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福田繁雄追悼特別展(その2)─見る角度を変えてみると…。

2009-11-14 | ■美術/博物
福田繁雄の立体作品でよく目にするのが、正面から見た形と横から見た形がそれぞれ違っているというのがあります。



福田繁雄デザイン館のある二戸シビックセンター、入口を入ってすぐの1階ロビーに、さっそく彼のそんな作品が目に飛び込んできます。「鳥獣戯画」と「東西交鶏好(とうざいコケーコ)」。前者は、カエルとウサギ、後者は鶏と尾長鶏の組み合わせ。一粒で二度おいしい。カエルを見てウサギを見る。ウサギを見てカエルを見る。カエルを見て…。

展示室にももちろんいろいろな作品がありました。「Mr.KINJIRO NINOMIYA」は、「勤勉」のシンボル、二宮金次郎(二宮尊徳)像を描きながら、横から見ると、金次郎少年がなんと逆さまになっているという仕掛け。まったく、その着想には度肝を抜かれます。逆さまにして「勤勉」を皮肉っているわけではもちろんなくて、逆さまにされても金次郎少年はきっと勉強を忘れない、ってなメッセージかも…。…違うか。

逆さまといえば、逆さまの「招き猫」もありました。正面から見たら普通の招き猫なのですが、横から見ると、そこに逆さまの招き猫が…! 全然違和感なく、側面にへばりついていました。逆さまにしてみる、というのも福田氏は大好きなのです。しかも、逆さまにしたモノを、本来の姿と必ず組み合わせてみるところが楽しい。

カゴメ?の宣伝用として制作されたという、フォークと少女の「二面性」も。スパゲティを食べるフォークの連なりを、横から見ると少女の姿が浮かび上がってくる。こういう作品をつくるには、きっと細心の注意が必要なのでしょうね。両方のイメージを頭に描きながらつくりあげていく、というのは、私なんかにはとてもできない芸当です。

視点を変えて見る、という意味では、目の前にある「モノ」ではなく、それらがつくる「影」に注目させるという試みにも興味をそそられました。



たとえば、この《ランチはヘルメットをかぶって…》(1987)という作品。ナイフ、フォーク、スプーンが雑然と積み上げられている(その数848本!)。薄暗い空間にぽつねんと置かれた、これはいったい何なんだろう?と思ってキャプションを読むと、レバーを上げ下げしてみてください、とある。そのとおりレバーを上げてみると、なんとなんと、手前の床の白い部分に、オートバイの影が浮かび上がってくるではありませんか。

レバーは、照明を操作するものだったのです。つまり、手前からナイフやスプーンの山をぼんやり照らしていた照明が消え、斜め後ろにしつらえられた照明が点灯する。すると、それまで見えなかった「実像」が見えてくるという仕掛け。

目の前にあるモノはただのナイフとフォークとスプーンの「かたまり」でしかなく、何の意味も持たない。本当に見せたいモノは、「影」にあった。そのことがわかってみると、目の前の「虚像」をじっくり見たくなる。どの部分がどの影をつくっているのか…。だけど、やっぱり「虚像」からは実像の姿は見えてこないのです。

このパターン、福田氏はほかにもいろいろ制作していて、《ボンジュール・マドモアゼル》という一連の作品もある。ボトルやグラス、ワインオープナーなどが積み上げらたオブジェ。その影が貴婦人の姿をつくり出す。まるで想像がつかない世界が広がります。



想像がつかない世界はまだまだありました。福田繁雄デザイン館のある2階から外を眺めると、一つの「顔」が見えます。二戸が生んだ地球物理学者、田中舘愛橘の顔です。



庭に数本の柱が立っているのですが、その柱をある角度から見ると、その瞬間だけ「顔」が出現するのです。計算し尽くされた角度。ちょっとでもずれたら、決して「顔」は見えません。



福田繁雄の、大胆なようで実は繊細な遊び心が、私はたまらなく好きです。


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