第2点 小野寺の業務上過失傷害等の被疑事件
刑事訴訟法189条2項,246条についての法令の解釈の誤り
司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,犯罪の嫌疑がないことが明らか
な事件でも検察官に送致しなければならない。
1 本件事故の受理(当事者間に争いがない事実)
本件交通事故は,110番通報で熊本県警本部に入ったものであるが,事故
の発生場所が大分県警察本部管内であったことから,熊本県警察本部から 大
分県竹田警察署に110番通報が転送された。さらに,本件事故が,「大分県玖
珠郡九重町大字田野県道別府一宮線水分起点34.9㎞先路上での自衛隊車両
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とバイクとの交通事故」と判明し,平成11年10月7日午前11時25分頃,
竹田警察署から玖珠警察署に電話連絡された。
本件電話連絡を受けた堀部警部補は,本件事故が,玖珠警察署長者原駐在所
の管内で発生したものであったことから,同駐在所勤務の早水巡査長に対し事
故現場に急行し事実調査と現場保存を行うよう指示した。
同日午前11時50分頃,早水巡査長は,駐在所配備の警ら用自動車(いわ
ゆる「ミニパト」)で現場に到着したが,再審原告は,早水巡査長が現場に到着
すると直ぐに救急車で病院に向け搬送された。(甲20・11頁16行目から1
2頁6行目まで)。
2 請求原因(玖珠警察署警察官の違法行為・エ)
(エ)小野寺は,フルトレーラーを牽引した自衛隊車を運転して,雑草等が
あり,双方からの見通しが不良な半径25mのカーブを通過する場合,カーブ
の手前でスピードを落とし他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転し
なければならない義務があったのに,最高速度と指定された毎時40kmのまま
本件道路のヘヤピンカーブに進入した過失があった。この結果本件事故が生じ
たのであり,再審原告は約3か月の加療を要する傷害を負ったのであるから,
小野寺は人身事故の加害者である。
しかるに,玖珠警察署の警察官は,小野寺を業務上過失致傷等事件の被疑者
として検察官に送致しなかった。(第1審判決4頁7行目から15行目まで)。
3 原審における再審原告の主張
一たび司法警察員が捜査した事件であれば,必ずしも犯罪の嫌疑のある事件
に限らず,罪とならないことが明らかな事件でも,あるいは犯罪の嫌疑がない
ことが明らかになった事件であっても,これを検察官に送致しなければならな
いのであり,司法警察員は,事件を送致するか否かを決定する権限を与えられ
ていない。したがって,小野寺を業務上過失傷害等被疑事件の被疑者として検
察官に送致しなかった司法警察員の行為は違法である。(原判決2頁24行目か
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ら3頁4行目まで)。
4 再審原告の請求原因(エ)についての原審の判断
原判決及び原判決の引用する第1審判決の判断は下記のとおりである。
「証拠(甲49,50,55,58)によれば,第1訴訟の第1審裁判所は,
本件事故につき,自衛隊車が毎時40kmの速度で進行車線をはみ出すことなく
走行していたところ,再審原告車が急にコントロールを失って対向車線に入り
込み,小野寺がブレーキをかける間もなくフルトレーラーに衝突して発生した
ものと認定し,小野寺には,本件事故の原因となる速度違反や対向車線ヘのは
み出しその他何らの過失もなかったと認定したこと,第1訴訟の控訴審裁判所
も同様の認定をし,本件事故は再審原告の過失に基づく結果であり,小野寺に
は何ら過失がないとの判断を示したこと,第2訴訟の第1審裁判所は,本件事
故につき,小野寺は時速約40kmの速度で本件道路を自衛隊車進行車線を進行
して本件事故現場手前の右カーブに入ったが,再審原告車がコントロールを失
って左右に大きく振れ,自衛隊車の運転席の横を通り過ぎてフルトレーラーに
衝突ないし接触したと認定したこと,第2訴訟の控訴審裁判所も,再審原告は
再審原告車のハンドル・ブレーキの操作を誤り,バランスを崩して中央線を越
え対向車線に進出させたためフルトレーラーに衝突したと認定したこと,第3
訴訟の第1審裁判所は,本件事故の態様につき,第2訴訟の第1審裁判所の上
記認定と同様の認定をしたことが認められる。
