山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座142

2019-11-17 18:47:06 | 観天望気

~エクアドルの気象と空partⅡ~

前回に続き、エクアドルで見られた雲についての解説です。

キトからしばらく南下すると、低い雲に覆われてきました(写真1)。層積雲(そうせきうん、別名うね雲)が上空を覆っているためです。

写真1 層積雲に覆われた空

層積雲は、地面から1~2km上空にできる雲で、その高度に冷たい空気が入ることと、地面付近に湿った空気(ジメジメ君)が入ってくることでできる雲です。もう少し詳しく説明すると、

1.地面付近にジメジメ君(partⅠのようにちょいジメ君でも良い)が入ってくる

2.上空1~2kmに冷たい空気が入る

 

3.水蒸気が冷やされて雲が発生

 

4.地面付近と上空1~2kmの狭い範囲で温度差が大きくなることで対流が発生

5.上昇気流が起きる所で層積雲ができ、下降気流が起きるところで雲に隙間ができる

 

今回、なぜジメジメ君が入ってきたかを地図から考えてみましょう。この写真を撮ったのは、図1の中で写真①層積雲と書かれている所です。この場所の東側にはアンデス山脈がありますが、アンティサナという高い山の南側にはあまり高い山がなく、アマゾン側からのジメジメ君が入りやすくなっています。特に、大きな谷に沿ってジメジメ君が入ってくる撮影場所の辺りでは、ジメジメ君が多くなっている場所です。また、盆地のため、ジメジメ君が溜まりやすい場所でもあります。

図1 キト周辺からチンボラッソ付近の地図

さて、車は盆地の西側にあるアンデス山脈に近づきました。すると山の奥の方(西側)に青空が見えてきました。このようなとき、山の奥側は晴れています。

写真2 層積雲に覆われた盆地の向こうに青空が見える。

実際に車が峠を越えると青空が一面に広がりました!

写真3 山を越えて流れ出す雲

写真3は、画像の左側が東の方向、右側が西になります。これをご覧いただくと、東側からの湿った空気が山を越えるときに上昇してできた雲が山の反対側(西側)に流れ出しているのが分かります。ここは山の連なりの中でも低い場所になっているため、山で湿った空気が堰き止められずに流れ出しているのです。

流れ出した雲は下降しながら蒸発していきます。また、右側(西側)の乾いた空気が雲の上を上昇し、左側から流れ出てくる雲を蒸発させています。このため、山の西側では晴れているのです。

この写真を撮影した場所は、図1の写真③と書いてある所です。ここは小さな山脈があり、山の両側での天気の違いが良く分かる場所です。山の西側にあるキトロア湖の上空は見事な青空でした(写真4)。

写真4 青空が広がるキトロア湖

さて、次はいよいよ登山中に見られた雲です。どんだけ待たせんだい(笑)。

コトパクシの登山日は星空が広がる絶好の登頂日和。昼過ぎまでは麓の山小屋でも晴れてました。一方、アマゾン側の山麓では朝からジメジメ君が溜まっていて、それによる雲が出てました(写真5)。

写真5 山頂からアマゾン側の雲海を見下ろす

日中は、次第にアマゾン側からジメジメ君が押し寄せてきました。雲を見るとジメジメ君と乾いた空気との戦いが良く分かりますね(写真6)。

写真6 ジメジメ君とサラサラ君(乾いた空気)との戦い

ただし、この雲は標高5,000m付近の安定した層に阻まれてそれ以上、上昇はできませんでした。そのため、山頂付近では終日、お天気が良かったです。乾季の時期はこのパターンが多いですが、雨季になると大気が不安定となり、安定した層が日中は消失しますので、雲はぐんぐん成長して(やる気を出して)山頂まで覆い、雪を降らせることになります。

