月天心京都タワーはビルに乗り
僕は貧乏学生なので、京都に遊びに行く際には、夜行バスを使う。バスの車中では灯りは消され、カーテンは閉められ、全員が眠るしかすることがない。
そんなバスに乗って京都から東京へ帰るとき、動き始めたバスの中からカーテンの隙間にちらりと見えたものは、かの京都タワーだった。このタワーは、JR京都駅のまん前に立ち尽くしている。
タワーなのだから、本当は「立ち尽くしている」ではなくて、「聳え立っている」とでも形容したいところなのだが、そういうたたずまいではない。このタワーはビルに乗っているのである。くすんだ白色の建物。
駅の前の建物、あたりには民家も見当たらず、しかも観光のために特化していて、おそらくは何も地域生活と結びつくところのものはないタワー。それなのに、東京タワーほど光り輝くわけでもない。この、あられもなくビルの上に乗せられてしまっている、くすんだ白いタワーが、東京へ帰る夜行バスの窓のカーテンの隙間にぼうっと浮かび上がるとき、僕はかえって、旅情、という言葉を思い出す。
すわりの悪いタワー。中途半端に年をとった建物。寄る辺なくぼうぼうと光る月が、夜空をしずしずと進むから、そんな京都タワーも寄る辺がない。
作者は、すずきみのる(週刊俳句落選展より)