上記の各裁判所の認定及び証拠(甲16 ,17,19 ,乙3)によれば,本
件事故の原因は,再審原告車のハンドル・ブレーキの的確な操作を怠った再審
原告の過失にあると認められるのであって,小野寺の過失は認めることができ
ない。」(第1審判決8頁23行目から9頁16行目まで)。
「そして,前掲各証拠(甲第7号証,第10号証の2,第19号証(11頁,
23頁,24頁))に弁論の全趣旨を併せると,玖珠警察署司法警察員は,本件
事故は,再審原告が湯布院町方面から小国町方面に向けて進行中,見通しの悪
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い下り坂の左カーブを進行するに当たり,ハンドル・ブレーキ等の的確な操作
を誤って対向車線に再審原告車を進出させたことにより発生したもので,小野
寺には本件事故の原因となる過失がなく,道路交通法規に違反する事実も認め
られず,小野寺に係る被疑事実はないと判断したことから,再審原告に対する
道路交通法違反被疑事件について捜査をしたものの,小野寺について犯罪の捜
査をしなかったものであり,したがって,小野寺に係る業務上過失傷害等の被
疑事件を検察官に送致しなかったことは何ら違法ではない(刑事訴訟法189
条2項,246条参照)。」(原判決3頁17行目から4頁1行目まで)。
5 刑事訴訟法246条(司法警察員から検察官への事件の送致)は,司法警察
員は,犯罪の捜査をしたときは,この法律に特別の定のある場合を除いては,
速やかに書類および証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない,
但し,検察官が指定した事件については,この限りではない,と規定する。
ひとたび司法警察員が捜査した事件であれば,必ずしも犯罪の嫌疑ある事件
に限らず,罪とならないことが明らかな事件でも,あるいは犯罪の嫌疑がない
ことが明らかになった事件であっても,これを検察官に送致しなければならな
いのであり,司法警察員は,本条による場合は,事件を送致するか否かを決め
る権限を与えられていない。本条は,司法警察職員の手による犯罪捜査の適否
を公訴官である検察官に事後審査させ,もって刑罰権の適正な行使を期するた
めの担保としての意味も有していることになる(大コンメンタール刑事訴訟法
第3巻810頁・青林書店・1996年)。
6 刑事訴訟法189条2項(一般司法警察職員と捜査)は,司法警察職員は,
犯罪があると思料するときは,犯人及び証拠を捜査するものとすると規定する。
「犯罪があると思料するとき」とは,特定の犯罪の嫌疑があると認められる
ときをいう。その認定権は司法警察職員にある。犯罪があると思料するに至っ
た原因を捜査の端緒という。捜査の端緒にはなんら限定はない。
捜査の内容は,犯人を発見すること及び証拠を収集することである。「捜査
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するものとする」とは,単に「捜査する」というのと同じ意味である。捜査を
するのが建前であるという意味であるが,捜査するかどうかが司法警察職員の
自由裁量にゆだねられているわけではない。(前掲大コンメンタール刑事訴訟
法第3巻40,41頁)。
7 本件事故の捜査は,「バイクと大型車による接触事故,バイクの転倒により男
性1名が負傷した」との玖珠署への届出の電話連絡(甲21)を端緒として,
堀部警部補が,早水巡査長に対し事故現場に急行し事実調査と現場保存を行う
よう指示した(甲20・11,12頁)時点で開始されたと解される。
8 原判決は,「玖珠警察署の司法警察員は,小野寺に係る被疑事実はないと判断
したことから,小野寺について犯罪の捜査をしなかったものであり,したがっ
て,小野寺に係る業務上過失傷害等の被疑事件を検察官に送致しなかったこと
は何ら違法ではない」と判示した。
9 原判決は,小野寺には,道路交通法規に違反する事実も認められないと判断
したことから,小野寺について犯罪の捜査をしなかったともいう。
道路交通法70条は,車両等の運転者は,当該車両等のハンドル,ブレーキ
その他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該車両等の状況に応じ,
他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないと規定す
る。小野寺には,時速約40kmの速度で本件道路の自衛隊車進行車線を進行し
