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「超簡単お金の運用術」

 友達と明け方近くまで楽しく飲んで、昼過ぎに目覚めたら、朝日新書の見本が届いていた。
 11月27日が校了で、今回はほぼぎりぎりまで原稿を書いていたので、ずいぶん早く本になった気がする。見本が出来たのは昨日(12月4日)だが、書店への配本は12月10日、発売は12月12日だ。
 私は、自著や講演をブログではあまり紹介しないが(宣伝に関しては、これまであまりマメでない著者だった。編集者には少し申し訳なかった)、この本は、このブログで書いた簡単な運用法がベースになっているので、読者へのお礼かたがたご紹介する。
 内容は内外2つ(ないし3つ)のETFと個人向け国債・MRFを使った「無難な」運用法を紹介して、これを詳しく解説したものだ。

 以下に前書きを掲載する。

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はじめに 「生涯最大級のチャンスを生かすシンプルな運用術」

 個人のお金の運用について、前置きからではなく、結論から先に述べる本を書いてみたい。これが本書執筆の動機だ。
 著者は、仕事柄、お金の運用のやり方について他人に説明することが多い。この際に、多くの人が、理由や考え方ではなく、具体的な方法(たとえば投資すべき銘柄)を早く知りたがることに気が付いた。
 投資家の事情には好みも含めて大きな個人差があるし、株式市場や外国為替市場など市場の環境も変化するので、本当は、「なぜ、そうするのか」という考え方を理解した上で、その一例として具体的な運用方法を理解して欲しいのだが、聞き手が「早く結論を言え」という気分になる理由も分からなくはない。多くの人にとって、お金の運用は、仕事でも趣味でもないのだ。
 そこで本書では、第一章でいきなり具体的なお金の運用方法をご紹介することにした。多くの人にとって「ほぼこれでいいだろう」という簡単な方法だ。もちろん、投資対象についても具体的な商品名も、配分比率も書いてある。
 運用が仕事でも趣味でもない「普通の人」にとっては、厳密にベストだが実行が面倒な運用方法や、考えなければ浮かんでこないような「好み」に合わせた選択肢を多数提供されるよりは、「ほぼ効率的で」、「自分が損をしない」、「無難な」方法を一つ知っていれば、実用上は、それで十分ではないだろうか。
 理由はどうでもいいから、結論だけを知りたいという人は、共に第一章の、40ページにある「超簡単お金の運用術 その2 リスク調整可能型」の周辺と、50ページ以下の「<重要な補足>運用対象の変更可能性」の項目を数ページだけ読んでいただけると、答えが書いてある。
 原則として余裕資金を全て内外の株式市場に投資する「超簡単お金の運用法 基本型」と、リスクを取りたくないお金の扱い方も含めた「超簡単お金の運用法 リスク調整可能型」の二つを紹介した。読者の多くにとってしっくり来るのは、たぶん「リスク調整可能型」の方だろうが、一見乱暴な感じがする「基本型」についても、「これで何か不都合があるだろうか」とご自分の状況に当てはめて想像力を働かせてみて欲しい。その方が、運用における「リスク」について、具体的な意味が分かる。
 答えが書いてあっても、なぜその答えでいいのかを知りたいのが人情だろう。
 第二章では、個人の「人的資本」や「ライアビリティ」など、超簡単運用法の背景にある概念や、運用商品の評価と選択の方法、投資ウェイトの決定根拠、株価の割高割安の評価方法などについて説明している。また、お金の運用に関連して、生命保険や確定拠出年金(年金も保険の一種だ)など、保険に対する考え方と扱い方にも触れておいた。
 第三章は「お金のあれこれ簡単レクチャー」と称して、お金の運用に関係するトピックを一〇個ほど取り上げて解説した。銀行の使い方から、持ち家と賃貸の損得判断、外国為替、日本の財政赤字に絡むパニック論の真偽、ギャンブルとの付き合い方など、広い範囲のテーマを取り上げた。第一章、第二章との内容的な重複もあるが、個々の項目は独立しているので、ご興味のあるところを拾い読みしていただいてもいい。
 世の中には顧客にとって損な金融商品やサービスがあふれているし、こうしたビジネスを営む人々のセールスの手口は、大方の想像以上に巧みだ。「自己責任」で判断するはずの顧客(読者のことだ)の心の揺れもまた想像以上に大きい。第三章は、読者が、お金の運用で「しまったー」と後悔しないための精神的ワクチンを目的としている。時々苦い部分もあるかも知れないが、甘口の味付けにしたので、気軽に読んで欲しい。

