伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

2007年10月の出来事から

2007年11月04日 | エッセー
■ 亀田大毅が反則
 WBCフライ級タイトルマッチで王者・内藤大助に判定負けして(11日)父の史郎トレーナーを無期限のセコンドライセンス停止、本人は1年間のボクサーライセンス停止(15日)
  ―― うなだれて、無言で会見に臨む大毅。ヒールになり切れなかった素の少年を見て、安堵した。
 一連の顛末を眺めると、「教育ママ」と二重写しになってくる。この場合、教育『パパ』と呼ぶべきか。「お受験」はさしずめ、格下との試合か。「モンスター・ピアレント」の顔もあった。ボクシングに事寄せた『現代教育事情』と捉えれば、一見の価値ありだ。
 背景には低迷するボクシング界と視聴率ほしさのテレビ局があった。「民放のNHK」といわれたTBSが、最近では売上増に血眼とか。彼らにとって、亀田家は格好の素材、渡りに船であった。ただ、座礁してしまったが。
 ともあれ、教育事情のことだ。「教育ママ」とは、つまり子供を使った自己顕示をいう。ママがパパであっても、時としてババであろうとも同じだ。付きっきりの猛勉強と猛練習、勉強浸けと練習浸け、何の変わりもない。受験のお供と試合のセコンド、これまた同じ。教師を巻き込んだ試験問題の漏洩と格下相手の試合は、どちらも偽装のグレードアップだ。ゴキブリだかなんだかしらないが、受売りのパフォーマンスはいかにも下卑だ。教室内のいじめに限りなく近い。「〇〇君は風邪でお休み」と言った教師に、「プライバシーの侵害だ!」と噛み付いたモンスター・ピアレントがいたそうだ。この伝でいくと、反則指示の『パパ』は『モンスター・セコンド』か。まことにお寒い限りだ。

■ 「赤福」餅、消費期限偽る
 農林水産省が改善を指示(12日)
  ―― 今年は不二家に始まり、白い恋人、ミートホープ、赤福餅、比内地鶏、御福餅、船場吉兆、はてはミスタードーナツに至るまでさまざまな食品偽装が明るみに出た。
 だれも言わないから、『欠片』が言おう。 ―― これらはすべて内部告発で発覚した。消費者の『舌』が暴いたものは一つとしてない。つまりはその程度のことである。誤魔化すヤツも悪いが、誤魔化される者も間が抜けている。
 腹痛に見舞われた人が出たわけでもない。ましてや落命など一件もない。身体的実害もないのに連中はこぞって国賊なみに叩かれた。自分の『舌』は棚に上げて、非難の大合唱だ。考えてみれば、奇妙ではないか。「全然気がつきませんでした。私は味音痴だったんですね」などという声を聞いたことがない。消費者は王様というなら、「裸の王様」だ。ノせられた王様も相当な能天気である。
 不正競争防止法違反<虚偽表示>が、その罪科である。「表示」とは成分、もしくは製造年月日、さらに消費・賞味期限のことだ。
 分けても賞味期限。賞味期限切れで廃棄される食品は年間2千万トン以上に及ぶ。2001年に「食品リサイクル法」が施行されたが、賞味期限がある限り廃棄の現実に変わりはない。食糧自給率40パーセントの国が、この体たらく。ここにこそ目を向けるべきではないか。飽食ニッポンのマンガのような転倒の姿。食えるに任せて、ついにこの国には「味利き」がいなくなったのである。論より証拠、すべてはチクリから露見した。 
 鑑定家・中島誠之助氏は5メートルの距離があれば、本物かどうか判ると言う。虫メガネで覗き込むのはテレビの絵面用だそうだ。その秘密を自著で次のように綴っている。
 ~~親父も商人で、ましてや目利きだったから、かなり精巧なニセモノを扱っていたはずだ。私が覗き込もうとすると、すーっと何気なく隠したものがいくつかあった。今にして思うと、あれがニセモノだったに違いない。御陰で私は独立して骨董の商売をするまで、ホンモノだけを見て育った純粋培養だったから、逆にニセモノがわかるのだと思う。自分の基準線にないものが目の前にあらわれたときに、何かがおかしいというカンが働く。だから、自分にとっては立派な修業をさせてもらったと、今はありがたく思っている。(「ニセモノはなぜ、人を騙すのか?」角川oneテーマ21)~~
 食も同じではなかろうか。「能書き」ではなく、まずは己の『舌』だ。ホンモノを堪能して作り上げる「味利き」だ。などと嘯いてはみたものの、そのような能力にも環境にも恵まれなかった『欠片』としては、期限切れなど歯牙にもかけず、モドキ食品に舌鼓を打つ今日この頃である。

■ 守屋武昌前防衛事務次官を証人喚問
 衆院テロ対策特別委員会で。軍需専門商社「山田洋行」元専務からゴルフ接待を受けたことなどを認める(29日)
 ~~贈り物は、外交やインテリジェンスの世界では、それが友情の証として使われる。もちろん賄賂としても重要で、たとえば一万円札を「どうぞ」と渡しても受け取らない人がほとんどですが、「フランスに行ったら、あなたに似合いそうな物があったので」とエルメスのネクタイを渡すと、誰でも受け取ります。でもエルメスのネクタイって一本4万5000円するわけですよ。それを10本ぐらい受け取った頃に、相手はハッと気づくわけです。~~(幻冬舎新書「インテリジェンス ―― 武器なき戦争」から)
  ―― 『外務書のラスプーチン』こと佐藤 優氏の発言だけに凄味がある。10本どころか、200回以上。賄賂でないわけがない。『第二のロッキード』と囁かれる所以だ。ベクトルとしてはかなり近い。
 先月も官僚のモラルハザードには触れた。利権、特権と賂。古くて新しい問題だ。金銭欲と支配欲。人間の属性に関わるアポリアである。一筋縄ではいかない。次元を変えた取り組みが必要だ。小池女史ひとりが溜飲を下げて終わり、では済まされない。

■ 福田首相と民主党の小沢党首が初の党首会談
 呼びかけた福田首相が補給支援特措法案の成立に向けて協力を要請。まとまらず、再び会談をすることで一致(30日)
  ―― なにやら、策士策に溺れる展開を見せてきた。(11月4日時点)切所に至ると、オオサワくんには自民党時代のDNAが蠢き出すらしい。血は水よりも濃い、か。
 大括りにいうと、補給支援特措法案を挙げるには衆院での3分の2再可決しかない。問題は、この荒技を使える情況をどう煮詰めるかだ。連立構想がどちらの仕掛けであったかは別にして、この第1ラウンドはフグタくんの勝ちだ。
 漢の名将韓信は「背水の陣」を敷いて趙を破った。わざと自軍を川を背負う窮地に追い込み死力を振るわせたのだ。フグタくんの就任の弁、「背水の陣内閣」はそのような遠謀があったのか、なかったのか。術数の攻防が始まった。

(朝日新聞に掲載される「<先>月の出来事」のうち、いくつかを取り上げた。見出しとまとめはそのまま引用した。 ―― 以下は欠片 筆)□


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