伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

嵌められた閣僚

2020年01月19日 | エッセー

 小泉環境大臣が育児休暇を取り始めたらしい。結局こんなことでしか「発信力」を見せられないのか。国連デビューではいつもの歯切れよい物言いは失せ、空振り。石炭火力が足枷となって気候行動サミットでは発言の機会さえなかった。ここで浮き彫りになってきたことは進次郎氏が安倍人事に嵌められたというありようである。過言だという向きもあろう。ならば半分は力試しといっておこう。いずれにせよ、大臣の本業としてはまことに精彩を欠いている。
 もう1人。河野防衛大臣だ。こちらは外務から防衛大臣へのスライドである。自衛隊の中東派遣でもし何かあった時、真っ先に火の粉を浴びるのは間違いなく彼だ。外相時に親父譲りのリベラル色はすでに褪せていたが、今度は派遣の指揮官として飛んだ火中の栗を拾ったものだ。フツウの保守政治家へのグレードダウン。こちらも安倍人事に嵌められたとしかいいようがない。
 権力志向は政治家の本性であろう。だが、売りを質草にしたのではなんとも情けない。それに韓信の股くぐりほどの高尚さは微塵もない。あるのは、狡猾な人事に骨抜きにされていく哀れな姿だけだ。
 これほどあざとい人事の裏には、この政権が持つ論功行賞への異様な偏執がある。モリカケがその典型だ。忖度しウソをつきまくって矢を受けた者は徹して護る。佐川宣寿理財局長は国税庁長官に栄転したし、昭恵夫人付きの職員だった谷査恵子は在イタリア日本大使館1等書記官として優雅な生活と聞く。逆に弓引いた者には仮借なき仕打ちが待っている。これは極めて例が少ない。加計学園問題で正直に答弁した前川喜平文部科学事務次官が退任したことぐらいか。霞ヶ関は国民ではなく安倍一強の僕(シモベ)に堕しているがゆえだ。
 ただしハズレもある。同じ無派閥の菅官房長官の引きで経済産業相に抜擢された菅原一秀。岸田派候補を破った河井克行の法相起用。身から出た錆、ひどいドジを踏んだものだ。
 再度の引用になるが、思想家・内田 樹氏の炯眼を徴しよう。
 〈未来の見えない日本の中の未来なき政治家の典型が安倍晋三です。安倍晋三のありようは今の日本人の絶望と同期しています。未来に希望があったら、一歩ずつでも煉瓦を積み上げるように国のかたちを整えてゆこうとします。そういう前向きの気分の国民があんな男を総理大臣に戴くはずがない。自信のなさが反転した彼の攻撃性と異常な自己愛は「滅びかけている国」の国民たちの琴線に触れるのです。彼をトップに押し上げているのは、日本の有権者の絶望だと思います。(「憲法が生きる市民社会へ」から)
 「攻撃性と異常な自己愛」こそ如上の狡猾な人事と論功行賞への異様な偏執を生んでいる元凶ではないか。永田町の面々は嵌められても、国民まで嵌められてはなるまい。 □