山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

「国連待機部隊」論争に思うニ、三の不安

2004年01月19日 | 日本の外交
民主党の小沢一郎代表代行のかねての持論である「国連待機部隊」構想が本格化しそうだ。党内左派の重鎮・横路孝弘氏が昨年暮れ、小沢氏に賛意を表明し、これを受ける形で、菅直人代表も年頭の党大会で積極的な姿勢を打ち出した。

小沢氏は「夏の参院選までに、党内のコンセンサスを得たい」と勢いづいているが、党内からは早くも同構想を疑問視する声も出ており、先行きは不透明だ。

★「小沢構想」の原点

小沢氏の主張は「自衛隊は憲法第9条の趣旨から専守防衛に限定し、国連が行う平和維持の行動には、自衛隊とは別組織の国連待機部隊を作り、国連決議に基づいて参加すべきだ。これならば国内外の理解も得やすい」というもの。

実は菅氏は、細川政権、自社さ政権で与党側にいたころから、この「小沢構想」に理解を示していた。しかし「防衛庁内部に反対が根強い」として具体化させる努力をしなかった。

その間にも、自衛隊は、ペルシャ湾、カンボジア、モザンピークなどでPKO活動の実績を挙げてきた。ここに来て、菅氏が「国連待機部隊」構想に改めて意欲を示しはじめたのは、小泉政権のもとで自衛隊が「国連決議なきイラク復興支援」に向かうことへの強い危惧があるのだろう。

これに対して、鳩山由紀夫前代表からは「同じ仕事をするのに、自衛隊ではだめで国連待機部隊なら構わないというのでは自衛隊がかわいそう」(1月16日付けメールマガジン)との批判が出ている。集団的自衛権などの憲法問題を決着させた上で「正攻法で国際貢献を行うべき」という主張だ。

鳩山氏は、日本の保守政界では数少ない「自主国防」論者であり、その言動からは「憲法改正により自衛隊を正規軍に位置付けるべきだ」との意向が透けて見える。国連待機部隊が議論の遡上に乗ることで、「憲法」論議が回避されるのでは、との疑念も垣間見える。

★米国の思想的変遷

これに対し、小沢氏は有名な「国連至上主義」者であり、国連の警察権を強化することが先決と説く。

米国も、10年前は小沢氏の主張に近かった。1991年の湾岸戦争は、東西冷戦で機能停止に陥っていた国連が、初めて国際治安維持のイニシアティブを握った画期的事件だった。米国も、国連の役割に期待していた。

しかし、その後の10年、国連は必ずしも米国が期待したような役割を演じては来なかった。中立主義が建前の国連は、がんのように世界をむしばむ「テロ」に対して、国際秩序を変えてしまうほどの大手術を望まなかったからだ。「民事不介入」を口実に暴力団と戦わなかった、かつての日本の警察と同じだ。

業を煮やした米国は、単独行動主義へと舵を切った。これに対し、冷戦後の国連で「常任理事国」の席を独占し続けるフランスや中国、ロシアは、米国が唯一の超大国としてふるまうことに、強い警戒感を抱き、昨年のイラク戦争に至って、国連は再び機能不全に陥ったのだ。

★一流紙「朝日」のこだわり

冷戦終結からの10年と同じように、国連に「世界政府」の役割が期待された時期があった。第二次世界大戦の終結から、朝鮮戦争勃発までの5年間である。

国連憲章も、現在の日本国憲法も、米国の主導権の下、この同じ時期に作られた「双子」である。その根本思想は「戦争は終わった。これからは個々の武力でなく、警察力で紛争を解決しよう」という理想論だ。

当時の一流紙「朝日新聞」は、この思想、この雰囲気を頑なに守り続けた。しかし、生みの親たる米国はわずか5年で、理想論を捨て、「東西冷戦」の現実に立ち向かった。日本に再武装を要求し、在日米軍という軍事力を提供した。

一流紙が一流紙たり続けるには、国際情勢の主流に通じ、常に社論を再点検する必要があったが、「朝日」はその条件を満たすには、あまりに「教条主義的」だった。代わって中曽根政権の中盤から社論を大きく右旋回させた「読売新聞」が、国際情勢に通じた一流紙の地位を手にした。「朝日」の部数減は、「読売」のヤクザまがいの押し売り作戦だけが原因ではないのだ。

さて、この「戦後の5年間」に起きたのと同じパラダイム(考え方の枠組み)変化が、現在の国際社会で起きつつある。東西冷戦の終結で機能回復するかに見えた国連は、2001年9月11日のテロの後、急速に米国人の信頼を失った。

10年前、国連中心主義と日本の国際貢献を声高に説いた小沢氏は、米国のエリート層から「話の分かる政治家」と高く評価されたが、その評価が今でも有効かどうかは、十分な検証が必要だろう。

むしろ、単純な、その場しのぎの感覚で対応しているだけに見える小泉純一郎首相が、実は「米国の変化」に最も敏感に気付いている一人かも知れない。米国は唯一の超大国である。その現実から目をそらして、10年前の持論に固執するのは、かつての「朝日」と同じ過ちを犯すことだ。

小泉首相は、自衛隊先遣隊のイラク派遣に際して「正しい選択だったと、いつか国民が理解してくれると確信する」と述べた。その確信が証明される頃、民主党は政権についているのだろうか・・・。(了)







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