伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

2014流行語大賞を評す

2014年12月04日 | エッセー

 大賞以外のトップ10から。
【ありのままで】
 なにやらアニメ映画の歌らしい。そちらもとんと不案内なもので、歌を聞いた時「蟻のままで」と解していた。キリギリスにはならずとも蟻には蟻の生き方がある、なんていうことかと。どうもそうではなかったらしい。
 精神科医の片田珠美氏が、近著でこう語っている。
◇最近は、大ヒットした映画『アナと雪の女王.』の劇中歌の影響で、「ありのまま」の自分を前面に押し出しても許されるとか、認めてもらって当然と思い込んでいる方がいらっしゃるようだが、とんでもない勘違いである。「ありのまま」の自分を受け入れてもらえないと愚痴をこぼしたり、他人を恨んだりするのは、傲慢な思い上がりにしか私には見えない。あの歌詞は、自分は何者なのかと葛藤している人に向けたメッセージであり、幼稚な大人のわがままを肯定するものではないはずだ。職場、学校、家庭などで、多かれ少なかれ他人と関わりながら生きてゆかなければならない以上、あなたが自分自身について抱いているイメージと、他人からの客観的な評価とのズレはできるだけ小さいほうがいい。このズレが大きければ大きいほど勘違いしやすいからである。それを防ぐためにこそ、他人の目にあなたがどんなふうに映っているのかをある程度知っておくことが必要なのである。◇( PHP新書「プライドが高くて迷惑な人」から)
 「幼稚な大人のわがままを肯定するものではない」とは、厳しい一撃だ。蜂の一刺し、いや蟻の一穴に要注意ということか。
【カープ女子】
 「○○女子」は最近の流行りだ。新球場オープンに併せて球団が仕掛けたらしい。めっぽう鯉濃がお好きな女子の謂ではない。けれども、シーズンが終わってみればやっぱり薄かった球団の存在。ここのとこ、それの繰り返しだ。鯉濃のように濃密なシーズンは来るのか。サポート運動に、ぜひ鯉濃を取り入れてはいかがか。
【壁ドン】
 プロレスラーの頭突き技ではない。かといって、隣室がうるさいと壁をドンとやる威嚇でもない。少女マンガのプロポーズシーンから流行ったそうだ。その後向き合った女性の顎をクイッと持ち上げる「顎クイ」が派生し、壁を背にした女性の股に脚を入れて壁を蹴る「股ドン」なるものも生まれたらしい。草食系男子の“壁”を破るトライアルだとの分析もある。なんだか、建築屋さんが儲かりそうな話だ。
【危険ドラッグ】
 特定秘密保護法、武器輸出三原則の廃止、日本版NSC、ODAの見直し、そして集団的自衛権。永田町にも同類が蔓延しているのではないか。第一、「ドラッグ」に「危険」を冠するのは形容矛盾ではないか。傍目には危険極まりないのに、当人は薬だという。どこかの政権に構図が似てないか。
【ごきげんよう】
 NHK朝ドラでエンディングに流れるナレーションだそうだ。生まれてこの方朝ドラなぞというものを見たことがないので、伝聞である。ひょっとすると、声の主はあの妖怪(失礼)さんでは。だとすると、朝っぱらからあの声音では眠気もすっ飛ぶというものだ。
【マタハラ】
 又、股の裏側への“カンチョー!”ではないかと早とちりしそうになった。なんでも言葉を縮めるのは日本人のお得意だが(米国人もそう)、用心して約めてもらわないととんだ誤解を生む。で、その誤解を又してもハラスメントだと叱られる。
【妖怪ウォッチ】
 ゲームソフト、およびそのグッズだそうである。『ごきげんよう』の妖怪さんではない。あのお方をウォッチしたら、「なんか用かい?」っていわれそう。
【レジェンド】
 先日もW杯で優勝した葛西紀明を筆頭に、青木功や山本昌広をそう呼ぶそうだ。しかし生きている者がレジェンドとは、なんかおかしくはないか。棺を蓋いて事定まるのはずだがから、もっと外の言い方が望ましい。といって、妙案はありませんが。
 さて、大賞は【ダメよ~ダメダメ】と【集団的自衛権】のダブル受賞であった。前者は一発芸人(たぶん)の一発ギャグ(たぶん)であり、後者は政治用語である。片っぽはすぐ消えるし、もう一方は尾を引きそうだ。だが、この異質の組み合わせがいい。実に、いい。久しぶりに流行語大賞に唸った。
 両方併せると、巧みな政治的メッセージとなる。字数(ジカズ)は違うが、絶妙な狂歌ともいえる。
   泰平の眠りをさます上喜撰 たつた四杯で夜も眠れず
 黒船来航に動顛する世相、別けても幕府を揶揄し洒落のめした狂歌の名作である。高価なお茶である上喜撰を蒸気船に、四杯を軍艦四艘に掛けている。吉田松陰も「アメリカガのませにきたる上喜撰 たった四杯で夜も寝ラレズ」と、直筆で記録していたそうだ。
 これほど高級ではないが、「ダメよ~ダメダメ集団的自衛権」と詠めばなかなかいける。政治用語をドンと引きずり下ろし、一発ギャグと同列にしてしまう。しっかりツイストしておちょくっている。これぞ狂歌の精神である。
「泰平の眠りをさます集団的 たつた三文字(ミモジ)でいつか来た道」
 お粗末。 □