shinyaぐだぐだ日記

shinyaの一方的な妄想と語りの部屋です(-_-;)

「甘えん坊なカオル1」

2009-06-01 21:32:08 | 二次創作
珍しく、カオルが熱を出した。しかし彼の恐ろしい所は熱を出しても表情が全く変わらないと言う部分にある。だが更に恐ろしいのは、彼がそう言う怪我や体調の悪さを隠すと言う所にある。

大切な者の前では、尚更―――




「カオル、何でそんなに眠ってるの?大丈夫?」

ルナがカオルの異変に気付いたのは、机の上にずっと頭を伏せていたカオルを二度目に怒った後だった。いつもの彼と怒った後の眼の感じの調子が違う。どこか眠気とは違う何かを感じた。

少々怪訝に思い、声をかけてみたら存外にカオルはすぐさま起き上がり、微笑んでルナを見つめ返した。

「大丈夫だ、ちょっと眠かったんだ・・・朝飯も結構食べたしな。消化してるんだろ。授業も社会でただでさえつまらなかったしな。」

「本当?・・・でも今日は何か寝すぎじゃない?熱でもあるの?」

冗談半分にそう言って、ルナはカオルの額に手を伸ばそうとした。だが内心ハッとしたカオルはルナの手が額に触れる前に避けるように手で掴む。

「!」

思わぬカオルの行動に、ルナは少し驚いて目を瞬かせた。けれど、いつもと変わらぬ微笑をカオルは浮かべていて。

「・・・・大丈夫だ、心配するな。」

そう言った表情が、あんまりにも普段と変わらないから。胸の内に何か漠然とした違和感を抱えながらもルナは微笑んで、頷いた。

「そう。でも、あんまり寝ちゃ駄目よ?さっきの時間、山口先生ずっと貴方の事を見てたんだから。」

「ああ・・・・・そうだろうなとは、思った。俺はあの先公からもあまりよく思われていないからな。あいつの授業アンケートを、いつも白紙で出しているのもあるだろうが。」

「もーっ!!そんな事ばっかりするから先生達に疎遠にされちゃうのよ!!どうするの、三年生になったら!!折角頭が良いのに、大学の推薦貰えないわよ?」

「大学になんて行く気はない。」

「またそればっかり!」

呆れてルナが唇を尖らせた時、ぽんぽんと後ろから彼女の肩を誰かが叩く。振り返った先には、鞄を持ったシャアラがいた。

「ルナ、それにカオルも。次体育よ?解ってる??もう殆ど皆が更衣室に行っちゃったんだけど・・・・今日は男女合同で体育館でバスケだし。」

「ええ~~~!!??そうだったっけ!?いっけない、急がなきゃ!!」

焦ったルナは鞄を乱暴に掴んで、シャアラと共に駆け出した。教室の扉を閉める時
微かにカオルの方へと振り返る。眉間を押さえ、どこか顔を伏せたカオルを怪訝に思う心の余裕は焦っていたルナには偶然、無かった。

いつもなら、すぐに気付くのに。

どうせまた眠いのだろうと焦っていたが故に短絡的に答えを出してしまっていた。少し眉を上げカオルに大きな声をかける。

「カオル!!ちゃんと着替えて体育に出るのよ!?貴方の事、みんな待ってるんだからね!」

「・・・・・・・・ああ、解ってる。」

微笑んで軽く手を上げ、了解した、と言う風に頷いたカオルの横顔をチラリと視認したルナはシャアラと一緒に更衣室へと駆け出した。

酷い咳の音は、廊下にパタパタと反響する上履きの音で彼女の耳にとどく事は無かった。




―――――――――――



「遅い!!一之瀬!お前、何をやっていたんだ!?」

若手熱血体育教師――森田慶次郎がチャイムが鳴った5分後に悠々とポケットに片手を突っ込んでやってきたカオルに対して怒号を上げた。総シカトをして何でも無い風に列に並ぼうとする彼に、森田の青筋が更に太くなる。

「貴様~~~!!!この俺を無視する気か、一之瀬!!」

「うるさい・・・頭に響く・・・静かにしろ。」

くすくすと男子が含み笑いを浮かべている横で、鋭い視線を感じたカオルは自分を見つめる女子の中にいる大層美人な恋人の細められた青い瞳を見つけた。苦笑して、悪い、と手を微かに上げる。

