けぶる稜線

ひいらぎのとげが語る

人間の心を獲得した人形

2018-11-05 19:07:21 | 日記


人間そっくりな姿をした、かって、人形と呼ばれた同士が濃厚なベッドシーンを繰り返している。それを偶然覗き見てしまった。人間 に属していた彼は身も心も震え、凍りつくように立っていた。彼らを凝視している自分自身の存在が何なのか分らなくなってしまった。

喜怒哀楽の情、囁く声、それに呼応し気管から喉を通ってかすれる声。漏れて聞こえてくる喘ぎ。生きた人間そっくりだ。かって、人形っ! とさげすまれ、机やベッドの端、椅子の背もたれなどに打ち付けられ、最後には箱に投げ込まれていた人形。今や、不老不死の生命を与えられた創造物だ。それも、人間の心を奪い取って生き繁殖しているのだ。

年齢を重ねていても、顔のすべすべした、きれいな人形。そんな人形が、かって存在し動物界に君臨していた人間と呼ばれるものと同様な生活をしている。あらゆる行為が、人間やそれに属する動物の日々の営みであったものが繰り返されている。

学校では、小さな人形が人間の子供が学んでいたように椅子に座り学んでいる。俺は、このオレは、何なんだ。今、オレは何処にいるんだ。この世界は、どうかしてしまったのか。ここは何処なんだ。ふらふらとよろけながら外へ続く木の廊下をドアに向って歩く。やっとのことでドアの取っ手を廻し押した。何処も何もかも同じなのに、そこにいる住民が全く違う。奇妙な想像したこともない未知の生物というか、かって、人形と称されていたものに置き換えられ、その社会が機能し維持されている。

外に出た。木々の葉はそよそよと風に吹かれている。でも、よく見ると、みんな幼いころに一人で遊んだ人形や家、街路樹などの模型とそっくりだ。表面のシワシワがなく光っている。あらゆる人形が動き回っている。働く人形の集団。カフェに集まって談笑している人形。人形同士が愛し合っているなんて、どうしてしまったんだ。

人類は不要になったので、ゆっくりと深海に落ちてゆく海の中のホコリのように滅んでしまったのだ。そして、今はその痕跡すら残っていない。ああ、と叫ぶ間もなく、火砕流で山林が一瞬で白くなったように、発狂する自由も奪われ、生きている化石のように、白髪の皺だらけ顔になって這いずり回る老人になっていた。



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