けぶる稜線

ひいらぎのとげが語る

君は悲しくないのか

2019-06-22 19:48:52 | 小説


エーゲ海の白波さざめく中に
海草と戯れていた君よ

偶然のいたずらで
海草の腕ならぬ猟師の網に手をかけたのが間違いのもと

地中海の太陽と遊び疲れ
ふと伸ばしたその腕のためか

君の内に秘めた深く冷たい体を
ギリシャの太陽にさらそうとしたのか

それとも
深く青いエーゲ海に立つ白亜の家々と競争したかったのか

埃は君の肩や腕にたかってゆくけれど
優しく歌う波はいない

ただ、君の名声を一新に受けるのみ

君は悲しくないのか
常に変らぬ愛をささげてくれた友を失って

君は悲しくないのか
昼に夜に語った友を失って

太陽の光と月の光を失って
君は悲しくないのか

君の今は
満月の友が見せる抱擁の片鱗のみだ

ああ、君は悲しくはないのか
好奇の眼にミロのビーナスなどと呼ばれて
(1,984年12月28日)


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