て本件事故現場手前の右カーブに入った時点で,再審原告の過失の有無にかか
わらず,道路交通法70条の安全運転の義務違反が生じる。(乙1・甲7・実況
見分調書添付の現場見取図第3図)。
10 本件事故は対向車同士の車道上での接触事故である。再審原告車の転倒位置
は,自衛隊の現場見取図(甲13)では再審原告進行車線の中央付近で,堀部
警部補作成の現場見取図(乙1・甲7)では中央線より再審原告進行車線側に,
1.5メートルの地点としている。玖珠警察署警察官には,双方の車両の運転
者について犯罪の捜査する責任があり,捜査をしなかった合理的理由はない。
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そもそも,小野寺について犯罪の捜査をしなかったら,小野寺に係る被疑事
実の有無は判断できない。小野寺について犯罪の捜査をしないのは違法である。
11 司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,犯罪の嫌疑がないことが明らかな
事件でも検察官に送致しなければならないのであり,玖珠警察署司法警察員に
は小野寺に係る被疑事件を検察官に送致しなかった違法がある。
12 原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判
決は破棄を免れない。
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第3点 実況見分調書(甲7)作成の放置
犯罪捜査規範104条についての原判決の解釈の誤り
1 請求原因(玖珠警察署警察官の違法行為・ア)
(ア)玖珠警察署の警察官は,平成11年10月7日に実況見分を行ったが,
その作成を平成13年9月27日まで放置した。(第1審判決3頁18行目から
21行目まで)。
2 再審原告の請求原因について原判決の判断
原判決及び原判決の引用する第1審判決の判断は下記のとおりである。
「証拠(甲59)によれば,第3訴訟の控訴審裁判所は,実況見分調書が作
成されるに至る経過について,次のとおり認定したことが認められる。すなわ
ち,堀部警部補らは,平成11年10月7日午後0時34分から午後1時20
分まで本件事故現場の実況見分を実施し,本件道路に残された痕跡等から,加
害者は本件道路の中央線を越えた再審原告であり,被害者は小野寺であると判
断した,堀部警部補らは,再審原告立会いの下で本件事故の実況見分を実施し
ようとしたが,再審原告は,退院後には玖珠警察署に出頭して実況見分に立ち
会う旨約していたにもかかわらず,退院後神奈川県の自宅に帰ってしまい,堀
部警部補らは再審原告に対し郵便で玖珠警察署に出頭するよう要請したが,再
審原告はこれに応じなかった,この間,自衛隊等が,自衛隊車等に実質的な損
害がないことなどから,再審原告の処罰を望まない旨申し立てたので,堀部警
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部補らは,平成12年2月10日,後日紛議が生じた場合には,捜査を再開し
て送致することを条件に本件事故捜査を一時保留処分とすることとした,堀部
警部補らは,平成13年8月,再審原告が国に対して第1訴訟を提起したこと
が判明したので,上記保留処分を解除し,送致準備を進めることとしたが,再
審原告は,高齢と経済的な問題を理由に玖珠警察署への出頭に応じることがで
きない旨主張し続けた,堀部警部補らは,日田区検察庁検察官の指示を受け,
堀部警部補が,本件事故当時に作成していた現場メモに基づいて同年9月27
日付けて実況見分調書を作成し,神奈川県まで赴き,再審原告の取調べを実施
し,上記実況見分調書を示しながら被疑者供述調書を作成し,同年11月20
日,再審原告に係る被疑事件を日田区検察庁検察官に送致した。
上記の第3訴訟の控訴審裁判所の認定を覆すに足りる証拠はなく,証拠(甲
10の1・2,59)によれば,上記のとおり認定することができる。
これによれば,玖珠警察署の警察官が実況見分後直ちに実況見分調書の作
成をしなかったことには,合理的理由があるというべきであり,実況見分調書
の作成を放置していたということはできない。」(第1審判決6頁16行目から
7頁16行目まで)。
3 犯罪捜査規範104条(実況見分)は,「1犯罪の現場その他の場所,身体又
は物について事実発見のため必要があるときは,実況見分を行わなければなら
