伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

北斗の人

2015年09月27日 | エッセー

 わたしには絶対罹らないと断言できる病気がある。かわいそうだけれど、はるな愛ちゃんもIKKOクンにも生涯無縁の病がある。乳ガンだ。こともあろうに、すげぇー男っぽい北斗 晶がそれで患っていると聞く。世の中、うまくいかないものだ(「うまく」とは愛ちゃん及びその同類には叶わない“悪夢”ということ)。
 ヒールで鳴らした元女子プロレスラー。引退後の困窮を越え、今やタレントにして実業家、女優ともいわれ芸能プロモーターの肩書きまで持つ。料理は玄人裸足で、力尽くの良妻にして心優しい賢母。当今はいざ知らず女子プロそのものがヤンキーの象徴であったことを踏まえれば、日本人の好きな「元ヤン」を地でいくような人物である。
 不刊の書ともいうべき斎藤 環氏の「ヤンキー化する日本」(角川oneテーマ21)によれば、ヤンキーは次の6つの特徴をもつ。
──①バッドセンス  ②キャラとコミュニケーション  ③アゲアゲのノリと気合  ④リアリズムとロマンティシズム  ⑤角栄的リアリズム  ⑥ポエムな美意識と女性性──
 一々の詳説は措くとして、ことごとく符合している。①は女子プロの属性であろうし、キャラが立ち地頭がよく仕切りが巧いのは②である。③は女子プロ以来の一貫したスタイルだ。斎藤氏は「愛する家族と一戸建ての家とポルシェ」を④の典型として挙げる。ならば、DREAM COME TRUE であろうし、⑤が原動力になったにちがいない。如上の良妻賢母はまさしく⑥といえよう。
 いや、待て。これは「元ヤン」ではない。なによりトポロジーに変わりはない。現役、「今ヤン」、「ずっとヤン」ではないか。典型的ヤンキーにして、大成功を掴んだヤンキーではないか。成功のメッキが剥げ始めた永田町のヤンキー宰相と比するに、なんとも鮮やかだ。
 手に入れた安保法制、最初の施行は来年5月の南スーダンPKOになる模様だ。約めれば、中国脅威論を盾にごり押しした規矩準縄である。同国には中国が大金を叩いてこさえた石油施設がある。なんのことはない、「駆けつけ警護」は脅威であるとする当の中国の利権を“警護”する羽目になりかねない。おまけに万が一事が起こって刃傷沙汰にでもなれば、世論は沸騰する。来夏の参院選は大敗必定だ。さらに、アベノミクス“新3本の矢”の呆れるほどのお粗末さ。経済指標の低迷を糊塗し、“アホノミクス”の失敗から目を逸らそうとする姑息な目眩ましだ。アホノミクス、恥の上塗りでしかない。“第2ステージ”などと言い出す事自体、上手くいかなかった証拠ではないか。メッキは確実に落ち始めている。新国立競技場もエンブレムも本ブログの当てずっぽうが近似した。己惚れていえば、ヤンキー宰相「アゲアゲのノリと気合」は一気にヘコむにちがいない。
 片や、元女子プロヤンキーはこの闘病でますます株を上げる。「ポエムな美意識と女性性」に磨きが掛かる。
 司馬遼太郎作品に『北斗の人』がある。北辰一刀流を開いた千葉周作を描いた名作だ。周作は奥義、秘儀に屏息した剣術を大いに開いた。木刀を竹刀に替え、防具を用いた打ち込み稽古を重んじた。近代剣道の祖型とも賞される。
 突飛な連想だが、もし彼女が平成の“女流北斗の人”だとしたら何を開くのか。窮屈な男社会を開くティピカルな女性像か──などと、怖ろしい当てずっぽうが盛んに脳裏を過ぎる。 □