 それにしても、世の中には、どうしてこんなに多くの金融商品があるのだろうか。第二章で説明するが、これらの大半は顧客にとってはじめから検討に値しない不要なものだ。不要なのにこれらが存在する理由は、顧客にとって不要であるがゆえに、売り手にとっては利益率が高くて、ビジネスとして儲かるからだろう。
 こうした顧客にとって不利な商品の販売を後押ししているのが、金融ビジネス側にに好都合なバイアスの掛かった、歪んだ情報提供だ。
 たとえば、インデックス型の投資信託から入門してなぜかアクティブ型の投資信託に「チャレンジ」する手順になっていたり、自分が買った株式などの価格が一定割合下落したら自動的に損切りすべし(下落の理由を考えて、あくまでもその時点の価格に対して判断をするのが正しい)といっていたり、というような、合理性を欠く内容を、厚かましくも「金融リテラシー」などと呼んで恥じない者もいれば、FX(外国為替証拠金取引)で通常の外貨預金の何倍もリスクを取った方法を、さも安定的な運用であるかのように紹介する人もいる。
 これらの、いわば「カモ(誤解した顧客)を育てるための金融リテラシー」の提供者たちは、根本的には「十分に考えていない」ということなのだろうが、それだけでもない。運用の情報提供がもっぱら運用商品・サービスの売り手側から行われていることと(アメリカ流の投資教育にも多くの間違いがある)、彼ら(彼女ら)のビジネス上の立場とが影響しているのだろう。
 投資教育の重要性が強調されて久しいが、投資教育を普及させようとする大きなインセンティブが金融機関の利益以外に存在しないのが現状だ。
 本書は、偽の金融リテラシーに対する著者のささやかな批判の書でもある。

 さて、本書の執筆時点にあって、アメリカの「サブプライム問題」から発生した「金融危機」が世界中に猛威をふるっている。内外の株価は大きく下落し、且つ不安定な動きを続けているし、金融的な混乱が、本格的に実物経済に影響しつつある。二〇〇九年の世界経済の展望は明るくない。
 第二章でも触れたが、著者は、今回の問題は、アメリカの不動産をはじめとする各種資産という大物を対象としているだけに規模こそ大きいが、景気循環の一局面であり、根本は循環的な問題だと考えている。典型的なバブルの崩壊過程に過ぎない。問題解決の方法はあるし、内外の景気も株価もいずれは回復するはずだ(多くの場合、株価が先だが)。
 株価がどこまで下がって、いつ回復するのか、著者には分からない。しかし、現在が、バブルの崩壊を伴う循環的な景気の下降局面であり、かつ、それが大規模なものなのだとすると、現在、あるいはごく近い将来が、株式による資産形成にとって絶好の時期である公算は大きい。

 あれやこれやにうるさいことを言う著者も証券マンの端くれだ。一言ぐらいは、勇ましいことを言ってみたいので、許して欲しい。
 われわれは、現在、生涯最大級のチャンスに直面している可能性がある! 本書が読者の資産形成と快適な人生に少しでもお役に立てば幸いだ。

            二〇〇八年一一月吉日
                              山崎 元

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 朝日新書はデザイン上、表紙よりも帯が目立つ。帯は、この本の編集者である友澤和子さんによるものだ。彼女は「週刊朝日」で私が人生相談の連載を持っていたときの担当者であり、帯に使われている写真は、人生相談の連載で使っていたものだ。


<拙著正誤表>
●p82、10行目の「低い」は「高い」の誤りです(5刷り目から訂正予定)。この訂正は、<虫取り小僧>さんのコメントでのご指摘によるものです。
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