ない。2実況見分は,居住者,管理者その他関係者の立会を得て行い,その結果
を実況見分調書に正確に記載しておかなければならない。」と規定する。
4 実況見分調書(甲7)には,実況見分の立会人は小野寺,見分官は間ノ瀬巡査
部長,補助者は堀部警部補及び早水巡査長と記載されている。見分官として本
件事故の実況見分を行った間ノ瀬巡査部長は,その結果を実況見分調書に正確
に記載しておかなければならない。間ノ瀬巡査部長が実況見分後に実況見分調
書の作成をできなかった特段の事情,作成しなかった合理的理由はない。
そもそも,小野寺立会いの実況見分調書を作成するにあたり,再審原告立会
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の実況見分の有無は関係がない。
5 再審原告は,平成11年10月29日玖珠警察署に間ノ瀬巡査部長を訪ね本
件事故について話を聞き(甲3),約3ヵ月の加療を必要とする見込みとの内
容の診断書(甲23)を提出し,被害を届け出た。
本件事故は交通切符では処理できない事案である。間ノ瀬巡査部長は,基本
書式で,小野寺立会いの実況見分調書を作成しておかねばならない。
6 調査嘱託書に対する平成19年3月26日付け玖珠警察署長の回答(甲10)
は,「当該実況見分調書の作成日時が実施日時と異なった理由は,本件を一旦
保留処分としていたところ,出羽から民事提訴がなされ,送致する必要性が生
じたため,検事の指揮を受けた上で,事故当日の現場メモを基に実況見分調書
を作成したという経緯による。」,「作成に際し用いた資料等は,堀部警部補が
事故当日自ら記録した現場メモ」である。
7 調査嘱託書に対する平成19年8月17日付け玖珠警察署長の回答(甲11)
は,「(1) 実況見分調書に添付されている写真の撮影年月日,撮影場所及び撮
影者;平成11年10月7日,事故現場にて撮影,撮影者;堀部警部補,(2)
上記(1) の写真のネガの現存の有無;有,(3) 堀部警部補の現場メモの現存の
有無;無,(4) 上記(1)の写真及び(3)の現場メモの他に,同調書作成の基とな
った資料等の存在の有無;無」である。
8 相手方は,第1審の平成20年11月12日付け準備書面で下記のとおり陳
述して,堀部警部補自身の現場メモの他に,長谷部巡査部長が平成11年10
月8日に作成していた交通切符様式の実況見分調書の存在を認めている。
「平成11年10月8日,間ノ瀬巡査部長は,交通切符様式の実況見分調書
を作成するとともに,小野寺に電話連絡をして10月12日に玖珠警察署に出
頭するように要請した。平成11年10月12日,間ノ瀬巡査部長は,玖珠警
察署において任意出頭した小野寺の事情聴取に当たった。(同書面8頁6行目か
ら10行目まで)」。
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「本来であれば実況見分調書の作成は,見分官である間ノ瀬巡査部長が行う
べきところ,間ノ瀬巡査部長は,平成13年5月1日付けで九州管区警察局高
速道路福岡管理室に異動となっていたことから,当該実況見分に補助者として
立会った堀部警部補が,基本書式で実況見分調書を作成することとし,間ノ瀬
巡査部長が平成11年10月8日に作成していた交通切符様式の実況見分調書
及び堀部警部補自身が作成していた現場メモ(図面)並びに事故当日に撮影し
た車両の損傷状況・道路状況の写真に基づき,平成13年9月27日付けの基
本書式の実況見分調書を作成した。(同書面13頁1行目から10行目まで)」。
9 原判決は「堀部警部補らは,日田区検察庁検察官の指示を受け,堀部警部補
が本件事故当時に作成していた現場メモに基づいて平成13年9月27日付け
で実況見分調書を作成し,・・・」と認定した。(第1審判決7頁7行目から9
行目まで)。
10 原判決は,相手方が認めている,間ノ瀬巡査部長が平成11年10月8日作
成したという交通切符様式の実況見分調書の存在を否定(看過)している。
11 玖珠警察署司法警察員(間ノ瀬巡査部長)には,実況見分後速やかに基本書
式で実況見分調書を作成する義務があり,作成しなかった合理的理由はない。
玖珠警察署の警察官には,実況見分調書の作成を放置していた違法がある。
12 原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判
決は破棄を免れない。
