今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

小田晋と夏八木勲を悼む

2013年05月12日 | 時事
精神科医の小田晋先生が亡くなった。
テレビや本などで有名なだけでなく、個人的にもお世話になった。

大学の学部時代には、「狂気」についての講義を聴き、その博識ぶりに驚いた。
大学院時代は「精神病理学」のゼミを受け、私は現象学派(ビンスワンガー)の発表をした
(皮肉な事に、この発表が現象学派から一時期遠ざかるきっかけとなった)。
院生が発表している間、先生は目を閉じて、うつむいて動かない。
まるで居眠りしているようで、心配になる。
でも発表が終わると、おもむろに目を開け、適切なコメントを下さる。
院生に対しても、「先生」という敬称をつける。

院を出た後、定職がなくて苦境に陥っていた時、
精神病院への照会状を書いていただいた。
残念ながら、病院が求めている人材でないため、
そこに勤務することはなかったが。

小田先生は、自分は幻聴がすると公言していた。
対面すると、一種異様な雰囲気(プレコックス感?)を感じさせた。
自身にある強い”狂気”に屈する事なく、
それさえ糧にするさらに強い精神力をもった精神科医。

それでいて病者に対する過剰な同情をせず、社会秩序の維持を優先するので、
正義ぶった側から厳しい攻撃を受けた。
それに屈しなかったのは、狂気を他人事ではなく、
内なる現象として常に抱えながらもまっとうに生きている者として
精神病者といえども、本来社会秩序の中で生きていく能力があることを
すなわち、責任能力があることを確信していたからかもしれない。


俳優の夏八木勲の訃報もショックだった。
風貌からして味、いや凄みのある俳優で同期の原田芳雄とともに好きだった。
硬骨感の役柄にピッタリの人で、
私は、三谷幸喜の大河『新選組!』の続編の『土方歳三 最後の一日』での
箱館山で息子ともども散った中島三郎助の役が印象に残った。
男の生き方(死に方)を演じるなら彼こそ最適の人だ。

基本スタンスは”名脇役”だが、
最も最近では、主演(やはり硬骨感)した原発映画『希望の国』。
最後の彼の主演は、われわれへの遺言として受けとめたい。

自分に厳しい男たちが、逝ってしまった。合掌