午後になると、日射の影響で下流側から上流側へと吹く谷風(たにかぜ)が強まります。このため、谷風(観天望気講座98 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/65ff7031ab34f28cac97b35fe03dff08)に乗ってジメジメ君がアマゾン側から入ってきます。これが、写真6の雲です。そのため、標高4,500m付近の駐車場では、雲に覆われてにわか雨が降りました。

チンボラッソの登山でも似たような天気となりました。朝は快晴、日中はアマゾン側から雲が侵入してきます。この雲は安定層に抑えられて高度が一定なのも同じですね。乾季の典型的な天気変化です。

写真7 アマゾン側から侵入する雲

エクアドルの空は、アンデス側のジメジメ君と太平洋側のサラサラ君の戦いでした。雲がこの戦いをダイナミックに表現しているのを見るのは楽しかったです。

エクアドルの空と山に感謝!グラシアス!!

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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飛行機から見る飛行機雲と雲海

2019-11-17 18:46:33 | 観天望気

飛行機から見る飛行機雲と雲海

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猪熊隆之の観天望気講座141

2019-11-16 18:47:21 | 観天望気

~エクアドルの気象と空partⅠ~

先日、エクアドルで登山する機会がありました。今回は、そのとき見られた雲についての解説です。

Ⅰ.エクアドルの場所

エクアドルといってもどこにあるか分からない方もいらっしゃると思うのでまずは場所から。エクアドルはスペイン語で「赤道」を意味する言葉。その名のごとく、赤道直下の国です。南アメリカ大陸の北部に位置し、太平洋に面しています。つまり、日本とは太平洋でつながっているんです!

図1 エクアドルの位置

Ⅱ.エクアドルの気候

赤道直下の国だから「さぞ暑いのだろう。」と思いますが、首都キトではそんなことはありません。国の中央をアンデス山脈が南北に走っているので、エクアドルはひとつの国土に、熱帯から寒帯までの気候を持つ、変化に富んだ国です。それでは、エクアドルの気候区分を見ていきましょう。

図2 エクアドルの気候区分

 

1.常春の温帯地域

エクアドルの中央を2本のアンデス山脈が走っています。その間は標高2,000m以上の高原地帯になっており、インカ帝国が栄えた地域でもあります。このエリアには、首都のキトやアンバトなど主要都市も多く存在しています。赤道直下にありながらも標高が高いので、常に春のような気候です。年間を通じて気温の変化は少ないものの、朝晩と日中の気温差は大きく、雨季と乾季もはっきりと分かれています。北に行くほど乾季の期間が短い湿潤な気候で、南に行くほど乾季の期間が長く、乾燥していきます。アンデス山脈の中に火山が数多くあり、標高4,000mを越える地点はもっとも温かい月でも10℃以下となる高山気候やツンドラ気候となり、標高5,000mを越えると氷河が出てきます。

2.暑くて湿潤なアマゾン地域

アンデス山脈の東側は、年間を通じて気温が高く、雨量も多い熱帯湿潤気候です。背の高い、熱帯雨林のジャyングルに覆われています。未開地域もあり、少数民族が居住しています。昔ながらの伝統や習慣を守っている部族もいます。今回の解説で、沢山出てくる「ジメジメ君」の故郷です。

3.太平洋沿岸地域

太平洋の沿岸部は年間を通じて気温が高く、雨季と乾季がはっきりと分かれるサバナ気候です。北に行くほど乾季が短く湿潤で南に行くほど乾季が長く、乾燥していきます。これは、北部にいくほど暖流のパナマ海流の影響を受ける期間が長く、南部ほど寒流のペルー海流の影響を受ける期間が長いからです。パナマ海流は暖流で暖かい海流のため、海水からの蒸発量が多く、雲ができやすいのに対し、ペルー海流は南極から運ばれてきた寒流であるため、赤道に近くても水温は低く、海面近くが冷やされて高気圧ができやすいことや、蒸発する水蒸気量が少ないので、雲ができにくくなります(図3参照)。

図3 海流が気象に与える影響

 