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刑事訴訟法189条2項,246条についての法令の解釈の誤り
司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,犯罪の嫌疑がないことが明らか
な事件でも検察官に送致しなければならない。
1 本件事故の受理(当事者間に争いがない事実)
本件交通事故は,110番通報で熊本県警本部に入ったものであるが,事故
の発生場所が大分県警察本部管内であったことから,熊本県警察本部から 大
分県竹田警察署に110番通報が転送された。さらに,本件事故が,「大分県玖
珠郡九重町大字田野県道別府一宮線水分起点34.9㎞先路上での自衛隊車両
8/22
とバイクとの交通事故」と判明し,平成11年10月7日午前11時25分頃,
竹田警察署から玖珠警察署に電話連絡された。
本件電話連絡を受けた堀部警部補は,本件事故が,玖珠警察署長者原駐在所
の管内で発生したものであったことから,同駐在所勤務の早水巡査長に対し事
故現場に急行し事実調査と現場保存を行うよう指示した。
同日午前11時50分頃,早水巡査長は,駐在所配備の警ら用自動車(いわ
ゆる「ミニパト」)で現場に到着したが,再審原告は,早水巡査長が現場に到着
すると直ぐに救急車で病院に向け搬送された。(甲20・11頁16行目から1
2頁6行目まで)。
2 請求原因(玖珠警察署警察官の違法行為・エ)
(エ)小野寺は,フルトレーラーを牽引した自衛隊車を運転して,雑草等が
あり,双方からの見通しが不良な半径25mのカーブを通過する場合,カーブ
の手前でスピードを落とし他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転し
なければならない義務があったのに,最高速度と指定された毎時40kmのまま
本件道路のヘヤピンカーブに進入した過失があった。この結果本件事故が生じ
たのであり,再審原告は約3か月の加療を要する傷害を負ったのであるから,
小野寺は人身事故の加害者である。
しかるに,玖珠警察署の警察官は,小野寺を業務上過失致傷等事件の被疑者
として検察官に送致しなかった。(第1審判決4頁7行目から15行目まで)。
3 原審における再審原告の主張
一たび司法警察員が捜査した事件であれば,必ずしも犯罪の嫌疑のある事件
に限らず,罪とならないことが明らかな事件でも,あるいは犯罪の嫌疑がない
ことが明らかになった事件であっても,これを検察官に送致しなければならな
いのであり,司法警察員は,事件を送致するか否かを決定する権限を与えられ
ていない。したがって,小野寺を業務上過失傷害等被疑事件の被疑者として検
察官に送致しなかった司法警察員の行為は違法である。(原判決2頁24行目か
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ら3頁4行目まで)。
4 再審原告の請求原因(エ)についての原審の判断
原判決及び原判決の引用する第1審判決の判断は下記のとおりである。
「証拠(甲49,50,55,58)によれば,第1訴訟の第1審裁判所は,
本件事故につき,自衛隊車が毎時40kmの速度で進行車線をはみ出すことなく
走行していたところ,再審原告車が急にコントロールを失って対向車線に入り
込み,小野寺がブレーキをかける間もなくフルトレーラーに衝突して発生した
ものと認定し,小野寺には,本件事故の原因となる速度違反や対向車線ヘのは
み出しその他何らの過失もなかったと認定したこと,第1訴訟の控訴審裁判所
も同様の認定をし,本件事故は再審原告の過失に基づく結果であり,小野寺に
は何ら過失がないとの判断を示したこと,第2訴訟の第1審裁判所は,本件事
故につき,小野寺は時速約40kmの速度で本件道路を自衛隊車進行車線を進行
して本件事故現場手前の右カーブに入ったが,再審原告車がコントロールを失
って左右に大きく振れ,自衛隊車の運転席の横を通り過ぎてフルトレーラーに
衝突ないし接触したと認定したこと,第2訴訟の控訴審裁判所も,再審原告は
再審原告車のハンドル・ブレーキの操作を誤り,バランスを崩して中央線を越
え対向車線に進出させたためフルトレーラーに衝突したと認定したこと,第3
訴訟の第1審裁判所は,本件事故の態様につき,第2訴訟の第1審裁判所の上
記認定と同様の認定をしたことが認められる。
上記の各裁判所の認定及び証拠(甲16 ,17,19 ,乙3)によれば,本
