のり巻き のりのり

飾り巻き寿司や料理、己書、読書など日々のあれこれを書いています



血脈

2017年01月18日 | 読書
青空が広がり、陽ざしが室内に入り込むのはうれしい。
温室のような部屋で、ちょっとずつ移動しながらゆっくり本を読む幸せ。

やっと読み終えたのは「血脈」 佐藤愛子 文藝春秋

    

今売れている「90歳、なにがめでたい」の佐藤愛子氏の本です。
ユーモア小説作家として、また歯に衣着せぬものいいでのエッセイなど、これまでもたびたび読んではきましたが、これは長編なので未読でした。

平成12年菊池寛賞を受けた作品なので、読んだ人も多いと思います。
それにしても、65歳から78歳まで十数年にわたって書き続けた実録で、その気力が今に続いているというのがすごい。

読み始めたら止まりませんでした。さすが600ページからの上中下3巻ともなると、時間がかかりましたが。
佐藤愛子の父親、佐藤紅緑、異母兄であるサトウハチローを中心に、佐藤家の人々すべてを実名で書いている家族私小説です。

 父 佐藤紅緑  母 シナ 異母兄 サトウハチロー

佐藤紅緑は女優上がりの若い女を妻にして、先妻と4人の息子を捨ててしまいます。
捨てられた4人の息子は、長男のサトウハチローを筆頭に相次いで「不良少年」になり、次々にトラブルを起こし、父親を悩ませることに。

「紅緑は人一倍高い理想を持ちながら、どうすることもできない情念の力に押されて、我と我が理想を踏みにじってしまう男だった。
ハチローは感じやすくセンチメンタルで、無邪気な人間であるが、その一面、鋼鉄の冷たさと子どものエゴイズムを剥き出しにする男だった。」

サトウハチローといえば、やさしい詩が今も思い浮かぶけれど、この本を読んだらイメージが変わりました。
なんとはちゃめちゃな人だったのかと。

校歌もたくさん作っています。ものの2,3分で作って高い作詞料を求めたとか。

「あかりをつけましょ ぼんぼりに・・・」 の「ひなまつり」の作詞もサトウハチロー
こんなきれいな詩を作る人なのに、虚実定かでない二重人格、エゴイスト、アドルム中毒者だったことに驚きを禁じ得ませんでした。

自分の身内のことを、こんなにまで書いていいのかと思うほど丸裸にしています。
描写する愛子氏も父親や兄の血を引いているという。

けれど父や兄とは違う常識の範疇をもち、あくまでも客観的に書いています。
最終的に人間理解にたどり着くところで読者はほっとするのです。

荒ぶる血の流れが、たしかに続いていることを感じさせる熱い内容でした。
今年93か94歳、女性として文壇の重鎮として筆を執り続けてほしいものです。

ああ、おもしろかった。