伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

小さな親切 大きなお世話

2007年06月17日 | エッセー
 最近新聞でも良く見掛ける、「何々して欲しい」と言う表記の仕方。此れは頂け無い。ワープロを使うと矢鱈漢字が多くなる事は予て指摘されて来た事だが、少々考え物だ。

 いかがであろう。かなり読みにくい。

 最近新聞でもよく見かける、「なになにして欲しい」という表記の仕方。これはいただけない。ワープロを使うとやたら漢字が多くなることはかねて指摘されてきたことだが、少々考えものだ。

 こちらがなめらかに読める。正確に調べたわけではない。感覚でものを言っているのだが、近ごろは新聞や刊行物のほとんどが「……欲しい」のようだ。一線の記者からしてワープロを使う。『実線』でないから、違和感をもたないのかもしれない。筆記用具を使って書けば、おそらく「……してほしい」とするだろう。「……して欲しい」では生々しい。ワープロ以前は「ほしい」であったはずだ。これも感覚でものを言っている。間違っているかもしれない。志ある方は是非調べていただきたい。
 「違和感」とは、「欲」の字についてだ。
 欲 ― 海・界・気・情・心・塵・念・得・望・目・ばる 
 欲 ― の皮・に目がくらむ・と二人づれ・と相談
 これ以外にもたくさんあるだろう。まあ、ろくなものはない。極めてネガティヴな文字である。だから、よかれと希望する場合に「欲しい」とは書かず、やはり「ほしい」ではないだろうか。もちろん、文法上のまちがいではない。見た目の問題である。より強い希望の場合、「欲しい」との表現が辞書に散見できるし、「……欲する」なら文句はない。
 さらに冒頭の文中「良く見掛ける」の「良く」は誤記の疑い、濃厚だ。「よく」であろう。「良い曲」などという書き方。これはおそらく『いいきょく』と入力して変換したのではないか。「いい曲」と書きたかったのではないか。ワープロで「よい」と打って「いい」とはならないが、「いい」と打つと「良い」と変換候補に出てくる。しかし、これは読みが違うのだから、「小さな親切 大きなお世話」の類ではないか。なにかの拍子に「良い」で確定してしまえば、次からは最初に変換されてしまう。
 逆もある。箇条書きのアタマだ。WORDなどでは箇条書きのオプションに中黒「・」がある。これを使った箇条書きをよく見かける。しかし、これは明らかに用途がちがう。「・」は並列表記の記号だ。箇条書きの文中に同記号が交じると紛らわしい。悲しいかな、どのワープロソフトにも箇条書きのアタマに適した記号が用意されていない。これなどは、「小さな不親切 大きな迷惑」である。
 
 さて、表題。「小さな親切」とは相手の立場を慮っての言い方であろう。他方、「大きなお世話」とはこちらの事情である。わたしの記憶が定かならば、漫才コンビのセントルイスのギャグではなかったか。ひとつの言動も、立場、事情でとかく評価が割れる。実に人の世は住みにくい。
 今朝、倅からメールが着(キ)た。身体をいたわり、仕事に励めとの「万感」をわずか20文字に「簡潔に」まとめてある。滂沱の涙とともに読もうにも、目線は文末まであっという間に走ってしまった。まだまだ働けというか。『林住期』は夢のまた夢か。「母の日」があるからといって「父の日」まで設ける必要はない。だれだ、こんなことを決めたヤツは。
 まことに、「小さな親切 大きなお世話」ではある。と、こんなことをいえば、「それをいっちゃー、おしまいよ」と寅さんに叱られそうだ。
 で……、ここまで書いて投稿しようとした時、宅急便が届いた。娘からのプレゼントであった。「子離れせよ」とのキツーい一文を添えて厳重に日本酒の小瓶が包まれていた。きょうは万斛の涙とともに千分の一斛の晩酌をせねばなるまい。断じて「父の日」よ、永遠なれと念じつつ。□


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