6月22日(火)午後11時24分から午後11時31分にかけて、日テレのnews zeroで次のような報道があった。
〈「慰霊の日」に 沖縄戦…初の「リモート語り部」
沖縄県立小禄高等学校で、上原美智子さんがリモートで戦争体験を語った。櫻井翔も東京からオンライン参加。上原さんは9歳で沖縄戦を経験し、語り部として活動している。今年は新型コロナウイルスの影響で相次いでキャンセルになる中、高校からリモート語り部の依頼があった。上原さんは、戦中の体験が現在のコロナの状況と似通っていると話した。若い世代に戦争を身近に思ってもらうため、コロナの話をしたという。〉
床につく寸前だった。時間を確かめようとTVのスイッチを入れた時、これが流れた。途端に眠気が吹っ飛んでしまった。
「戦中の体験が現在のコロナの状況と似通っている」。ここに生徒たちはいたく共感したという。新型コロナウィルス感染対策のため沖縄でも長く休校が続いた。今までとは一変した日常のあれこれ。自粛という名の同調圧力。お上の差配で直接的に個人の生活が制約される。その実覚の延長にガマ(避難用の自然洞窟)の悲劇を追体験したにちがいない。語り部・上原さんの情熱が生んだ機智であったろう。
さらに、「オンラインだからいつもより以上に集中して聴けた」との高校生の声も紹介していた。瓢箪から駒、いやコロナがもたらした『大功績』といって過言ではない。
沖縄戦の犠牲者は20万人余。うち一般住民は9万4千人。これが大きな特徴だ。実に県民の4人に1人が犠牲となった。ガマでは日本軍が住民を爆撃の只中に追い出したり、自決を強制した。断末魔の惨劇がそこで集約的に繰り返された。
年々話題になるのは記憶の風化である。戦争体験が後景化していく。これは深刻だ。今日の社説で朝日はこう述べている。
〈朝日新聞と沖縄タイムスが実施した沖縄戦体験者の聞き取り調査では、体験が次世代に「伝わっていない」と答えた人が6割を超えた。戦争を知る人の多くは鬼籍に入り、話を聞ける機会は年々減っている。きょうの追悼式には、沖縄と同じように民間人の犠牲者が多かった広島と長崎の市長がメッセージを寄せる。ともに75年前の悲劇に思いを致し、この国の今を見つめ直す機会にしたい。〉(抜粋)
「リモート語り部」には「櫻井翔も東京からオンライン参加」した。これは心強い。オンラインによる承継は風化を防ぐ好手になるかも知れない。コロナによる戦争体験への共鳴。この芽を大きく育てたい。
今年の沖縄全戦没者追悼式で「平和の詩」を詠み上げたのは沖縄の女子高校生。県立首里高校に通う高良朱香音さん3年生だ。一度も原稿に目を落とさず、しっかりと、一語一語を噛みしめながら語りかけた。
「懐中電灯を消してください」
一つ、また一つ光が消えていく
真っ暗になったその場所は
まだ昼間だというのに
あまりにも暗い
少し湿った空気を感じながら
私はあの時を想像する
・ ・ ・ ・
あなたが声を上げて泣かなかったあの時
あなたの母はあなたを殺さずに済んだ
あなたは生き延びた
・ ・ ・ ・
あなたが少女に白旗を持たせたあの時
彼女は真っ直ぐに旗を掲げた
少女は助かった
ありがとう
あなたがあの時
あの人を助けてくれたおかげで
私は今 ここにいる
あなたがあの時
前を見続けてくれたおかげで
この島は今 ここにある
「真っ暗になったその場所」とはガマだ。日常と非常の、生と死の、平和と戦争の間(アワイ)に引かれた境界線であった。肺腑を抉る朗読であった。「あの時を想像する」力に感銘を受けた。やはり想像力をどう喚起するか。後継世代には十分な感受性がある。如上のニュースはコロナが風化防止への先鞭をつけた好個の例といえる。語り得ない不幸を受けた地こそ語らずにはいられない幸福に包まれるべきだ。しかし戦争はいまだその沖縄で続いている。やまとぅんちゅの1人として「あの時を想像する」責務を忘れてはなるまい。
比べるだに愚かなことだが、コロナのためにビデオメッセージに替えた首相。沖縄振興とは言うが、いつものようにカネ、カネ、カネの話だ。なんと愚かで薄っぺらな人物か。高良さんの爪の垢でも煎じて飲んだらいかがか。彼女はキモいと言って飛んで逃げるだろうが。
4月25日の拙稿「コロナの大功名」では、改憲シナリオに大番狂わせを起こした大功名を挙げた。これは国家権力の暴走を阻止する「天変地異」ではないか、と。スピリチャルな与太ではない。国家権力の暴走を停めるのは他のより強大な国家権力か、天変地異しかないからだ。
続いて5月12日には「コロナの大手柄」と題して、『キョンキョン・ショック』を挙げた。検察庁法改正案に抗議の投稿680万件超。司法をも牛耳ようとする独裁に大ブーイング。政治に無関心だった層が俄に政治意識を持ち始めた。コロナが政治を身近にさせた大手柄である、と。
そして、3弾目が「リモート語り部」である。コロナが期せずして反戦へのとば口となる。蓋し、大功績ではあるまいか。4弾目は果たして? □