しかし恋人は御機嫌斜めなようで、自分のジェスチャーに反応すること無くぷいっと顔を逸らした。内心少しガーンとしたカオルだが、それよりも頭にピシッと走った鈍痛で少し瞳を細める。

「!!」

ぐらりと、一瞬熱を持った視界が揺らいだ気がした。驚愕し目を瞬かせ平衡感覚を確認する。

その横でギャーギャーと喚く教師を見事にシカトしながら、瞳を細め込み上げてくる咳を堪えていた。

ルナに、余計な心配や迷惑はかけたくない―――その一心だった。

「ええい!さっさと授業を始めるぞ!!今日するスポーツは、バスケットボール!皆身体はもう動かしたから、早速実践にはいる!スポーツは何でも実践が大事だ!!」

そう言い、教師は出席番号順に適当な幾つかの班を分けて行く。出来たチームごとに分かれて簡単なパスやレイアップシュート練習を行いつつ数十分してゲームに入った。

ゼッケンを着たカオルに、後ろから金髪の陽気な親友――ハワードが声をかける。

「カオル~~!!授業に余裕の社長出勤するのは良いけど、ルナがいるって解ってる時にまですんなよな~!?おかげで折角格好良いところが見せれるってのに不機嫌な恋人は、さっきからお前の方を見てもくれてないぜ?」

「ああ・・・運が悪かったな。今日は男女一緒だと言うことを・・・・っ!」

話している最中、思わず激しくカオルは咳き込んだ。ハワードは怪訝な表情を浮かべ中々咳が止まらないカオルを心配そうに見つめる。

「・・・おい、大丈夫か、お前・・・それ風邪じゃないのか?」

「いや・・・すまない、何か喉が気持ち悪かっただけだ。心配するな、風邪なんかじゃない。」

ようやっと咳が止まったカオルは苦笑してハワードの肩にポンと手を置くと手を振って笑いながら名前を呼び掛けてくれるクラスメイトの所に走って行った。

ハワードは不思議顔で、その背中を見つめていた。

一方ルナは、二面あるコートの一面でパス練習をしながらも注意したにも関わらず余裕の遅刻を披露してくれた恋人に怒り心頭だった。しかも、先生に謝りもせず、さも当然のように列に並んだ事も彼女の怒りを助長させた。

・・・もーっ!!!カオルはいつも目上の人に対する態度がなってないんだから!!あれほど言ってるのに、どうして言うこと聞いてくれないのかしら!

だが事実を言えば、中々咳が止まらず、更に熱が高くなっていたカオルは眩暈さえ起こすようになっていてフラフラ状態になっていた為。更衣室に向かうのが遅れたのだが、何も言わない彼の内情などルナが知る訳がない。

目を見て話ていないのだから、彼女がいくらカオルの事を理解しているとは言えそこまで把握するのは対人関係に於いて不可能だ。

「ル、ルナ~!もうちょっとパス弱くしてくれない~?」

胸中でかなりブータレていたルナを現在へ引き戻す、雅の声が聞こえる。ハッとした彼女は苦笑して「解った~!ごめんね、雅!」と、笑顔で返したのだが。

いつの間にか自然と強くなるルナのパスに、雅が掌を紅くしていたのは、彼女は知らない。

そして、横の男子が使っているコートでゲームが始まった。ジャンプボールを飛ぶのは芸能科の男子と、なんとカオル。

勝ったのは、カオルだった。

女子が、いつの間にか練習を止め皆立ち尽くして観戦する中進学科のエースはやはりカオル、で。ターンオーバー(パスカットからの速攻)からのリングにとどきそうな程の鮮やかなレイアップシュートや、ドライブからのジャンプショットを華麗に放つ彼に、黄色い声援が上がるのは必然だ。

空中で踊る様なプレイ。エア・ジョーダンのような滞空時間の長さ。

「ルナの彼氏、本当に格好良すぎるんだから~!!少しはうちのにも分けてほしいんだけど!」

「そーそー!もう顔だけでも充分だって!」

後ろからルナの背中に友人たちが声をかける。苦笑しつつ謙遜して否定の言葉を紡ぎながらも、ルナ自身そんなカオルの勇姿に頬を染めていた。けれど気のせいだろうか―――?いつもの彼と違う気がする。ふらふらしているような、気がする。

・・・・・カオル??

