おもしろニュース拾遺

 BC級ニュースが織り成す可笑しくも愛しい『人間喜劇』。おもしろうてやがて悲しき・・・

「山崎えり子」事件に判決

2006-02-16 21:23:16 | 詐欺
 直接個人を傷つける行為よりも、「お上」のつくった制度に刃向かう行為をより厳しく罰するのは権威主義的国家の特徴だが、日本の法律にもそういうところがある。徳川時代の名残と言ってもいい。例えば酔っぱらい運転で人を殺しても、「反省しているなら刑務所行きは許してあげる」ということも珍しくないが、お役所の書類に嘘を書いた「だけ」で懲役刑を食らう人もいる。
 あの「山崎えり子」(仮名)事件に判決(共同2月16日など)。懲役1年6月。罪は「公正証書原本不実記載・同行使」。この罪名をそらで言える人は法律の専門家だ。分かりやすく言うと偽名をお役所の文書に書いてしまったということ。名義の偽装だ。
 「被害者」はお役所だろう。3年の執行猶予がついているが、感覚的にはえらく重いなという感じ。もちろん「山崎えり子」を庇っているのでない。「本来の罪」は問われずに、「被害者のない」罪状だけが取り上げられたことが釈然としないだけだ。

◆「浪花節」では説明にならない

 判決直前の15日に毎日新聞が「<偽名人生>苦難の末…決別誓う 人気エッセイストに判決」という浪花節的な記事を載せている。
 「山崎えり子」の「苦難」とは何か?
<法廷での供述などによると、山崎被告は幼いころ、母親と父親が相次いで蒸発して親類に預けられた。成人後、給料日になると親類から無心された。逃げようと転居しても、転居届を足掛かりに追いかけられた。「本名で申告すれば親類に住所が知られると思った」。>(毎日)
 だから知人から(借金を肩代わりする代わりに)借りた性を使い、内縁の夫との婚姻届を”偽装"した。「山崎えり子」は法廷で「本名は捨てたほうが楽だと思っていた」と供述したという。

 この事件の最初の報道では分からなかった偽名の理由については、半分は分かってきた(ただ、親類から逃れるというなら、なぜマスコミに露出していたのか辻褄が合わないが)。確かに、幼い頃から親類に養われるという肩身の狭い思いをしてきて、自分を守るために嘘をつかなければならず、「偽装」が人生の一部になってしまったという気の毒な面はある。同じ時に共犯で懲役刑を宣告された内縁の夫も「彼女がふびんで、何でもしてやろうと思った」と法廷で号泣したそうである。

 しかし裁判は、したがって「山崎」本人も、実はもっと重い罪、つまり”公人”として、ベストセラー作家として何百万の読者を欺いた行為については、言及もしていないし、謝罪反省一切なしだ。彼女が著書で紹介していた経歴は一切が嘘だった。さすがに「不幸な生い立ち」だけではこの「経歴偽装」は説明できない。「山崎えり子」のデビュー作は80万部を売ったという「節約生活のススメ」だったが、あの姉歯建築士は「鉄筋節約のススメ」を実践した理由として「妻の病気治療費」をあげていた。どちらも偽装の大家だが、どちらも正当化の理由が理由になっていない。「山崎えり子」にいたっては説明さえないのでないか。

◆出版社には「ヒューザー」と同等の責任

 このBlogに書いた「山崎事件」の記事に寄せられた多くの「被害者」のコメントやトラバからも、その罪の重さが分かるが、「裏切られた」という感情は法的な救済は難しい。ただこの経歴偽装には出版社の編集者が片棒を担いでいるはずだが、責任を転嫁して逃げている。例えば、「節約生活ー」を出版した飛鳥新社は「山崎えり子」逮捕の後以下のようなコメントを出しただけである。
 この度「節約生活のススメ」の著者、山崎えり子さんが刑事事件の被疑者として逮捕されましたことは、当社として、大変遺憾なこととして受け止めております。
当社より出版された「節約生活のススメ」は・・・、事実上の絶版状態となっております。
(中略)
 なお、山崎えり子さんとの連絡は、現在とれておりません。
2005年11月28日

 もう連絡は取れたのだろうか。「山崎えり子」と出版社の関係は、ちょうど姉歯とヒューザーの関係に等しい。あのヒューザー小嶋社長でさえ、弁償すると言っているのだが、本を売って儲けた出版社で返品・返金に応じると表明している社はあるのだろうか。
 「山崎えり子」の最後の本が、冒頭に掲げた「家計簿」?だ。2006年版だからこれを使って「節約生活」を送っている人はあるのだろう。「山崎被告は涙を流して偽名人生との決別を誓った。」と毎日新聞は結んでいるが、「偽装人生」にはまだ決着はついていないことには触れていない。こんなことでは、山崎えり子・姉歯秀次共著『偽装と節約のススメ』が出版される日も近いのではないか。


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1 コメント

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出版社の法的責任と本人の責任 (さくさく)
2006-02-26 16:08:22
こちらのブログでも、

この事件は「詐欺」にカテゴリされていますよね。

そのとおり「詐欺事件」ではないか、と、思います。

何らかの形で、法に触れているのでは、

という視点で書いたのでTBします。
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