この画像の肖像を見て誰だか分かる人はほとんどいないだろう。しかし、「エリオット波動」と言えば、相場をちょっと勉強した人なら誰もが知っている。この画像の人物、ラルフ・ネルソン・エリオット(1871~1948)こそ、そのエリオット波動理論をゼロから考案した人である。
エリオットは生涯に2冊の本と多くの論文を残した。著作は『波動原理』(1938・名義上の著者はチャールズ・コリンズ)と『自然の法則 宇宙の神秘』(1946)である。最初は彼の理論は必ずしも広く認められたとは言えなかった。しかし、ハミルトン・ボルトン(~1967)がそれを広く紹介したことで、相場分析の世界に普及し、現代では、ロバート・プレクターの活動によってそれが継承されていると言ってよい。プレクターは、エリオット波動協会の会長でもあり、エリオット波動に関する著作もあり、また、エリオットやボルトンの著作を集めて出版する活動も行っている。現在、エリオット波動説が広く知られているのは、このボルトンとプレクター、二人の功績が大きい。前回のエントリーに書いたように、入手しがたかったエリオットの原典が今簡単に見ることができるのもプレクターの努力によるものである(この画像もプレクターの編纂のエリオット原典から借りた)。また、上昇波を1~5、下降波をA~Cで表記する工夫もプレクターによる。
さて、エリオットの業績は通常の見方からすると大きく分けて二つになる。ひとつは、いわゆるエリオット波動と言われる相場パターンを発見したこと、そしてもうひとつは、相場分析にフィボナッチ数列(またその中にある比率の「黄金比」)が有用であることを発見したことである。しかし、エリオットにおいては、この二つは分離したものではなかった。このことはエリオット自身の著作を読むと実によくわかる。
いくつか引用してみる。
「人間の感情にはリズムがある。そして、それは一定の数と方向を持った波として動く。この現象はすべての人間の活動、たとえば、ビジネス・政治・娯楽などに見られる。」(波動原理)「すべての人間の活動には、三つの明示的な特徴がある。それは、パターンと時間と割合である。そしてその三つすべてにフィボナッチ数列が観察される。だから、いったん(その数列による)波動が説明できると、その知識は、すべての動きに適用できる。つまり同じ規則が、株、債券、小麦、綿花、コーヒーそしてその他多くの価格の変動に適用可能である。」(自然の法則)。
ここで、彼は、パターン、時間、割合の三つに言及している。その中の「(波動)パターン」もフィボナッチ数であることは意外に知られていない。しかし、上昇5下降3合計8波の基本波の、3,5,8はフィボナッチ数列である。また、その小波が合成されて、5回で上昇し、3回で下降すると、波の合計は、上昇で5+3+5+3+5=21、下降で5+3+5=13で、合計34波になるが、13,21,34もすべてフィボナッチ数である。ちなみに、もうひとつ大きな波は、上昇89波、下降34波、計144波のフィボナッチ数である。
「割合」については戻し(リトレースメント)の理論等として有名であるが、フィボナッチ数列からすべて演繹できることが知られている。
1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,
1÷1 100パーセント(全戻し)
1÷2 50パーセント(半値戻し)
2÷3 67パーセント(67パーセント戻し)
1÷3 33パーセント(三分の一戻し)
21÷55 38パーセント(38パーセント戻し)
34÷55 61.8パーセント(黄金比)
55÷34 1.618(もうひとつの黄金比)
相場の中にフィボナッチ数からなる波があるとすれば、その波が等値だとすると、その単位で戻しが起きるとすれば、戻しの割合は、フィボナッチ数同士の割り算から算出できるのは当然であるということになる。
「時間」とフィボナッチ数についてはここでは省略するが、エリオット自身もダウの動きと月数の関係で詳しく述べている。
このようにエリオット理論は、相場を人間心理の波として把握し、その波の本質を、パターン、割合、時間として捉え、その全てにフィボナッチ数が関与していることを明らかにしたものなのである。エリオット自身の著作を読むことでその理論的体系の奥行きがわかり、さらに深く理解することができるので、時間のある方にはぜひお勧めしたい。
| Trackback ( )
|