Ⅲ.エクアドルで見られた雲

さて、それではいよいよ登山中や移動中に見られた雲の解説です。私が行動した範囲は、常春の温暖地域と、アンデスの山岳地帯でした。赤道直下にあるエクアドルは、基本的に偏東風(貿易風)と呼ばれる、東風が吹いています。コロンブスはこの風に乗ってアメリカ大陸を発見しました。私がエクアドルに滞在した期間中、この東風が強まる期間と弱まる期間があり、それが天気に大きく影響しました。

また、アマゾン地域は年間を通じて暖かく湿った空気に覆われており、水蒸気量が多い地域です。そのため、東風が吹くと、アマゾン側からの湿った空気(ジメジメ君)が入ってきます。東風が強まると、ジメジメ君が勢いを増して天気が崩れ、弱まるときにはジメジメ君の元気がなくなり、天気が良くなることが多かったです。その辺りを写真で見ていきましょう。

1.弱い西風だった日の雲

この日は、珍しく東風ではなく、弱い西風が太平洋側から吹いてくる日でした。このため、アンデス山脈の間の常春地域では、西側の山に遮られて風が弱く、東からの湿った空気の入りにくいため、朝から良く晴れました。いつもは東側の山から雲に覆われることが多いのですが、この日は西側の山に雲が出ていました。

写真1 ゴンドラの乗り場から西方の山を見る(一番高い山はカヤンベ)

上の写真は、西の空を見たものですが、西側の山並みに添うように雲が出ていることが分かります。山の向こう側(西側)には太平洋があり、海から入ってきたやや湿った空気が、山にぶつかって上昇することでできた雲ですね。ただし、太平洋は前述の通り、寒流が流れていることもあって水蒸気量が少なく、湿っていると言ってもアマゾン側にある「ジメジメ君」ほどではないので、「ちょいジメ君」とでも呼びましょう。

写真2 ビチンチャ山の中腹から南西側を見た空

ゴンドラに乗って標高3,950mの山頂駅に到着。尾根道を登っていくと、それまで見られなかった雲が出てきました(写真2)。晴れた日に良く見られる積雲(せきうん、別名わたぐも)です。この雲は、次のようにできます。

1.山の斜面が日射で温められる

2.温まった斜面に接している空気も温められる

 

3.温まった空気は周囲の空気より軽くなるので、上昇する

4.上昇した空気が冷やされて雲ができる

したがって、周囲より温まりやすい場所の上でこの雲はできやすくなります。斜面の向きと太陽光線の位置関係が重要です。

さて、しばらく歩を進めていくと、空の様子が変わってきました。ひとつひとつの雲の塊が大きくなってきたのです。このように雲の塊が大きくなったものを層積雲(そうせきうん、別名うね雲)と呼びます。

写真3 積雲が層積雲に変わってきた空

積雲と層積雲の見分け方はちょっと難しいですが、このように雲の塊が大きくなってきたのは、上空に少し冷たい空気が入って、広い範囲で上昇気流が起き始めたことによります。

さて、ルク・ピチンチャの山頂に到着する頃は、午後1時を過ぎており、アマゾン側にも濃密な雲が広がっていました(写真4)。

写真4 アマゾン側の雲海

上の写真は、ビエンチャの山頂から南東側を見たもので、写真の奥がアマゾン側になります。アマゾン側では水蒸気が多く、ジメジメ君の存在が分かりますね。

それよりも鳥の方が気になりますよね。これはマダラコシジロカラカラという舌をかみそうな、長い名前の鳥です。エクアドルとコロンビアのアンデス山脈に生息する猛禽類です。

さて、次回はこのジメジメ君がやってきたときの雲をお伝えします。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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猪熊隆之の観天望気講座140

