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ハニカミ王子「小学校六年生の作文」

2008年04月15日 | Weblog
 私は、三年前のこの時期、「小学校六年生の作文」と題して、今をときめくイチローが小学校六年生の時に書いた作文を取り上げた。

 昨年5月、現在、日本で最も有名なプロゴルファーが、やはり小学校六年生の時に書いた全く同じような作文を知って、私は心底驚いた。ゴルフの世界を通り越して社会現象にまでなった「ハニカミ王子」石川遼の作文である。

 以下、その作文を引用する。

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                 『将来の自分』

 二年後…中学二年生、日本アマチュア選手権出場。

 三年後…中学三年生、日本アマチュア選手権(日本アマ)ベスト8。

 四年後…高校一年生、日本アマ優勝、プロのトーナメントでも勝つ。

 六年後…高校三年生、日本で一番大きなトーナメント、日本オープン優勝。

 八年後…二十歳、アメリカに行って世界一大きいトーナメント、マスターズ優勝。

 これを目標にしてがんばります。マスターズ優勝はぼくの夢です。それも二回勝ちたいです。みんな(ライバル)の夢もぼくと同じだと思います。でも、ぼくは二回勝ちたいので、みんなの倍の練習が必要です。

 みんなが一生懸命練習をしているなら、ぼくはその二倍、一生懸命練習をやらないとだめです。ぼくはプロゴルファーになって全くの無名だったら、「もっとあのときにこうしていれば…」とか後悔しないようにゴルフをやっていこうと思います。

 来年には埼玉の東京GCで行なわれる「埼玉県ジュニア(中学の部)」で優勝したいです。今は優勝とか関係ありません。中学生になってからそういうことにこだわろうと思います。高校生で試合に優勝すると、外国に招待してくれます。その試合で世界から注目される選手になりたいです。

 ぼくは勝てない試合には今は出ません。ぼくの将来の夢はプロゴルファーの世界一だけど、世界一強くて、世界一好かれる選手になりたいです。

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 私の能書きは、イチローの作文の分析で書いた拙文「小学校六年生の作文」をご覧いただければと思う。イチローも石川遼も全く同じ目線である。

 「一流のプロ野球選手」と「プロゴルファーの世界一」、「中学、高校と全国大会に出て活躍しなければなりません」と年次ごとに具体的な大会での目標成績、そして、その担保のためにイチローは「練習が必要です」と言い切り、石川遼は「みんなの倍の練習が必要です」と宣言している。

 さらに、私にとって、深く感銘を覚えるのは、イチローの「お世話になった人に招待券を配って応援してもらうのも夢の一つです」、石川遼の「世界一好かれる選手になりたいです」という、高度に社会的な知性を感じさせる言葉である。果たして、小学校六年生でこんなことまでを考えるのかと舌を巻くばかりである。この言葉は、間違いなくご両親をはじめとした周りの大人の教育の影響であろう。「栴檀は双葉より芳し」ばかりでもあるまい。

 石川遼は、あの昨年5月の優勝スピーチにおいて、「世界中の人に心から愛されるプロゴルファーになるのが夢」と言い切っている。ハニカミ王子の意識には、六年生の作文を締めくくっている通り「世界一強くて、世界一好かれる選手」になること、それしかないのであろう。

 さて、ここまでは、先に書いたように、三年前の拙文の焼き直しである。これだけだったら、私は新しい文章を書き起こすことはしなかった。気が変わったのは、石川遼のお父さん石川勝美氏の著作「バーディは気持ち」を読んでからである。

 その著作の中で「師に恵まれて」という項がある。その中に、まさに小学校六年生の石川遼くんがこの作文を書いた、いや、書けるに至った経緯が詳細に述べられている。

 少々長いが引用する。

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 ゴルフの試合で学校を休むことが多くなった小学校6年生の担任の先生は、休むことに対して、決して否定的ではなく、逆に試合の成績を学級新聞に掲載して応援してくれた。

 ゴルフというスポーツは、子供たちにはなかなか理解されず、校内でもゴルフをやる子は遼ひとりだったにも関わらずだ。そして担任の先生もゴルフをやらない。しかし、「ひとつの物事に打ち込む姿」を評価し、応援してくれたのだ。それ以前の遼は、ゴルフをやる子がいないということもあって、学校で試合やゴルフの話題を出さなかったという。

『試合があったら、また、報告してね。クラス皆で応援するよ』

という先生に、遼は、『うん!』と明るく答えた。こうして、クラス内に自分の理解者を増やし、そして、小学校の卒業文集に、堂々と『マスターズ優勝』の誓いを書くことができたのだ。

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 文字通り、「師に恵まれて」である。この先生がいなければ、あの作文はなかった。私たち凡夫は感動を一つ損するところであった。

 さて、ハニカミ王子は私のようなゴルフに縁のない人間をひきつけただけではなく、ゴルフ取材においては百戦錬磨の報道陣までをも味方にしてしまった。

 昨年7月、先の作文によるところの、この年に優勝すると宣言した日本アマ選手権が行なわれた。ほぼ全てのマスコミからの注目を一身に浴びる中、ハニカミ王子は、残念ながら予選落ちをしてしまった。涙をこらえながらもしっかりとした受け答えで取材を受け、会見が終了。席を立つ記者たちを前に、置きかけたマイクを自ら握り直した。
 「これからも見守っていてください。頑張ります」

 思わず、会場から一斉に拍手が沸き起こった。勝利者の会見でもない、ギャラリーやファンからでもない、報道陣から自然に拍手が沸きあがったのである。