山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

拝啓小泉首相殿

2004年07月23日 | 政局ウォッチ
9月に予定される内閣改造・党役員人事が、今後2年の「後期小泉政権」の行く末を占う意味で注目されているようです。内閣に党の実力者を入れて「挙党態勢」をつくるか、それとも若手を登用して「サプライズ効果」を狙うか―。

参院選で傷を負った小泉さんは、中曽根元首相や森喜朗前首相らの進言を受け入れて挙党態勢に傾くであろう、というのが大方の予測。「小泉首相は勝負に出る」と見る評論家もいますが、少数派のようです。

その意味では、私は少数派に属するかも知れません。そもそも小泉さんが首相を目指した最大の動機は「郵政3事業民営化」だったはず。しかし、それは利権と引き換えに集票組織に乗っかっていた「古い自民党」をぶっ壊さなくては出来ませんでした。

将来的には自民党を、無党派保守票の受け皿となる「普通の保守政党」に改造しなくてはならないが、事はそう簡単ではない。先に集票組織を壊すと選挙で負ける。選挙で負ければ郵政民営化も出来ない―。

そんな矛盾に満ちたジレンマの中で、あなたは「改革の本丸」攻略のタイミングを、自民党総裁の任期内で国政選挙のない最後の2年間に狙い定めていたのではないでしょうか。

そもそも小泉さんは、内閣発足当初の「8割支持」に対して「ちょっと高すぎる。支持率は5割ぐらいで十分だ」と発言していました。最近の調査では4割に落ち込んでしまいましたが、ここまで高支持率が維持できるとは考えていなかったことでしょう。

「郵政」は最後にとっておき、それまでは徐々に支持率を減らしながら、その他の改革を小出しにしつつ、政権を維持していく―。それが小泉さんの「捨て身の戦略」だったのですね。

ところが、思ったよりも党内の抵抗が少なく、予想外に早く道路公団という「内堀」を埋めてしまったため、昨年暮れから今年7月の参院選まで、「本丸」を目の前に何もすることがなくなってしまったようです。「改革は停滞している」という雰囲気が醸成されたところで、タイミング悪く年金制度の応急措置を迫られました。

思わず「年金制度の抜本的改革」とぶち上げてしまったものの、想定外の改革ですから、中身がない。「一元化が望ましい」とは言ったものの、財源の問題はどうするか。思えば「任期中は消費税を上げる環境にない」と言ってしまった後でした。

結局、公明党と厚生労働省の主導で、不足分を穴埋めするだけの「改革案」を通してしまいました。それならそれで「抜本的改革」などと思わせぶりなことを言わなければよかったのです。年金法案は「小泉改革、看板に偽りアリ」との印象をさらに強めてしまっただけに終わりました。

その結果、参院選で敗退。内閣支持率も当初の目安だった「5割」を割り込んでしまいました。選挙後の首相の態度に「反省がない」との批判がありますが、反省していても顔に出さないのがあなたの性格。

問題は「反省」をどう表現するかです。自民党解体工作を反省し、集票組織の重要性を認識すれば、小泉改革はジ・エンドです。あるいは、抵抗勢力との抗争を反省し、挙党態勢が重要と認識すれば、小泉改革はスローダウンするでしょう。

しかし、有権者が望む「反省」はそうではないはず。それは「謙虚な姿勢」と「説明責任」です。ただ、「改革は中断してます。年金法案は撤回します。私が悪うございました」と謙虚に陳謝すれば、内閣は総辞職を迫られるでしょう。

首相が説明責任を果たすということはどういうことか。それは「実は私の戦略は、集票組織の協力で最後の選挙を乗り切った後、彼らを裏切って、郵政事業の民営化を断行することです。それさえ実現すれば、赤字財政も無駄な高速道路の問題もすべて解決する。だから、国債30兆円枠の公約破りは大した問題じゃないと言ったんです」と公言すること。敵に手のうちを見せるようなものですから、これも出来ません。

それよりも小泉さん、あなたに本当に反省して頂きたいのは「改革という名でお茶を濁すな」ということです。医療制度三方一両損改革、地方分権三位一体改革・・・。これまで、郵政民営化着手までの場つなぎとして、どれだけ多くの「抜本改革」が消費されてきたことでしょうか。
そのたびに国民は、改革の名と結果の落差に失望し、小泉内閣から離れていったのです。

最後のハードルだった参院選は終わりました。駆け引きの段階は去り、いよいよ「改革」の真意を語るべき時期が来たのです。これまで選挙のための「協力勢力」として妥協してきた橋本派に、もはや遠慮は無用です。かつての小泉節でアッケラカンと裏切って、どんどん郵政民営化に向けて突き進んで頂きたい。

選挙でお世話になった公明党・創価学会の皆さんにも、もう遠慮はいりません。憲法改正だって、連立解消だって、どんどん進めて下さい。「選挙の借り」に遠慮をしていては、国民のための指導者は務まりません。民主党代表選の後、旧民社党から幹事長を起用した鳩山さんのその後を思い浮かべて下さい。今、首相に求められているのは、冷徹な「裏切り」に他ならないのです。

「小泉首相、今日も反省ナシ」―。新聞は書くでしょうが、大いに結構じゃないですか。反省だけならサルでも出来るのです。反省を口にするヒマがあれば、郵政民営化の意義を、雄弁に、朗々と国民に説明して下さい。

文字通り、これがラストチャンスなのです。最後の改革も「偽り」であったなら、今度は国民が首相を裏切る番でしょう。挙党態勢かサプライズか―。無党派層の多くが「首相の決意」を見極めるため、9月の人事に注目しているのです。(了)


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