けぶる稜線

ひいらぎのとげが語る

「人違いだよ」、初めてのロンドン観光

2019-06-25 09:46:00 | 小説

お前あそこの日本レストランで働いているだろう
え? はっ? 働いてないよ
ウソ言え、ずっと前から働いてただろう、知ってんだから
日本人はみんなそう言って誤魔化すんだよな

ノルウェー最南端のスタヴァンガーからフェリーに乗り
ロンドン北東部の辺鄙な港に着いた
よろよろと港を出たバスから見える栗の大木群に実が付いているのに驚いた
それにも増して、ロンドンの街角で会った日本人にはもっと驚いた

延々と田舎道をうねって走るバスに不安と落胆を覚え
夕方近くにロンドンの地下鉄に乗った
話し声が聞こえない背の高い人々で混雑していた
良質の布地を纏った人々の間に隠れる都会人の粒子が刺さる

市内観光巡りに飽き、あてどもなく歩いていた
レンガ造りの建物群の中をTシャツ姿で闊歩していた
夏季休暇取得で訪れた初めてのロンドン
町には甘い空気が漂っていたロンドン

霞ヶ関で働く人間を押し込んだみたいな地下鉄に幻滅し
フィッシュ&チップスを求めて朝の安ホテル街を歩く
目に入ったのは、人のいないこぎれいなパブで新聞を広げている老人だけだった
乗換駅確認の東洋人の問いに困惑し、ぶっきら棒に答える女性みたいだった
(1980年初頭)

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