件事故の原因は,再審原告車のハンドル・ブレーキの的確な操作を怠った再審
原告の過失にあると認められるのであって,小野寺の過失は認めることができ
ない。」(第1審判決8頁23行目から9頁16行目まで)。
「そして,前掲各証拠(甲第7号証,第10号証の2,第19号証(11頁,
23頁,24頁))に弁論の全趣旨を併せると,玖珠警察署司法警察員は,本件
事故は,再審原告が湯布院町方面から小国町方面に向けて進行中,見通しの悪
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い下り坂の左カーブを進行するに当たり,ハンドル・ブレーキ等の的確な操作
を誤って対向車線に再審原告車を進出させたことにより発生したもので,小野
寺には本件事故の原因となる過失がなく,道路交通法規に違反する事実も認め
られず,小野寺に係る被疑事実はないと判断したことから,再審原告に対する
道路交通法違反被疑事件について捜査をしたものの,小野寺について犯罪の捜
査をしなかったものであり,したがって,小野寺に係る業務上過失傷害等の被
疑事件を検察官に送致しなかったことは何ら違法ではない(刑事訴訟法189
条2項,246条参照)。」(原判決3頁17行目から4頁1行目まで)。
5 刑事訴訟法246条(司法警察員から検察官への事件の送致)は,司法警察
員は,犯罪の捜査をしたときは,この法律に特別の定のある場合を除いては,
速やかに書類および証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない,
但し,検察官が指定した事件については,この限りではない,と規定する。
ひとたび司法警察員が捜査した事件であれば,必ずしも犯罪の嫌疑ある事件
に限らず,罪とならないことが明らかな事件でも,あるいは犯罪の嫌疑がない
ことが明らかになった事件であっても,これを検察官に送致しなければならな
いのであり,司法警察員は,本条による場合は,事件を送致するか否かを決め
る権限を与えられていない。本条は,司法警察職員の手による犯罪捜査の適否
を公訴官である検察官に事後審査させ,もって刑罰権の適正な行使を期するた
めの担保としての意味も有していることになる(大コンメンタール刑事訴訟法
第3巻810頁・青林書店・1996年)。
6 刑事訴訟法189条2項(一般司法警察職員と捜査)は,司法警察職員は,
犯罪があると思料するときは,犯人及び証拠を捜査するものとすると規定する。
「犯罪があると思料するとき」とは,特定の犯罪の嫌疑があると認められる
ときをいう。その認定権は司法警察職員にある。犯罪があると思料するに至っ
た原因を捜査の端緒という。捜査の端緒にはなんら限定はない。
捜査の内容は,犯人を発見すること及び証拠を収集することである。「捜査
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するものとする」とは,単に「捜査する」というのと同じ意味である。捜査を
するのが建前であるという意味であるが,捜査するかどうかが司法警察職員の
自由裁量にゆだねられているわけではない。(前掲大コンメンタール刑事訴訟
法第3巻40,41頁)。
7 本件事故の捜査は,「バイクと大型車による接触事故,バイクの転倒により男
性1名が負傷した」との玖珠署への届出の電話連絡(甲21)を端緒として,
堀部警部補が,早水巡査長に対し事故現場に急行し事実調査と現場保存を行う
よう指示した(甲20・11,12頁)時点で開始されたと解される。
8 原判決は,「玖珠警察署の司法警察員は,小野寺に係る被疑事実はないと判断
したことから,小野寺について犯罪の捜査をしなかったものであり,したがっ
て,小野寺に係る業務上過失傷害等の被疑事件を検察官に送致しなかったこと
は何ら違法ではない」と判示した。
9 原判決は,小野寺には,道路交通法規に違反する事実も認められないと判断
したことから,小野寺について犯罪の捜査をしなかったともいう。
道路交通法70条は,車両等の運転者は,当該車両等のハンドル,ブレーキ
その他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該車両等の状況に応じ,
他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないと規定す
る。小野寺には,時速約40kmの速度で本件道路の自衛隊車進行車線を進行し
て本件事故現場手前の右カーブに入った時点で,再審原告の過失の有無にかか