彼が10本目のシュートを決め、圧勝している進学科男子が湧き上がった。

が、しかし。

・・・・熱が上がっているな・・・・

カオルは段々と眩暈が酷くなる自分に気付き始めていた。足が縺れそうになってスピードを落として抑制するが効果は徐々に薄れて行く。


そして。


試合終了のブザーが鳴り響き、コートから出て座っていたクラスメイトの椅子に座ろうとした瞬間。

足から力が抜ける。そのまま、物凄い音を立てて気付けば椅子に倒れて突っ込んでいた自分がいた。目を瞬かせ、椅子から立ち上がるが眩暈が酷く膝をついたまま立ち上がれない。

皆が唖然とし、静まり返っていた。だが瞬時にそんな事態に対応すべく鍛えられている体育教師:森田が顔を片手で覆って膝をついているカオルに駆け寄った。

「一之瀬!!大丈夫か!?」

けれど彼は極限状態にある。ただでさえあまり気に入らない教師に触れられるのはプライドも且つ失礼ながら生理的にも我慢ならない物があった。また生い立ち故に彼は大人を信用していない。

手を、弾く。

「止めろ・・・俺に触るな。大した事は無い・・・。」

無理矢理立ち上がり、何でも無い風に言葉を返しカオルは体育館の隅にある扉から風を浴びようと外に出ようとした。

けれど、阻むように眼前にすっと立つ人物。優しく頬の触れる手。

「駄目。一緒に帰りましょう。酷い熱・・・気付いてあげられなくてごめんね。」

そう言い現れたのは愛しい恋人――ルナだった。少し運動の後故か、風邪のせいなのか呼吸が乱れたカオルはルナの言葉に首を振る。

「大した事は無い・・・お前が気にする程度のものじゃないんだ・・・放っておいたら治る。お前は女子の場所に戻ってろ。」

彼がこんな突き放すような言葉を放ったのは、ルナ優しく揺れる青い瞳に陰りが生まれたせいでもある。そんな顔をさせない為に黙っておいたのに、これでは全ての努力が水の泡と消える。

そんな不甲斐ない事だけは嫌だった。

けれど、ルナは首を振りカオルの少し熱のせいで染まった頬を両手で包む。その温かい体温に気付けば癒されている彼がいた。

「我儘言わないの・・・そんなに気を遣わなくて良いのよ。辛い時は辛いって言ってくれた方が嬉しいわ。ほら、大人しく来て。帰るわよ。」

彼女の声を聞けば、カオルは自然と素直な気持ちになる。視線を逸らしつつも、彼は何も言わない。

そんなカオルの反応に、ルナは込み上げる愛しさが生まれる。青い瞳に深い慈愛が溢れ微笑んだ彼女はそっと優しく数回熱っぽいカオルの頬を労わる様に撫でた。

そのまま、後ろで呆然としている教師の下に少し歩み寄る。

「先生、すみません。一之瀬君、酷く熱があるみたいです・・・彼は一人暮らしなので、私が友人として家に付き添います。今日は早退させて下さい。」

そう言いルナは丁寧に頭を下げ、教師の舌ったらずな返答に微笑んで頷きカオルの手を取った。

「帰るわよ、カオル。」

手を繋いで。息を多少切らせ、時折咳こみながらもカオルはルナの手を握っていた。時々心配そうに振り返って、少し溜息を吐き心配してくれるルナがとても尊く感じた。

「・・・・・・・・・・・・・。」


熱とは関係無しに、カオルはいつの間にか頬を朱色に染めていた。安らぎ過ぎて家に向かうタクシーの中、ルナに冷やされたハンカチを額に置いて膝枕をしてもらうだけで言いようのない幸福な感情が心を満たしては溢れていた。


(続く)


長っ・・・!!いつか頂いた感想の中にカオルは風邪引かないんですかと言うものがあったので今回は・・・日記でカオル風邪をひくの、巻(笑)