杉並からの情報発信です

政治、経済、金融、教育、社会問題、国際情勢など、日々変化する様々な問題を取り上げて発信したいと思います。

《注目意見》 「CDS」は完全に禁止せよ GMの破綻を招いた金融派生商品   ジョージ・ソロス

2009年07月01日 19時16分59秒 | 政治・社会
■ 「CDS」は完全に禁止せよ GMの破綻を招いた金融派生商品

ジョージ・ソロス(ソロス・ファンド・マネジメント会長)

2009年6月29日 日経ビジネスon Line 特別寄稿(ジョージ・ソロス氏)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090625/198565/?P=1

ジョージ・ソロス氏 1930年ハンガリー生まれ。52年英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス卒。商業銀行勤務を経て、56年米国に移る。非営利の情報発信集団「プロジェクト・シンジケート」を設立。140カ国以上の約400紙誌に配信する


昨年、世界は驚くべき事態を経験した。9月に米リーマン・ブラザーズが破綻すると、金融市場は事実上崩壊し、人為的な生命維持装置を装着しなければならなくなった。このようなことは1930年代の大恐慌以来だ。

今回の市場崩壊が特に注目に値するのは、それが外的要因ではなく、金融システムそのものによって引き起こされ、それが世界経済全体に波及したことだ。一般的に金融市場には自己修正する機能があると考えられており、これは完全に想定外だった。

今回のことで、市場に自己修正する機能がないことは明らかになった。だからといって、行き過ぎた規制緩和の反動で、過剰反応したくなる気持ちは抑えなければならない。市場は不完全だが、規制当局も官僚的で政治的な影響を受けやすい人間の集まりに過ぎない。新たな規制は最小限にとどめるべきなのだ。

金融改革へ3つの原則

金融規制改革を進めるうえでは、3つの基本原則を尊重すべきだろう。まず最も重要なのは、金融規制当局が資産バブルの肥大を防ぐ役割をきちんと果たすことである。米連邦準備理事会(FRB)元議長のアラン・グリーンスパン氏らは、市場がバブルを認識できないのなら、規制当局にも不可能だと主張してきた。そうだとしても、金融当局はバブルを防ぐ努力をしなければならない。結果はうまくいかないとしても、市場からのフィードバックによって政策が行き過ぎか不十分かは分かるはずだ。それに応じて修正すればいい。

次に、資産バブルをコントロールするには、マネーサプライ(通貨供給量)に加えて、信用供与も管理する必要がある。最もよく知られた手段として、委託保証金比率や最低自己資本比率を規制する方法がある。不動産バブルを防止する策として、規制当局は商業用と居住用不動産で融資比率を変えることもできる。

さらに規制当局は、従来型の規制手段を復活させる必要があるかもしれない。例えば中央銀行が民間銀行に対して、不動産や消費者金融といった過熱する懸念のある特定のセクターへの融資を規制していた時代には、金融危機は起こらなかった。中国は今でもこうした措置を実施しているほか、民間銀行が中央銀行に預けるべき最低預金額も定めている。

グリーンスパン氏が早々とバブルだと認識していたにもかかわらず、全く対応を取らなかったIT(情報技術)バブルの時はどうだったか。彼が対応手段としてマネーサプライの引き締めでは乱暴過ぎると考えたのは正しい。だが株式を使ったレバレッジの拡大がバブルに拍車をかけていたことを考えれば、証券取引委員会(SEC)に新株発行の禁止を求めるといった、より的を絞った対策を実施できたはずだ。

この点について言えば、ITバブルは特異な例だった。通常、レバレッジの本となるのは信用であり、信用には本来「再帰性」がある。すなわち資金を貸す側の意欲が増大すると、担保価値の増大を招き、それにより借り手の履行能力も高まる。その結果、与信の基準が緩和されることになる。特に不動産市場でバブルが繰り返し起こるのは、こうした与信が与信を生む「再帰性」が毎回看過されるためだ。

