無知の知

ほたるぶくろの日記

ステロイドホルモン

2016-02-11 17:06:56 | 生命科学

ステロイドホルモンの威力はすごい、と実感するのは子どもたちの第2次性徴。こちらは小学校高学年位から学校の保健体育の教科書にも取り上げられているので皆さん知識は豊富です。おまけに色々な興味も呼びますから、あれやらこれやら微に入り細に入り説明された本やサイトやもううんざりするほどありますね。

ですが、その他の人生におけるステロイドホルモンの威力と言ったら殆ど情報はないに等しい。せいぜいアレルギーを抑える時のステロイド剤の効果くらいが良く知られていることでしょうか。あとは髪の毛に関すること。男性ホルモンが多いと禿げ易い、なんていう情報も結構広まっています。

しかし、女性にとってはステロイドホルモンは本当にものすごい影響力を持っているのです。ステロイドホルモンは脂溶性ですから細胞膜をするっと抜けて細胞内には入ります。しかし作用を表すためにはそれをキャッチするレセプターが必要です。ステロイドレセプターの数は少なく核内にあったため、発見はかなり遅く、1961年。遺伝子がクローニングされたのは1980年代です。その後、ステロイドレセプターは身体のどこにあるのか調べられました。それを調べれば、ステロイドホルモンの生理機能の範囲が明白になるからです。その結果、脳を含め身体中くまなくレセプターのあることが分り、どうやら非常に幅広い作用のあることが判明しました。

ステロイドホルモン、と言っても実は沢山の種類があります。良く知られたコルチゾール(糖質コルチコイド)、アルドステロン(鉱質コルチコイド)、そしてアンドロゲン、エストロゲン、黄体ホルモン(プロゲステロン)。まあ、それはおいておくとして、私が実感するステロイドホルモンの効果とはもっぱらエストロゲン。生理前の様々な身体の変化も面白いものですが、妊娠、出産の時の変化は驚くべきものがあります。

妊娠中はこんなにも変わるんだ、というほど身体が変化します。身体だけではなく、脳の方も変化します。どちらかというとぼーっとして、考えることが面倒くさい感じがします。その一方で、気分は穏やかになり、明らかに鷹揚になりました。これは脳内にもレセプターがあることから、脳にも何らかの変化を起していることを想像させます。味覚、臭いに対する感じ方も変化します。私はにんにくの香り、焼き肉の香りがまったくダメになりました。焼き肉系のほか、出汁の香りもダメでした。お味噌汁など、香りを嗅がないようにしていました。その一方で、ごはんは何ともなかったです。炊きたてごはんが気持ち悪くなる、というのは良く聞いた話だったのですが、私は全く問題なかったです。また、酸味のあるものには全く興味がなかったです。広く言われているので、どんなに食べたくなるのか興味津々でしたが、全くそういう欲求はありませんでした。どちらかといいますとダメになったものの方が多く、これが食べたい、というものはあまりなかったですね。食べられなくて往生しました。後期ではさすがにヘモグロビンが落ちてきて、鉄剤を処方されていました。

ところでこの間、エストロゲン、プロゲステロンは高濃度で推移します。そして出産を経て急激に減少します。この時の変化がまた劇的。子宮が収縮したり、乳汁の分泌がはじまったり、代謝が変わったり、という変化の他にも様々なことがあります。

私自身はあまり感じていなかったのですが、友人は「ものすごい量の髪が抜けた」と言っていました。これはこのホルモンの急激な減少によります。それから気分の落ち込み、イライラ。妊娠期間中のあののんびりとした気分はどこかへ行ってしまいます。もっとも赤ちゃんが外に出てきて、やらなくてはいけないことが沢山あることもありますが、エストロゲン急減少の影響も大きいと思います。出産直後1ヶ月はまわりの方がお母さんをよく看てあげなくてはいけません。私の場合は鈍感なせいか、何となく元の自分に戻ってきた感があって、特になんとも思わなかったのですが、ホルモンの影響を受け易い方は気分の落ち込みも激しいかもしれません。かわいい赤ちゃんの寝顔をゆっくり眺めて、のんびりするのが一番です。

さて、そうして次の変化の時が更年期です。今度は思春期以来ある程度の濃度を保ってきたエストロゲンがぐっと下がります。いわば第2次性徴の逆バージョンが進行するわけで、身体の変化は大体予想がつきます。しかし、第2次性徴では関係なかった変化もいろいろ現れてきます。その一つがLDLの上昇です。この機会に、とここ10年くらいのLDLの数値をグラフにしてみました。

2011~2012年にLDLが32mg/dl一気に上昇しています。もちろん、治療域に入っていたわけですが、更年期の変化、と捉え放置。そして2013年には最高値を記録し、その後は毎年数値は下がり、今年はめでたく正常域に入りました。

2012年、総コレステロールにして一気に42mg/dlも数値が上がったときにはちょっとびっくりしました。あれっと思って心当たりを探ったのですが、すぐにそうか、と思い当たりました。健康診断結果票には要治療の文字がありましたが、いろいろ調べてみますと、更年期の女性のコレステロール値には諸説あることも分りましたし、これは大丈夫、と思いました。

それでもこの数値が下がってくるのかどうかは観察しないと、と思い、毎年欠かさず健康診断は受けてきました。そして今年の結果をみて、なるほど、と改めて思ったことでした。このきれいなカーブを観ていますと、人間の身体調節機能の素晴らしさを実感します。

これからまだまだいろいろな変化が現れると思います。今ちょっと気になっているのは髪の毛。若干薄くなってきたな、と思っています。これもエストロゲン低下の影響の一つでしょう。対して思春期の子どもはふさふさボリュームのある髪の毛を持て余しています。それを観ながらつくづくステロイドホルモンの効果ってすごいな~と思う今日この頃ではあります。その他これから気をつけなくてはいけないのが、骨密度、カルシウム代謝です。これも正しく年を取るためには重要なファクターなのですが、いかんせんいきなり骨密度を測ってもどうしようもありません。なんでどうして骨密度低下に至るのか、下がるのは致し方ないとはいえ、普通に生活できなくなるようでは困ります。それを防ぐのには何が重要なのか。これからの課題です。

男性ももちろん更年期がありますが、女性ほどには顕著ではないようです。男性は第2次性徴以来、目立った変化をすることがあまりないので、ステロイドホルモンの効果を実感する機会がありません。どんなにこのホルモンが多細胞生物の代謝、その他諸々を調整しているのかに無頓着なようです。女性があれこれ身体の変化を言い立てるのを不思議そうに観ていますが、これはなかなかすごいことですよ。ちょっと体験できなくて残念かも、ですね。