わらず,道路交通法70条の安全運転の義務違反が生じる。(乙1・甲7・実況
見分調書添付の現場見取図第3図)。
10 本件事故は対向車同士の車道上での接触事故である。再審原告車の転倒位置
は,自衛隊の現場見取図(甲13)では再審原告進行車線の中央付近で,堀部
警部補作成の現場見取図(乙1・甲7)では中央線より再審原告進行車線側に,
1.5メートルの地点としている。玖珠警察署警察官には,双方の車両の運転
者について犯罪の捜査する責任があり,捜査をしなかった合理的理由はない。
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そもそも,小野寺について犯罪の捜査をしなかったら,小野寺に係る被疑事
実の有無は判断できない。小野寺について犯罪の捜査をしないのは違法である。
11 司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,犯罪の嫌疑がないことが明らかな
事件でも検察官に送致しなければならないのであり,玖珠警察署司法警察員に
は小野寺に係る被疑事件を検察官に送致しなかった違法がある。
12 原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判
決は破棄を免れない。
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第3点 実況見分調書(甲7)作成の放置
犯罪捜査規範104条についての原判決の解釈の誤り
1 請求原因(玖珠警察署警察官の違法行為・ア)
(ア)玖珠警察署の警察官は,平成11年10月7日に実況見分を行ったが,
その作成を平成13年9月27日まで放置した。(第1審判決3頁18行目から
21行目まで)。
2 再審原告の請求原因について原判決の判断
原判決及び原判決の引用する第1審判決の判断は下記のとおりである。
「証拠(甲59)によれば,第3訴訟の控訴審裁判所は,実況見分調書が作
成されるに至る経過について,次のとおり認定したことが認められる。すなわ
ち,堀部警部補らは,平成11年10月7日午後0時34分から午後1時20
分まで本件事故現場の実況見分を実施し,本件道路に残された痕跡等から,加
害者は本件道路の中央線を越えた再審原告であり,被害者は小野寺であると判
断した,堀部警部補らは,再審原告立会いの下で本件事故の実況見分を実施し
ようとしたが,再審原告は,退院後には玖珠警察署に出頭して実況見分に立ち
会う旨約していたにもかかわらず,退院後神奈川県の自宅に帰ってしまい,堀
部警部補らは再審原告に対し郵便で玖珠警察署に出頭するよう要請したが,再
審原告はこれに応じなかった,この間,自衛隊等が,自衛隊車等に実質的な損
害がないことなどから,再審原告の処罰を望まない旨申し立てたので,堀部警
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部補らは,平成12年2月10日,後日紛議が生じた場合には,捜査を再開し
て送致することを条件に本件事故捜査を一時保留処分とすることとした,堀部
警部補らは,平成13年8月,再審原告が国に対して第1訴訟を提起したこと
が判明したので,上記保留処分を解除し,送致準備を進めることとしたが,再
審原告は,高齢と経済的な問題を理由に玖珠警察署への出頭に応じることがで
きない旨主張し続けた,堀部警部補らは,日田区検察庁検察官の指示を受け,
堀部警部補が,本件事故当時に作成していた現場メモに基づいて同年9月27
日付けて実況見分調書を作成し,神奈川県まで赴き,再審原告の取調べを実施
し,上記実況見分調書を示しながら被疑者供述調書を作成し,同年11月20
日,再審原告に係る被疑事件を日田区検察庁検察官に送致した。
上記の第3訴訟の控訴審裁判所の認定を覆すに足りる証拠はなく,証拠(甲
10の1・2,59)によれば,上記のとおり認定することができる。
これによれば,玖珠警察署の警察官が実況見分後直ちに実況見分調書の作
成をしなかったことには,合理的理由があるというべきであり,実況見分調書
の作成を放置していたということはできない。」(第1審判決6頁16行目から
7頁16行目まで)。
3 犯罪捜査規範104条(実況見分)は,「1犯罪の現場その他の場所,身体又
は物について事実発見のため必要があるときは,実況見分を行わなければなら
ない。2実況見分は,居住者,管理者その他関係者の立会を得て行い,その結果