ここから3番目の原則が導き出される。市場リスクの概念を考え直さなければならないという点だ。これまでの理論によると、市場は価格の連続性を維持したまま、均衡点に向かって動くとされ、そこからの逸脱は稀にしか起こらないと考えられてきた。結果的に市場リスクは個々の市場参加者が抱えるリスクと一致することになる。彼らが適切にリスクを管理する限り、規制当局は安心、というわけだ。

個々の参加者が自らのポジションを第三者に売り渡すことができる場合、市場に不均衡が生じてもそれを無視する可能性がある。だが規制当局がこうした不均衡に目をつぶることは許されない。あまりにも多くの市場参加者が、同じポジションを持ってしまうと、価格の断絶、最悪の場合には金融市場の崩壊を引き起こさずにはポジションの清算ができなくなってしまうからだ。

崩壊の主因だった証券化

市場にはこのようなシステミック・リスクが存在する。今回、崩壊の主因となったのは、銀行による野放図な資産の証券化だった。

再発を防ぐには、銀行が保有する証券について、今よりはるかにリスクの高いものとして格付けを見直す必要がある。また、銀行は政府保証と引き換えに、レバレッジ比率を引き下げ、預金者から預かった資金の投資方法についても制限を受けるべきだ。

少なくとも、銀行の自己勘定による取引は、銀行自身の自己資本の範囲内とすべきだ。巨大過ぎて潰せないような銀行の場合、規制当局はさらに踏み込んで、自己勘定取引を担当する者の報酬制度が、確実にリスクとリターンを適切に反映しているかどうか、チェックすべきだ。ヘッジファンドやその他の大口投資家も、危険な不均衡を生み出さないように厳しく監視すべきだ。

さらにデリバティブ(金融派生商品=株式などの原資産から派生した金融商品。先物やオプション、スワップなど。投資額の数十倍の取引ができるレバレッジ効果がある。世界の店頭デリバティブ取引の規模は2008年で684兆ドル)の発行と取引には、少なくとも株式と同程度の厳格な規制が必要だ。

規制当局は取引されるデリバティブの標準化や透明性を強く求めるべきだ。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ=リスクを転嫁するデリバティブ取引の一種。債権を持つ金融機関からプレミアムを受け取り、債務不履行が起こった時に損害額を保証する。想定元本は2008年に57兆ドルまで拡大した)など一部のデリバティブ取引は完全に禁止すべきだ。

株式市場でのロング(買い)とショート(売り)のポジションには、リスクとリターンの非対称性がある。買いポジションで読みが外れると、時価の元本(エクスポージャー)が減るため、リスクも減少する。これに対し、売りポジションで負けると、リスクはさらに増大する。買いポジションで読みが外れた方が、売りポジションで外れた場合より辛抱できるのは、このためだ。

ところがCDSは、債券で売りポジションを取るのに便利な手法だが、リスクとリターンの非対称性は逆方向に作用する。CDS契約を買って債券を売り立てると、リスクが制限される一方、潜在的なリターンはほぼ無限大になる。一方、CDS契約を売ると、利益は制限される一方、実質的に無限のリスクを抱えることになる。この結果、CDSを買って債券を売る投機が盛んになる。これは取引の裏づけとなる債券の価格に下方圧力をかける。

CDS投資は値上がり期待

CDS契約は、デフォルト(債務不履行)が発生するまで清算できないわけではなく、いつでも売却可能になっている。こうした自由に売買できる CDS契約によって、価格変動の影響は増幅される。投資家がCDS契約を購入するのは、実際にデフォルトが起こると予想するからではなく、事態が悪い方向に進展し、CDSが値上がりすると見ているためだ。

これこそ米AIGに大打撃を与えたものの正体であり、米ゼネラル・モーターズ(GM)の破綻を招いた原因だ。社債とともにCDS契約も保有していた一部の債権者が、経営再建より破産した方が得になると判断したわけだ。

CDS契約を購入するのは、他人の命を対象とする生命保険に入り、その生殺与奪の権を握るようなものだ。誰もそのような権利を握ることがないようにするのが、規制当局の務めである。

(終わり)



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 《注目記事》 ホンジュラスの... | トップ | 《注目意見》 テレ朝サンプロ... »
最新の画像もっと見る

政治・社会」カテゴリの最新記事