yasminn

ナビゲーターは魂だ

谷川 俊太郎                 庭を見つめる

2011-07-16 | 

私は 知っている

君が 詩を 読まなくなったことを

書架には かつて 読んだ詩集が

まだ 何十冊か 並んでいるが

君は もう それらの頁を 開かない
 


その代わり 君は ガラス戸越しに

雑草の生い繁った 狭い庭を 見つめる

そこに隠れている 見えない詩が

自分には 読めるのだ といわんばかりに

土に 蟻に 葉に 花に 目をこらす
 


「サリーは去った いずくともなく」

声にならぬ声で 君は 口ずさむ

自分の書いた 一行か

それとも 友人だった誰かのか

それさえ どうでもよくなっている
 


言葉から こぼれ落ちたもの

言葉から あふれ出たもの

言葉を かたくなに 拒んだもの

言葉が 触れることも 出来なかったもの

言葉が 殺したもの
 


それらを 悼むことも 祝うことも 出来ずに

君は 庭を 見つめている