を実況見分調書に正確に記載しておかなければならない。」と規定する。
4 実況見分調書(甲7)には,実況見分の立会人は小野寺,見分官は間ノ瀬巡査
部長,補助者は堀部警部補及び早水巡査長と記載されている。見分官として本
件事故の実況見分を行った間ノ瀬巡査部長は,その結果を実況見分調書に正確
に記載しておかなければならない。間ノ瀬巡査部長が実況見分後に実況見分調
書の作成をできなかった特段の事情,作成しなかった合理的理由はない。
そもそも,小野寺立会いの実況見分調書を作成するにあたり,再審原告立会
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の実況見分の有無は関係がない。
5 再審原告は,平成11年10月29日玖珠警察署に間ノ瀬巡査部長を訪ね本
件事故について話を聞き(甲3),約3ヵ月の加療を必要とする見込みとの内
容の診断書(甲23)を提出し,被害を届け出た。
本件事故は交通切符では処理できない事案である。間ノ瀬巡査部長は,基本
書式で,小野寺立会いの実況見分調書を作成しておかねばならない。
6 調査嘱託書に対する平成19年3月26日付け玖珠警察署長の回答(甲10)
は,「当該実況見分調書の作成日時が実施日時と異なった理由は,本件を一旦
保留処分としていたところ,出羽から民事提訴がなされ,送致する必要性が生
じたため,検事の指揮を受けた上で,事故当日の現場メモを基に実況見分調書
を作成したという経緯による。」,「作成に際し用いた資料等は,堀部警部補が
事故当日自ら記録した現場メモ」である。
7 調査嘱託書に対する平成19年8月17日付け玖珠警察署長の回答(甲11)
は,「(1) 実況見分調書に添付されている写真の撮影年月日,撮影場所及び撮
影者;平成11年10月7日,事故現場にて撮影,撮影者;堀部警部補,(2)
上記(1) の写真のネガの現存の有無;有,(3) 堀部警部補の現場メモの現存の
有無;無,(4) 上記(1)の写真及び(3)の現場メモの他に,同調書作成の基とな
った資料等の存在の有無;無」である。
8 相手方は,第1審の平成20年11月12日付け準備書面で下記のとおり陳
述して,堀部警部補自身の現場メモの他に,長谷部巡査部長が平成11年10
月8日に作成していた交通切符様式の実況見分調書の存在を認めている。
「平成11年10月8日,間ノ瀬巡査部長は,交通切符様式の実況見分調書
を作成するとともに,小野寺に電話連絡をして10月12日に玖珠警察署に出
頭するように要請した。平成11年10月12日,間ノ瀬巡査部長は,玖珠警
察署において任意出頭した小野寺の事情聴取に当たった。(同書面8頁6行目か
ら10行目まで)」。
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「本来であれば実況見分調書の作成は,見分官である間ノ瀬巡査部長が行う
べきところ,間ノ瀬巡査部長は,平成13年5月1日付けで九州管区警察局高
速道路福岡管理室に異動となっていたことから,当該実況見分に補助者として
立会った堀部警部補が,基本書式で実況見分調書を作成することとし,間ノ瀬
巡査部長が平成11年10月8日に作成していた交通切符様式の実況見分調書
及び堀部警部補自身が作成していた現場メモ(図面)並びに事故当日に撮影し
た車両の損傷状況・道路状況の写真に基づき,平成13年9月27日付けの基
本書式の実況見分調書を作成した。(同書面13頁1行目から10行目まで)」。
9 原判決は「堀部警部補らは,日田区検察庁検察官の指示を受け,堀部警部補
が本件事故当時に作成していた現場メモに基づいて平成13年9月27日付け
で実況見分調書を作成し,・・・」と認定した。(第1審判決7頁7行目から9
行目まで)。
10 原判決は,相手方が認めている,間ノ瀬巡査部長が平成11年10月8日作
成したという交通切符様式の実況見分調書の存在を否定(看過)している。
11 玖珠警察署司法警察員(間ノ瀬巡査部長)には,実況見分後速やかに基本書
式で実況見分調書を作成する義務があり,作成しなかった合理的理由はない。
玖珠警察署の警察官には,実況見分調書の作成を放置していた違法がある。
12 原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判
決は破棄を免れない。
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