伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

毒舌俳人

2014年12月11日 | エッセー

 夏井いつき。なんとも言い辛い俳号である。TBS系『プレバト!!』にいつも和服姿で登場し、歯に衣着せぬ辛口批評でいま注目されている。
 AKB48の元・現メンバーの作品に、直しようもないので
「さっさと帰って寝なさい」
 と突き放し、使い古された表現には
「あたかも自分の脳から生まれたような錯覚をしている俳句。自分の脳みそで考えていない」
 と扱き下ろす。「比喩」と「揶揄」を平気でまちがえると
「日本の学校は何を教えているんだろう」
 と呆れる。メンバーを替えても連続で最下位に泣くAKBを
「恐ろしい組織」
 と断ずる。まことに痛快この上ない。
 先生は当年57歳、現代俳句の生地ともいうべき伊予の出身である。中学の国語教師を経て、昭和末年に俳人として自立する。俳句集団「いつき組」をつくり、自ら「組長」に納まる。小中高校生への俳句教室をはじめ、多彩な活動を展開中。別けても、子規没後100年を期して、向こう「100年俳句計画」を提唱している。松山を活動拠点としつつ東京へは番度飛行機で往き来するアクティブでアグレッシブな俳人である。
 『プレバト!!』は、『使える芸能人は誰だ!?プレッシャーバトル!!』の略称である。盛りつけ、生け花、リズム感テスト、粘土造形そして俳句など、芸能人の本当の実力をそれぞれの専門家が評価し、「才能アリ」「凡人」「才能ナシ」にランク付けする。芸能人にとってはかなりのプレッシャーにちがいない。名の知れた歌手がリズム感「才能ナシ」であったり、料理の腕前が自慢の芸人が盛りつけ「ど凡人」と評される。天然で売ってるバラタレや、元プロアスリートが意外な才能を見せたり、結構愉しめる。
 何度か視聴して気付いたことがある。宝塚出身の女優たちについてだ。盛りつけ、生け花、リズム感は「才能アリ」トップなのに、なぜか俳句は滅多切りにされる。感覚系は優れているのに、文系はからきしなのだ。もちろんリテラシーに問題があるわけではない。そこはAKBとは異なる。ただ作品が面白くもなんともない。まったく冴えない。俗にいう「右脳=感覚、左脳=理論」を地で行くようだ。ただし、これは巷説に過ぎないという学者もいる。しかし、信頼する碩学・養老孟司氏はこう語る。
◇視聴覚を共通に処理しようとするのが左脳で、右脳は別々に処理しようとする脳なんです。言い換えると、言葉脳が左で、音楽脳とか絵画脳は右ということですね。右脳は言語を使わないで、音は音、視覚は視覚で処理している。非常に高度な処理をするわけです。左脳は両者を共通に処理するんですが、共通にするためには、目でしかわからない作業とか、耳しかわからない作業を、その中から落としていくんですよ。ですから、右脳を活用する人は芸術に関係が深いというのはそういうことです。それは右脳だから言語に関係がないっていうことでもある。僕は芸大で美術を教えていたんですが、面白いんですよ、学生はだいたい外国語が下手なんです。芸術の能力を高めようとしたら、言葉の能力が低くなるんです。目と耳の共通処理部分が小さくなってくるわけです。だから芸大は入試で外国語を課しちゃいけないところですよ。逆に、言語能力が高いということは、極端にいえば右脳の側の能力が低いということになるんです。◇(扶桑社「記憶がウソをつく!」から)
 稿者はあの現代版女歌舞伎というか、チープなフェミニンミュージカルというべきか、すべてが嘘っぽいヅカが体質的に適(ア)わない(そういえば、タモリは名うてのヅカ嫌いだ)。だからバイアスの掛かった受け取り方をするのかもしれぬが、今のところ『プレバト!!』は如上の言説をきっちり裏書きしている。書いているのは夏井先生だ。
 当然の話、評者は誰の作品かは知らずに判断を下す。前回などは、「才能アリ」1位にイケメン俳優が来た。先生、画面越しに満面の笑みで手を振ってエールを送っていた。なにが毒舌なものか。衣の下のミーハーをちらっと見せる。これも、また憎い。 □