2019-11-15 18:47:41 | 観天望気

~笠雲(かさぐも)~

今回は、先日、八ヶ岳で見られた笠雲(かさぐも)についてお話ししたいと思います。

笠雲は、山頂付近を覆う笠の形をした雲で、レンズ雲の一種です。レンズ雲はこの観天望気講座でもたびたび取り上げられていますが、山岳波(さんがくは)によってできる雲です。山岳波は、山の地形によって空気が波を起こす現象です。下図のイラストのように、山にぶつかった風が山の斜面を乗り越えることで波を起こし、それが下流側に伝わっていくとともに、安定した層があると、上空にも伝わっていきます。

図1 笠雲やレンズ雲ができる仕組み

この波のうち、山の斜面で上昇した空気が作る雲が笠雲です。笠雲は、富士山や利尻山など独立峰で発生しやすい現象ですが、八ヶ岳など連なった山でもできることがあります。

写真1 赤岳にできた笠雲

写真2 湿った空気の流れを現す雲

写真2を見ると、写真の左手前(北西側)から雲の帯が山頂に向かって延びていることが分かります。この雲は湿った空気が流れ込んでできたもので、それが画面中に見える中岳(黒い三角形の山)から奥の赤岳にかけての尾根で上昇することによって、笠雲の形になっています(写真1、2)。それにしても、このときの雲の流れはダイナミックなものでした。この湿った空気はこの後、さらに強まって阿弥陀岳の山頂も覆いましたが(写真3)、10分程度で消えてなくなり、笠雲もそれに伴って消えていきました(写真4)。 

写真3 霧に覆われた阿弥陀岳山頂

写真4 湿った空気が弱まって雲から姿を現した赤岳

図2 笠雲が現れた時間帯の天気図(ヤマテンの専門天気図より)

今回の笠雲は、一時的に湿った空気が入ってできたものですが、それが何によるものなのか、天気図から見ていきましょう。図2は、笠雲が現れた時間の数値予報の地上気圧配置と降水予想図です。気象庁など4hPaごとに等圧線が書かれている天気図からでは、この湿った空気が何によるものかを解析することができませんが、ヤマテンの2hPaごとの天気図だと、佐渡島付近にある低気圧から延びる弱い谷(赤い破線部分)があるのが分かります。この谷で風が収束し、上昇気流が起きたことと、谷に沿って湿った空気が多くなったことが今回の笠雲ができた原因です。

「笠雲ができると雨」ということわざがあります。笠雲は風がある程度強くなり、湿った空気が上空に入ってくるときにできるので、低気圧が日本海を進んでいくとき現れることが多いからです。ただし、今回のように一時的に湿った空気が入ったときや、低気圧が通過した後、湿った空気や強風が残っているときにできることもあります。そのようなときは、天気の崩れに影響しないことが多いです。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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台風19号による登山道、山小屋などの被害状況につきまして

2019-10-14 11:35:18 | おしらせ

ヤマテン会員各位

平素より「山の天気予報」をご利用いただき、まことにありがとうございます。
このたびの、台風19号による甚大な被害に社員一同、大変心を痛めております。
亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様には謹んでお見舞い申し上げます。

さて、南アルプス、八ヶ岳では登山道が通行できない場所があります。山小屋でも一部、被害を受けている所があります。高尾山でも倒木が多く発生している所が多く、昨日は登山を見合わせるような通達が出ています。台風の被害が大きかった山域では、必ず登山道の状況を山小屋などにご確認ください。

「やまどうぐレンタル屋」の社長山田さんのブログに登山道の状況が掲載されておりますので、ご参考までに。

https://atsushiyama.com/blog-entry-hagibis-damabges.html

また、登山口までの林道も南アルプス、八ヶ岳など通行止めになっている所が多くなっています。
林道の通行止めの状況については下記のホームページやそれぞれの管理者にご確認ください。

長野県松本建設事務所
https://www.pref.nagano.lg.jp/matsuken/doro/kotsu/index.html

静岡市
https://www.city.shizuoka.lg.jp/000_004397.html

山梨県
https://www.pref.yamanashi.jp/rindoujyouhou/kisei.php?id=4

株式会社ヤマテン
猪熊

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