるまって何を考えるでもなく何時間もFMラジオを聞き、朝は震えながらご来光を拝み、最後はわき目も振らずに急ぎ足で下山したのだが、一日が一週間にも思え、気分転換は確実に出来たようである。

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なかなかアクティブな週末をお過ごしの様で… (ヨシ)
2008-10-07 01:57:53
yasumaruさん、ご無沙汰しています。

天気に恵まれて良い週末を過ごされましたね。写真を拝見するだけでもうっとりするような景色なので、それを現場で見たら本当にリフレッシュできたことでしょう。うらやましいです。

私はこのところ運動量が減っているのでとても登山する様な体力はありませんが、今週末は友人に誘われて健保主催のウォークラリーとやらに参加し、お台場のあたりをゆっくり歩いてきました。
 
 
 
苦行のご褒美のようなもので (yasumaru)
2008-10-09 10:55:41
ヨシさん、
いつもコメント有難うございます。北岳は比較的近いので、これまでも何度も行こうと思ったのですが、天気が今一そうだったりで、踏ん切りがつきませんでした。朝早起きしたり、夜中に出発したりというのが段々億劫になっているのですが、今回は思い切って出掛けて良かったです。お友達と一緒の山もいいですが、一人で行くのもまた違った味わいがあります。
 
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